22 噂話
二人は見るからに冒険者と言った風貌だった。
偶然ギルドで会って一緒に食事をしようということになったようだ。
僕はゆっくりとお茶を飲み、くつろいでいるふりを装い、隣の席の会話に耳を傾けた。
「なんだ、お前。ガヴエニャックから帰ってきたのか。あそこは今、国王が病に臥せっているんだろう? 容態はどうなんだ、持ち直しそうか?」
勢い込んで問い詰める男に対して問われた方の男はゆっくりと首を横に振る。
「あまりいいとは言えないみたいだな。もう長くないらしい。崩御の知らせが出てくるのも時間の問題だろう。ただ、誰が後継者になるかで王宮内で揉めているみたいなんだ」
僕は男達の話で以前父さんと母さんが話していた事を思い出した。
ガヴエニャック国王には息子が二人いて、第一王子は獣人達をガヴエニャック王国から追い出すつもりらしいと言っていた。
『第一王子が国王になったら私達はここに住めなくなっちゃうの?』
『すぐには追い出されないとは思うが、早く出ていけとせっつかれるだろうな。そうなる前に何処かに移住先を探すか?』
『第二王子だったらそんな事にはならないんでしょう? 何とか第二王子に王位を継いで貰えないかしら?』
『こればっかりは俺達にはどうにもならん。何とか第一王子に考えを改めて貰いたいもんだ』
そんな話を思い出しているうちにも隣の会話はどんどん進んでいく。
「揉めてる? なんだ。すんなり第一王子が跡を継ぐんじゃないのか」
男の質問にもう一人の男は声を潜めてきた。
「第一王子は獣人達を国から追い出そうと考えているらしい。それで獣人達を擁護している貴族達が第二王子を後継者にと推しているそうだ。このまま国王が後継者を決めずに亡くなると骨肉の争いが起きかねないな」
「それは穏やかな話じゃないな。でも何で国王は後継者を決めないんだ?」
「二人の王子は母親が違うらしい。歳も一緒でどちらも優秀なんだそうだ。それで国王も後継者を決めかねているらしい」
第一王子は側妃が、第二王子は正妃が産んだ子供だそうだ。
元々国王は側妃を娶るつもりは無かったが、結婚して五年経っても正妃に子供が出来なかった。
業を煮やした家臣達の進言で仕方なく側妃を迎えたが、その途端、二人とも子供が出来たそうだ。
だが、運の悪い事に側妃の方の子供が先に生まれたのでそちらが第一王子になってしまったという。
しかも、元々正妃の座を争っていた女性だったため、側妃は自分が先に王子を産んだ事で正妃を蔑ろにしているようだ。
国王がはっきりと後継者を決めていればこんな事にはならなかっただろう。
だが、国王にとっても二人の妃が同時に妊娠するとは思ってもいなかっただろう。
何とか国王が持ち直すか、正式に後継者を決めてもらわないと不毛な争いが起こってしまう。
そんな話が隣の席でやり取りをされているのをただ僕は黙って聞いているだけだった。
早くしないとガヴエニャック王国に行っても家族を見つけるより先に国外に出て行ってしまってる可能性もあるということだ。
こんなところでのんびりなんかしていられない。
一刻も早くガヴエニャック王国に行かないと、すれ違いになってしまう。
僕は今度こそ席を立つと食堂を後にした。




