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100 テオの家

 しばらくは四人でお茶を飲みながら話をしていたが、これ以上いるとエリクにこき使われるだけだから、とテオは腰を上げた。


「シリル。ほら、帰るぞ」


 ん? 帰る?


「何処に?」と聞くよりも先にテオは僕の手を引っ張ると玄関へと向かった。


 当然の事ながら見送りなどない。


 テオに引っ張られるまま外に出るとテオの家に向かって歩き出す。


「ランベール樣から連絡があるまで家に来いよ。宿に泊まる金ももったいないしな」


 テオの申し出を有り難く受け取ることにしよう。


「テオは毎日エリクの所に行っているの?」


 先程のエリクの家での行動を思い出して尋ねると、テオはしかめっ面をする。


「父さんが毎日様子を見て来いってうるさいんだよ。自分で行けばいいのにさ、エリクの顔は見たくないんだろうな。おかけでエリクに良いようにこき使われてるよ」


 そういうテオだってジャンヌさんが心配だから文句も言わずに通ってるんだろうけどね。


 程なくしてテオの家に着いた僕達はリビングへと向かう。


「母さん。またシリルが家に泊まるから部屋を用意してやってくれないか」


 ソファーで編み物をしていたテオのお母さんは一旦手を止めると、編み物を置いて立ち上がった。


 あれは多分生まれてくる赤ちゃんのためのものなんだろう。


「まあ、またシリルが来てくれるの? ちょっと待っててね」


 テオのお母さんは僕の部屋の準備のためにバタバタと部屋を出ていった。


「おばさんの手を煩わせて申し訳ないな」


「気にするな。母さんはお前の事を気に入っているからな。もっともジャンヌに子供が生まれたらそっちが優先になるだろうけどな」


 他人の狐の子よりも自分の孫の方が可愛いに決まってるじゃないか。


 そうでなきゃ生まれてくる赤ちゃんに申し訳なくってこの家に寄り付けなくなっちゃうよ。


 それほど時間もかからずにおばさんがリビングに戻って来る。


 随分と早いな。


「テオとエリクが戻って来たからシリルもじきにこっちに来ると思って準備していたの。だから軽く点検しただけで済んだわ」


 そんなおばさんの気遣いが嬉しい。


 先に宿を決めなくて良かったな。


 ソファーに戻って来たおばさんがまた編み物を始めたのをぼんやりと見ていると妙に瞼が重くなってきた。


「シリル、こっちにいらっしゃい」


 おばさんに声をかけられてハッとして顔を上げると、おばさんは自分の膝の上をポンポンと叩いていた。


 え、と思ってテオを見やると、クイッと顎で向こうへ行け、と示される。


 子狐の姿になっておばさんの膝の上に乗るとその場で丸くなる。


 おばさんに優しく体を撫でられて僕の瞼は更に重みを増していった。


 おばさんとテオがクスッと笑った声を遠くに聞きながら、僕は深い眠りへと落ちていった。


 

 

 フッと体が持ち上げられるような浮遊感を感じて目を開けると、そこにはテオの顔があった。


「何だ、目が覚めたか。そろそろ食事の支度をするから、ベッドに連れて行こうとしたんだがな」


 ちょっと目を閉じたつもりが随分と長い時間寝ていたみたいだ。


 僕の重みでおばさんの膝に負担がかかっていなきゃいいな。


 僕はテオの腕から身をよじって降りると青年の姿に変化した。


「えー、そっちかよ。ちっちゃいシリルでいいんだぞ」


 テオは残念そうに漏らすけど子供の姿になったらみんなにかまい倒されそうで嫌なんだよ。


 テオはそのまま僕の部屋へと僕を誘導した。


 どうやら何か話があるようだ。


 部屋は前に泊まった時に使わせてもらったのと同じ部屋だ。


 ベッドに椅子とテーブルが一つずつのこじんまりとした部屋で、テオが椅子に腰掛けたので僕はベッドの上に腰を下ろした。


「実はさっきアジトに顔を出したんだ。そうしたらジョスからランベール樣の手紙を渡された」


 ジョスって人は確かサブリーダーの人だよね。


 テオはランベール樣からの手紙を僕に差し出した。


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