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104 貴族の屋敷

 それにこの服には見覚えがあった。


 母さんが好きでよく着ていた薄いピンクのカーディガンだ。


「…母さんの服だ」


 震える手でダニエルからカーディガンを受け取ると僕はそれをギュッと抱きしめた。


 紛れもなく母さんの匂いがそのカーディガンから溢れてくる。


 このカーディガンを着た母さんの姿が思い出されてポロリと涙が溢れる。


「これはどうやらシリルの母親の物らしいが、どうしたんだ?」


 涙で声にならない僕の代わりにテオがダニエルに問うと、僕を気遣うような表情で語りだした。


「宿に荷物を残したまま、消えた獣人がいるって言っていただろう? これもそのうちの一つなんだ。ジョスと一緒に調べていた時に微かにシリルの匂いがしたみたいだから気になってたんだよ。やはりシリルの母親の物だったのか」


 もしや、と思っていた事が現実になった。


 いくら待っても帰って来ない父さんと母さん。


 やはり何処かで囚われてしまったのだろう。


 母さんがいなくなったと言う事は父さんもやはり一緒に攫われたと見る方が正しいだろう。


「母親の服が残されていたと言う事は父親も連れ去られたと見るべきか、それとも何処かを探し回っているのか…」


「一緒に連れ去られた可能性の方が高いんじゃないか? 探し回っているのならば、獣人達の間で噂になっていてもおかしくないはずだ」 


 テオとダニエルの言う通り、僕の父さんと母さんは既に誰かに攫われたのだろう。


 そうなると、やはりこの町の何処かに囚われている可能性が高いだろう。


「どうする? この町にどのくらいの獣人が集められているのかはわからないが、俺達だけでは対処出来ないかもしれないぞ」


 テオの言う通り、僕達だけで獣人を救出するには無理がありそうだ。


「とりあえずランベール樣に知らせよう。それと兎のシリルをここに呼び寄せよう。彼なら姿を消せるから怪しい場所に潜入させる事が出来る」


 話し合いの結果、この中で一番足の早いテオが王都まで戻る事になった。


「シリル。一人で行動はするなよ。ダニエル、ドニ。シリルを頼んだぞ」


 そう言い残すとテオは王都に向かって駆け出していった。


 残された僕達は町の捜索に取り掛かるためにダニエルが持ってきた地図を覗き込んだ。


 地図は王宮に保管してあったもので、今よりは古い地図になるらしい。


「持ち出し禁止だから書き写して来たんだよ。今とはちょっと違うかもしれないな」


 この町に入ってからの事を思い出しながら僕達が探した場所をダニエル達に教えていった。


 だが、地図を見ながら妙な違和感を覚えた。


 この町を治めている貴族の屋敷の辺りがこの地図とは違うような気がしたのだ。


「ダニエル。この屋敷の辺りが今と違うような気がするんだけど…」


 僕の思い違いかもしれないが何故か引っ掛かって仕方がない。


「何処が違うんだ?」


 ダニエルに聞かれても上手く説明出来なくてもどかしい。


「まだ捜索していない所を見るついでに行って見るか。実際に見たほうがわかりやすいだろう」


 ここで地図だけを見てあれこれ言うよりはその方が確実だ。


 僕達三人は宿を出ると貴族の屋敷に向かって歩いて行った。


 この町の中でひときわ大きな屋敷が目の前に現れた。


 周りを塀で囲まれて、門には二人の騎士が立って通りを行く人を警戒している。


 中を覗う隙間もない屋敷に違和感しか感じない。


「王都の町でもこんな屋敷は見ないぞ」


 前を歩くダニエルとドニの後をついて行きながら僕は屋敷の塀を見上げた。


 こんなに高い塀だったら入る事も出る事も出来ないよ。


 まさか、侵入を防ぐためじゃなくて、脱出を拒むためのもの?


 …いやいや、いくらなんでも飛躍し過ぎだ。


 ブルブルと首を振って前方に目を向けると、そこには誰もいなかった。


 …あれ?


 ダニエル達は何処へ行ったんだ?


 慌てて追いかけようとしたその時、後ろに獣人の気配を感じて僕は振り返った。


 そこには、一人の男性が立っていた。


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