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105 猫の獣人

 僕と同じくらいの年頃の男性で、真っ黒な髪をしていたが、その瞳は左右で色が違った。


 片方は金色でもう片方はブルーの瞳をしている。


 いわゆるオッドアイというやつだな。


 もしかして彼は猫の獣人かな。


「君は…誰?」


 少し警戒しつつ問いかけると彼はそれ以上近付いては来なかった。


「驚かせちゃったかな? まさかこの町で獣人に会うとは思わなかったからね。何しにこんな所に来たんだい?」


 この町に獣人がいない事を知っているとは彼も誰かを探しに来たんだろうか?


「人を探してるんだよ。この町に獣人が集められているって噂を聞いてね」


 実際は噂ではないけれど、彼を信用していいのかどうかわからないから、そう言って誤魔化す事にした。


「人探し? 誰を探してるの? 良かったら手伝ってあげようか?」


 親切ごかしに言う彼の事を今ひとつ信用出来ない僕はさっさと断る事にした。


「大丈夫。一人で十分だよ。それじゃあ」


 クルリと踵を返して歩きだすと、サッと彼は僕の体を一回転して飛び越すと僕の前に立ち塞がった。


 流石に猫の獣人だけあって身軽だな。


「そんな事を言わずにさ。一緒に行こうよ」 


 そう言いながら彼はジリジリと僕との距離を縮めようとする。


 僕はそれを避けるために後ろへと下がるしかなかった。


 下がりながら僕は彼の手に何かが握られているのを目にした。


 あれはもしや首輪か?


 まさかあれを僕に着けるつもりなのか?


 同じ獣人である彼がどうして僕にそんな事をしようとするのかがわからないが、このままでは首輪を着けられて狐の姿にされてしまう。


 ジリジリと後ずさりをしていると、ガシッと目の前の彼を誰かが羽交い締めにした。


 その拍子に彼の手から首輪がポトリと地面に落ちる。


「なっ! 離せ!」


 彼は暴れて逃げ出そうとするが、ダニエルは熊の獣人だから、そうそう簡単には逃げられない。


 ましてや猫の獣人であればなおさら力の差は歴然だ。


「シリル、無事か?」 


 ドニが僕に駆け寄って何事もないかを確認している。


「大丈夫。もうちょっとで首輪を着けられそうになったけどね」


 ドニと共にダニエルに拘束されている猫の獣人を見ると彼はポロポロと涙を零していた。


「ちくしょう、仲間がいたなんて…。…このままじゃ弟が殺されてしまう…」


 そんな言葉が聞こえて僕達は思わず顔を見合わせた。


 つまり、彼は弟を人質に取られていると言う事なのだろうか?


「事情を聞きたいがここじゃちょっと無理かな。とりあえず宿屋に戻るか」


 ダニエルとドニに両脇をガッチリと固められて彼は観念したかのように歩き出す。


 僕も地面に落ちた首輪を拾って後を付いて行った。


 宿の部屋に戻るとダニエルは彼を椅子に座らせて縛り付けた。


 まだ彼を信用出来ない以上、こういう扱いになるのは仕方がないだろう。


 僕達三人に囲まれて彼は更に体を小さく縮みこませる。


「お前の名前は?」


 ダニエルが殊更にドスの効いた声で問うと、彼はピクリと体を震わせた。


「…アラン…」


 ようやく聞き取れるくらいの声でポツリと名前だけを告げる。


 すべてを諦めてしまったかのような表情に胸が苦しくなる。


「何で俺達を襲ったんだ?」


 なかなか答えようとしないアランにダニエルはしびれを切らしたかのように熊に変化してアランを恫喝する。


「さっさと答えないと八つ裂きにするぞ」


 その鋭い爪にアランばかりか僕までも思わず震え上がってしまう。


「おいおい、シリルまでビビってるぞ」


 ドニはダニエルの姿には慣れっこなのか涼しい表情で受け流している。


「あ、いや、スマン。そんなつもりじゃなかったんだが…」


 熊の姿を縮こませて謝るダニエルがちょっと可愛くて、思わずプッと笑いを零してしまった。


「…ごめんなさい…。…でも、こうでもしないと、弟が…」 


 アランが泣きながら事情を説明しだした。


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