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19 訓練

「…ほ、ほんとにシリルなの?」


 パメラは僕のあまりの変わり様に驚きを隠せないでいる。


「落ち着け。こうして俺達と一緒に帰ってきたんだからシリルに決まってるだろ」


 ロジェがパメラの落としたお皿を魔法で元通りにしてテーブルの上に置く。


「間違いなくシリルだよ、ほら」


 僕はそう言って朝出て行った時と同じ大きさの狐へと姿を変えてみせた。


 狐の姿になった僕を抱き上げてようやくパメラは納得したようだ。


「確かにシリルだわ。だけど一体どうしたらあんな成長した姿になるの?」


 パメラに問われて正直に話していいものか迷った僕はロジェをチラッと見た。


 ロジェはちょっと肩をすくめて諦めたように頷いた。


 リーズが怪我をしたことを告げたらパメラは怒り狂うだろうけど、話の流れ上話さないわけにもいかない。


「実はアルミラージに襲われてリーズが怪我をしたんだ。それで僕がアルミラージを黒焦げにした後でリーズにヒールをかけたら、僕の尻尾が増えてたんだ」


 案の定、リーズが怪我をした、と聞いた時点でパメラはリーズの体をくまなく調べ始めた。


「母さんってば! シリルがヒールをかけてくれたからどこも何ともないわよ。今シリルが言ったでしょ!」


 リーズが抗議するけれど、パメラにとってリーズは大事な一人娘だ。


 そのリーズが傷付けられたと知って怒らない訳がない。


 リーズにたしなめられてパメラはハッと我に返った。


「ごめんなさい、シリル。リーズを助けてくれてありがとう。リーズにヒールをかけたから尻尾が増えたのね。…あら、ホントだ。4本になってる」


 ここに来てようやくパメラは抱き上げている僕の尻尾が4本になっている事に気付いたようだ。


「やっと気付いたか。まぁ、いい。シリルはこうして体の大きさを自由に変える事が出来るようになった。ある程度、冒険者として旅が出来るようになったら故郷に向けて出発する事になる」 


 ロジェの説明にパメラは寂しそうな表情を見せる。


「そう…なのね。シリルにとってはいい事なんだろうけど、やっぱり寂しいわ」


 パメラは僕を抱きしめて優しく体を撫でてくれる。


 その優しい手のぬくもりは母さんにそっくりだ。


 しばらく僕を撫でていたパメラは重くなった空気を払拭するように努めて明るい声を出した。


「さあさあ、お腹が空いたでしょう。ご飯にしましょうか。3人とも体を綺麗にしてらっしゃい」


 僕達は順番にシャワーを浴びて、食卓のテーブルについた。


 食事をしながら、こうして皆と食卓を囲むのはあと何回あるだろうと考える。


 翌日からはロジェに連れられて旅の心得などを教えられた。


 万が一野宿をしなければならない場合のキャンプの仕方などを教えて貰う。


 前世ではほぼ、アウトドアなんて体験した事がなかったので非常に有り難かった。


 ある程度の魔法は使えるが、いざというときに役に立てられないのでは意味がないからね。


 旅をするには当然お金も必要になるので、そのためにも魔獣を狩ってお金にしなくてはならない。


「さて、シリルは空間魔法は使えるのか?」 


 いよいよ魔獣を狩る時になってロジェに尋ねられた。


「空間魔法?」


「魔獣を倒した際にその魔獣を収納する為の魔法だ。マジックバッグもあるが、空間魔法の方が便利だからな」 


 ロジェに教わりながら足元に転がっている小石を拾って亜空間の中に収納するイメージで小石を入れてみた。


 スッと手の中にあった小石が何処かへ消える。


「今度はその小石を取り出してみるんだ」


 亜空間から小石を取り出すイメージを頭の中に描くと手のひらに先程の小石が現れた。


「流石はシリルだな。その魔法が使えれば、狩った魔獣をそのまま収納しておけるぞ。冒険者ギルドに直接持ち込んでも買い取ってくれるからな。多少の手数料は取られるが、その場で解体出来ない時などは一旦収納しておいた方がいいぞ」


 亜空間の中では時間も止まるから腐ったりすることがないらしい。


 超便利な魔法だな。


 こうしてロジェの訓練もやがて終わりを告げる。


 ロジェ達と別れたくは無いけれど、僕には家族の元に帰るという目標がある以上は仕方がない事だ。


 そしてロジェの一家に拾われてから一ヶ月が過ぎた頃、僕はとうとうその日を迎えた。

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