16 増える尻尾
「シリル~、ただいま~」
リーズの声が聞こえたと同時に眠っていた僕の体をギュウギュウと抱きしめられた。
せっかく気持ちよく眠っていたのに…。
くわーっと大きなあくびをして、なおも僕の体を抱きしめているリーズを尻尾ではたいてやるが、まったくお構いなしだ。
「あれ? ちょっと待って!」
僕の尻尾に違和感を感じたリーズが、僕の体から頭を起こした。
「シリルの尻尾が3本になってる! 何があったの?」
やれやれ、やっと気付いたか。
「もっと早くに気付いてよ。今日、魔法で扉を開けたら尻尾が3本になっていたんだ」
尻尾が増えた経緯をリーズに説明すると、リーズは目を丸くしていた。
「魔法で扉を開けられるの? シリル、すごーい」
リーズは手を叩いて喜んでいたが、やがて何かに気付いたようにハッとした。
「尻尾が増えたって事は、人の姿も大きくなったって事?」
見せて見せて、とリーズにねだられた僕はぱっと人型に変わってみせた。
「うわあ~、昨日より大きくなってる。やだ、可愛い過ぎる~」
リーズは僕を抱っこして頬ずりをしてきた。
「はなしちぇ~」
苦しいので必死に逃れようと声を出したのだが、逆効果だったようだ。
「うわぁ、喋れるようになったのね。もっとお話してよ」
リーズがせがんでくるが、流石にこれ以上は相手に出来ない。
僕は狐の姿に戻ってリーズの腕から逃れた。
床に降り立った僕をリーズが残念そうに再度手を伸ばそうとするが、それには応じずに逃げ回った。
「リーズ、シリルと遊んでないで手伝ってちょうだい」
パメラに呼ばれてリーズは渋々と僕から離れてパメラの元へ向かった。
やれやれ、とばかりに僕は寝床へ戻ったが、この後でロジェにも起こされる羽目になった。
「それにしても扉の開閉だけで成長してしまうとは驚いたな」
食事をしながらロジェは目の前に座ってパメラからご飯を食べさせられている僕を見て目を細めた。
今、僕は人の姿になって食事をしている真っ最中だ。
一人で食べられると言ったのだが、パメラは甲斐甲斐しく僕の食事の世話をしている。
リーズも「弟が出来たみたい」とご満悦なので、少しくらいはいいかな、とされるままになっている。
「あと、家の中で使える魔法って言ったら何があるかしら?」
パメラは僕の口の中に食べ物を突っ込みながら、ロジェに聞いている。
「そうだなぁ。食材を凍らせるのはどうだ? それと解凍が出来るかも試してみたらいいぞ」
ふむふむ。
確かにそれはまだ試してないな。
「それが出来たらまた森に行ってみるか? 魔獣と戦えば更に成長するかもしれないぞ」
ロジェの言葉に僕は口をポカンと開けたままで止まった。
魔獣と戦う?
まだそんな事はしたことがないけど大丈夫なんだろうか?
ヘルドッグに囮として対峙したときも逃げ惑うだけで攻撃なんてしなかったからな。
まあ、ロジェが一緒だったら何とかなるだろう。
次の日、パメラに言われるままに食材を凍らせたり、解凍したりして魔法を使ってみた。
尻尾は増えなかったが、少しだけ成長していた。
言葉が多少、滑舌が良くなった程度ではあったけどね。
パメラの手伝いとして家の中で生活魔法を使っているうちに、リーズとロジェと森に行く日になった。
今日も前回と同じく町の門を出てから途中まで馬車に揺られて行く。
「今日は少し奥まで進むぞ」
ロジェの後を僕とリーズは並んで歩いて行く。
狐の姿でも多少は大きくなったので、リーズの隣をちょこちょこと走っているような状態だ。
川のある方とは違う方向へどんどんと進んで行く。
あまり人が足を踏み入れないような場所まで来たが、リーズは大丈夫なんだろうか?
「リーズ、怖くない?」
隣を歩くリーズを見上げると「ん、平気」と言う声が返ってくる。
ロジェの前方でガサガサッという音がして、ロジェが足を止めて身構えた。
僕達もロジェのすぐ後ろで立ち止まって様子を伺うと、茂みの中から一匹の大鼠が飛び出してきた。
「ファイアボール」
すかさずロジェが魔法を当てて大鼠を倒した。
強くない魔獣とはいえ油断は禁物だからね。
一旦、大鼠をマジックバッグに入れて更に進もうとしたところへ、同じ茂みからアルミラージが飛び出してきた。
不意を突かれた形になり、リーズがアルミラージの角を避けきれずに腕を掠めて行った。
パッとリーズの腕から血が飛び散る。
こいつめ!
リーズに何をするんだ!
「ファイアボール!」
逃げて行くアルミラージに向かって僕は魔法を唱えた。
ボウッと一瞬でアルミラージが炎に包まれる。
「シリル! やり過ぎだ!」
ロジェがウォーターボールを飛ばしてアルミラージの炎を消したが、時すでに遅し、アルミラージは黒焦げになっていた。
僕はアルミラージにはお構いなしにリーズの元に駆け寄った。
「リーズ、大丈夫?」
リーズは腕を抑えてしゃがみ込んでいたが、その顔は苦痛で歪んでいた。
「平気よ。掠っただけ…」
だが血が止まっていない。
「ヒール」
僕はリーズの腕に向かってヒールを唱えた。
無意識で唱えたものだったが、リーズの腕の傷は塞がり、服も元通りに戻っていた。
「ありがとう、シリル…」
そう言ったリーズの目が驚いたように、見開かれていた。
その視線は僕の後ろに注がれている。
何だ? まさか?
パッと後ろを振り返った僕の目に4本の尻尾が映った。




