111 回復
次々と檻を開放していき、ようやく母さんが閉じ込められている檻を開けたが、母さんは顔を上げる事もなく横たわったままだった。
「母さん」
呼びかけても何の反応もない。
「母さん!」
檻の中に入り母さんを抱き上げるが、その息はか細く今にも消え入りそうだった。
「ここに連れて来られてから急に弱っていったんだ。側にいてやりたかったが檻は別々で喋る事すら出来なかった」
いつの間にか僕の側に来ていた父さんが僕から母さんを受け取ると、魔法陣の上に母さんを横たえた。
魔法陣の光と共に首輪が外れて、体の大きさは元に戻ったが、人型には変化しなかった。
「エレノーラ! しっかりしろ! シリルが助けに来てくれたぞ!」
父さんが呼びかけても母さんは何の反応もしない。
「母さん! 起きてよ! 母さん!」
やっと父さんと母さんに会えたのに、このまま母さんが死んでしまったら…。
そんな考えが頭をよぎったが、すぐに打ち消した。
母さんは僕が絶対に助けるんだ。
母さんの体に両手を当てて、僕の魔力のすべてを注ぐようなつもりでヒールをかけた。
僕の両手が光ったかと思うと、眩い光が母さんを包み込む。
その光が徐々に消えていくと薄っすらと母さんが目を開けた。
「…ダ…ニエル…」
母さんの口から言葉が発せられた。
「エレノーラ、気が付いたか? 具合はどうだ? 人型に戻れるか?」
母さんはゆっくりと体を起こすと床に座り込んだ状態で人型になった。
「…首輪が無くなったのね。ダニエルが助けてくれたの?」
「いや、俺じゃない。シリルだよ」
「シリル?」
訝しげな顔をしていた母さんは、その時になってようやく僕が側にいる事に気付いたようだ。
「シリル? 本当にシリルなの?」
驚いている母さんの手を取って、青年の姿からあの頃の子供の姿に変わる。
「シリルだよ。母さん、会いたかった」
母さんは僕の手を自分の方に引き寄せると僕をギュッと抱きしめてくれた。
久しぶりに母さんに抱きしめられて僕は堪らず泣き出した。
「シリル、無事だったのね」
抱き合っている僕と母さんを父さんが包み込むように抱きしめてくれた。
いつまでもこうしていたかったけれど、檻から出ただけで、完全に開放されたわけではない。
僕は既に首輪を外されて人型に戻っている他の獣人に話をした。
「ランベール様がこの屋敷を訪れる準備をしています。合図があったら僕の仲間がこの屋敷で騒ぎを起こします。今しばらくはじっとしていてください」
獣人の皆は僕の言う事にコクリと頷いてくれた。
じっと身を潜めているとカチャリと扉が開いて閉じた。
何も無い空間にみるみるうちに人影が現れて兎のシリルが姿を現した。
「やぁ、シリル。お待たせ。ランベール樣の準備が整ったからいよいよペルラン伯爵を追い詰めるよ」
そう告げると兎のシリルはまた透明になって部屋を出て行った。
やがて何処からかガチャンと派手な音が聞こえた。
その後も立て続けに大きな音が聞こえてくる。
屋敷の人々が走り回る音があちこちで聞こえてくる。
足音の一つがこの部屋の前で止まってガチャリと扉が開かれた。
檻が開け放たれ人型になった僕達がひとかたまりになっているのを見て、扉を開けた侍女が悲鳴をあげた。
「誰かー! 獣人が逃げ出してます!」
不味い!
他の人を呼ばれたら逃げられなくなってしまう。
どうにかして彼女を黙らせないと…。
侍女に近付こうとしたその時、侍女の首に剣が突きつけられ彼女の体を誰かが拘束した。
「女性にあまり手荒な真似はしたくないんだが…。この屋敷に勤めている以上、無関係とは言えないからね」
そう言って彼女を縛り上げたのはテオだった。
「やぁ、シリル。お待たせ!」
ニコリと笑ってみせるけど、残念ながらこの中には狼の女性の獣人はいなかったよ。




