107 合流
アランを拘束してからは、領主に余計な警戒をさせない為に屋敷には近寄らなかった。
時折町の中を散策しては宿で過ごすを繰り返していた。
二日目の夜遅くになってテオが王都から戻って来た。
かなりの強行走破だったようで、部屋に入るなりテオはその場にぶっ倒れていた。
「ハァ、ハァ、…み、水…」
息も絶え絶えなテオに水の入ったコップを差し出すと凄い勢いで飲み干してしまった。
「もう、一杯!」
差し出されたコップにまた水を注ぐと、それも一気に飲み干した。
「ハァーッ! 生き返った!」
そんなテオとは裏腹に、一緒に連れてこられた兎のシリルはフラフラの状態だ。
どうやら兎の姿でテオの背中にしがみついて連れてこられたようで、乗り物酔いのような顔をしている。
「き、気持ち悪い…」
青ざめた顔色のシリルをベッドに寝かせて回復魔法をかけてやると、少し落ち着いたようだ。
兎を背中に乗せて走る狼なんて、想像しただけでシュールだな。
兎のシリルはゆっくり休ませてあげるとして、テオの話を聞く事にしよう。
そう思ったのだが、それよりも先にテオは部屋の片隅で椅子に縛り付けられているアランに気が付いた。
「あの獣人はどうした? 何故縛り付けているんだ?」
「あいつはここの領主の手先でシリルに首輪を着けようとしたんだ。そこを捕まえてここに連れて来たんだ。ただ、あいつの話をどこまで信用していいかわからないんで、テオが戻るのを待っていたんだよ」
ダニエルの報告を受けてテオはアランに近付いて行った。
アランは近付いてくるテオに少しビビっているようだ。
テオが狼の獣人だとはわからなくても自分よりも強い獣人だとは察しているだろうからね。
テオはアランの前に立つとダニエルに命じてその戒めを解いてやった。
自由になった腕を擦りながら、アランは不安そうにテオを見上げる。
「まだ全面的にお前を信用したわけじゃない。変な動きをしたらそこにいるダニエルがお前を爪で引き裂くからな」
アランの戒めを解いたダニエルは既に熊の姿でアランを威嚇している。
その真っ赤な目がキラリと光るのが見えてこっちまで身震いしてしまう。
兎のシリルはベッドに寝ていて正解だったな。
コクリと頷いたアランにテオはペルラン伯爵の屋敷の見取り図を書かせた。
「屋敷の中をすべて知っているわけじゃない。だから俺が足を踏み入れた事のある所しかわからない」
そう前置きしながら、アランは獣人を連れて屋敷を訪れた際に連れて行かれる部屋、弟のブノワが閉じ込められている部屋、屋敷に滞在する際に与えられている部屋の配置を書き出した。
屋敷の中では常に使用人が側に付いていて、自由には行き来させてもらえないらしい。
また、屋敷に滞在している時は首輪を着けられて猫の姿にされて檻に閉じ込められるそうだ。
「用心深いというか、えげつないというか、とんでもない野郎だな」
アランの話を聞き終えたドニが吐き捨てるような口調でペルラン伯爵をこき下ろす。
「ランベール樣も悔しがっておられたよ。公爵達とつるんでいれば今回の断罪で一網打尽に出来たのにってね。他にも個別に動いている貴族がいないか捜査中らしい」
屋敷の見取り図を書き終えたアランをまた元のように椅子に縛り付ける。
同じ獣人に対してこんな事はしたくはないけれど、ペルラン伯爵の手足となって獣人を連れ去っていた以上、仕方のない話だ。
アランも納得しているようで大人しくされるままになっている。
翌朝、テオはペルラン伯爵の屋敷に兎のシリルを向かわせた。
屋敷の内部に入り込み、アランの話が本当かどうか確認するためと、集められた獣人がいつ、隣国に売られるのかを探るためだ。
いくら透明になれるとは言え、兎のシリルだけで大丈夫なんだろうか?
少々不安を覚えながらも僕は宿で待機するしかなかった。




