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15 扉の開閉

 僕は自分の尻尾が3本になった事に呆然とした。


 いくら何でも早すぎない?


 だけど、これで体も成長しているのだろうか?


 そう考えた所で、この部屋に入った目的を思い出して、パメラに向き直った。


「そうだ! パメラ、さっきの悲鳴は何だったの? 何があったの?」


 不審者や魔獣に襲われたような形跡もないし、パメラも床に座り込んでいるが、怪我をしているような様子もない。


 一体何があったのだろうか?


 パメラはちょっと気まずそうに僕から目を反らした。


「あー、あれね。…実は掃除をしようと窓を開けたらカエルが私の顔に飛びついてきたので、思わず悲鳴をあげて振り払ったの…。それですぐに外に逃げて行ったんだけどね…。私、カエルは見る分にはいいんだけど、触ったり触られたりするのは嫌なのよ…」


 振り払ってすぐに窓を締めたけど、そのまま座り込んでしまったと言うわけか。


 カエルが苦手って言うのは分からなくもないな。


 僕だって好きか? と聞かれても答えに詰まるしね。


「私の事よりシリルの尻尾が増えたことが気になるわ。一体どんな魔法を使ったの?」


 パメラに聞かれて先程自分が使った魔法を思い返す。


「パメラの悲鳴が聞こえたから、こっちに来ようとしたけど扉が閉まってたんだ。狐の姿じゃ開けられないし、人間の姿になっても手が届かないから、ドアノブをじっと見てたら扉が開いたんだよ」


 まさかそんな事で尻尾が増えるとは思ってもみなかったしね。


「凄いわ。手を使わずに扉を開けられたって事なのね」


 パメラは手放しで喜んでいるが、こんなに立て続けに尻尾が増えると、この先どこまで尻尾が増えるのか不安になる。


 尻尾は増えたけど、人型になった時の姿も成長しているのだろうか?


「シリル。ちょっと人型になってみて。そちらも成長しているのか確認してみたいわ」


 パメラに促されて僕は人型になってみた。


 狐の状態ではわからなかったけれど、変化をしながら大きくなっているのを感じていた。


「まぁあ。昨日の今日でこんな大きくなるとは思ってもみなかったわ」


 パメラが僕を抱っこしながら感慨深そうに告げる。


「ぼく、おっちくなっちゃ?」


 おお、喋れるぞ。


 つい言葉を発してしまったが、舌足らずな部分はあるけれど、ちゃんと喋れるようになっていた。


「フフフ、そうね。大体2歳位の大きさかしらね。リーズが小さかった頃を思い出すわ」


 そう言いながらパメラは僕のほっぺたにキスをしてきた。


 これをセクハラと取るか、役得と取るか…。


 僕は勿論、役得と捉えているけどね。


「しょんにゃに、おっちくにゃっちゃにょ?」


 確かにパメラに抱き上げられている視線が昨日よりも高くなっているようだ。


「ええ、そうよ。だけどたった一日でこんなに大きくなっているなんて驚きだわ」 


 パメラはそう言うけれど一番驚いているのは僕の方だ。


 たった一日で1歳も歳を取るなんて、普通じゃないよね。


 …獣人だから普通じゃないのは当たり前か。


 この調子で魔法を使っていったら2週間後には16歳、この世界での成人になれるって事かな。


 そんなに上手くいくかどうかはわからないが、やってみなければわからないな。


 とりあえずはこの舌足らずな喋り方をどうにかしたいんだが、やはり成長するしか道はないかな。


 僕は狐の姿に戻るとパメラの腕からスルリと床に降りた。


「あっ、シリル~。どうして狐に戻っちゃうの? もっと可愛い姿を堪能したかったのにぃ!」


 いやいや、流石に成人した記憶があるのに2歳児になって抱っこされてるなんて、恥ずかしくていたたまれないよ。


「だって、外から誰が見てるかわからないんでしょ? 不用意に人型になんてなれないよ」


 僕はパメラの後ろにある窓を前足で指し示した。


 窓は閉じられているけれど、誰もこちらを見ていないとは限らないからね。


 パメラは残念がりつつも、僕の言葉に異論は唱えなかった。


 寝室の掃除を再開するパメラをその場に残して僕はリビングへと戻った。


 自分の寝床に丸くなり寝ようと思って、ふと、開けっ放しの扉が目に入った。


 開けられたって事は閉める事も出来るという事だよね。


 僕は寝床に寝そべったまま、ドアノブをじっと見つめた。


 ゆっくりと扉が動き出し、パタン、と扉が閉まる。


 成功だ!


 これで今日はクリーン魔法と扉の開け閉めの魔法を使えるようになったわけだ。


 ちょっと眠たくなって来たな。


 僕は3本になった自分の尻尾を抱きしめて眠りについたが、その至福の時間もリーズが学校から帰って来るまでのほんのひと時だった。


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