グルメなキャラバンの新人さん
【冒険者】
それは名の通り、冒険をする者達のことだ。
冒険者の仕事は主に、情報だ。
森に生息するモンスターや食材、鉱物に薬草を【ギルド】に提供し金銭を貰う。無論森だけではなく、洞窟や山、海など。他にも採取した希少なものやモンスターの毛皮や牙などの素材を買い取りもするのだ。
ただ、冒険者だけで食べていける職業ではない。仮に冒険者だけで食べていけるのは一握り。地球で例えるなら配信者だろうか。大体の人々は本職をしながら、狩猟や採取をする際に冒険者として探索する箇所に変化が無いかの確認も行うこともある。
「よ、よし!」
ここに1人、新たに冒険者となった若人がいた。
彼は15歳となり、晴れて冒険者となった何処にでもいる少年だ。本職は行商人である。彼自身、身体能力と武器の扱いが秀でていた為、自衛も出来るには十分として親から許されたのである。
だが、その為には“商人ギルド”に加入して同じ行商人でありベテランの人に弟子入りをしなければならない。大抵、“商人ギルド”が護衛も兼ねて行商人のメンバーに加入するのが殆ど。因みに行商人という職業は、一人で行うものではなく最低四名で同行するもの。多くて十数人にもなる。行商人の中でも位が高いのは《キャラバン》という隊商となり、都市や村から配達を委託することもあるという。
少年は既にある《キャラバン》と雑用として加入していたのだ。メンバーの殆どが冒険者であり、それなりの信頼感がある。
「よう新人。加入したてだが、おもしれぇ取引がこれからあるんだ。ちゃんと見ておけよ?」
「は、はいッス!」
「お前は中々つえぇからな。その腕なら将来安心だが、ちゃんと勉強もしろよ?」
「勿論ッス!リーダー」
キャラバンは幾つもの馬車をそれぞれ引いて前後に護衛役が見張り、監視しながら移動する。馬車には貨幣や食料、商品や委託された積荷が多くある。その為、一台一台の馬車はかなり頑丈であり、普通の馬車とは一味違う。現にこのキャラバンの馬車の車輪は木製などのかたいものではなく、黒く柔らかくはあるもののしっかり張られているのだ。しかも万が一、車輪などが壊れてもそのスペック用や修復道具がある馬車もあるくらいである。
「リーダー。次は何処に向かうんですか?」
「次はな………ダンジョンだ」
「だん………え、なんでッスか?」
「ダンジョンに取引先があるんだよ」
「え、えぇ?」
ダンジョンとは端的に言うとモンスターの巣だ。尚言うのであれば、様々なモンスターがダンジョンの支配下となり共存しているのだ。単なるモンスターの巣ならモンスターの巣でいいだろう。
だが、そんな場所に何があるのだろうか。取引など何か得たいの知れない雰囲気がある。だが、このキャラバンの一員となって悪い組織ではないのは間違いない。
「ダンジョンで、何をするんッスか」
「あん?んなもん、着いての楽しみにしとけ。あぁ。ちゃぁんと、立派な取引先だ。ヤベェとこだと勘違いすんじゃねーぞ」
「いやいやリーダー。ある意味ヤバいでしょ。新人くんも驚くよー」
「がははっ!そりゃそうだ。お前さんも最初は」
「あー!あー!それいっちゃダメですから!」
話を聞く限り、全うな取引らしい。しかも他のメンバーからも非常に評価と評判はいい。
その新人の若人、【エルヴァ】は不安に感じながらもその取引に赴くのであった。
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「…………な、なんだよ。ここ」
エルヴァは絶句していた。
「おういテメーら。俺は取引してくっから、暫く自由行動だ。ここの店員と客に迷惑かけんなよなー」
「「「はーい」」」
「え………ぇ?」
ダンジョンの入り口付近にあった白い門を潜れば、そこは白の空間であった。
キラキラと光輝くその領域は、大都会である王国でもこれ程神々しくも広い空間は王宮や神殿の何倍もあるだろう。ここが神々の楽園と言っても過言ではない。
何せ、ここには人だけではなくエルフやドワーフに獣人、魔族に天使までもが争うことなく辺りを見回り、そこにいるこの楽園の住人に何やら話をしている。しかも中にはモンスターであるスライムからドラゴンまでもがいるのだ。
ここが、あらゆる生きとし生ける物が共存し、楽しんでいる。これこそが、人々が求める理想の平和・平穏なのだろうか。
「いやまじで、どうなって」
「いらっしゃいませ!」
「!?」
ここで初めて、この住人………リーダー曰く店の店員に話しかけられた。店と言うには些か、いや余りにも規模がデカ過ぎではないだろうか……と思いながらエルヴァは声をかけてきたその珍しい黒髪黒目の少女に目を向ける。年はそう変わらないと感じたのだが、何処か達観しているというか大人らしいその雰囲気に目を見張るものがあった。
「何かお求めでしょうか?」
「………いや、何か便利そうなものがあれば」
「なるほど。お客様のお仕事は」
「キャラバンの一員ッス。まあ行商人ッスね」
エルヴァは己の仕事に関して、簡潔に説明した。するとその少女はふむふむ、と真剣な表情で聞いていると、彼女は「でしたら」と言って案内をしてきたのだ。
案内された先は、彼女曰く“アウトドアレジャー用品”の領域らしい。
「例えば………キャンプにも使えます専用バックやキャンプマット、ランタンや調理道具もありますね」
「おぉ!これは………先輩らも使ってるやつじゃないっすか!なるほど、ここで買ってたんっすね。これ、先輩に借りた…………あ、これも!」
先輩達が愛用している道具は何度かエルヴァも借りさせてもらったものもある。が、その道具があまりにも便利であったり、使い心地が良いものだったり。それで何度か先輩達に何処で購入したのか、と必死に尋ねたこともある。が、その時の先輩達は「いずれ買えるから」と流されるオチ。だが、その道具達はあまりにも利便性が高かったり、扱いやすい。そして壊れにくい。
「(そういえば、リーダーはここを異世界の店………【ショッピングモール『ラビリンス』】って言ってたな。確かに、このクオリティは王国の職人でも量産は出来ねぇ。しかも………なんだこれ。見渡せば気配がヤバい奴らが多すぎだろ。はぁ、リーダーの言う通り下手な真似はするな。死ぬぞ………か。間違いねぇな)」
「あ、あの」
「!なんッスか」
「旅をしてると聞いていましたので、携帯食料とかは」
「是非ッス!」
携帯食料。
それを聞けば、常人なら特に楽しむこともない固形物。食べれはするが、普通は不味い。そして非常に喉が渇く。良くて無味無臭だ。
だが、この店の携帯食料………ではなく、異世界の携帯食料は様々なバリエーションと味がある。無論、喉は渇くが、それでも構わないと思うほどに美味だ。携帯食料が美味なら、旅の楽しみも増えるというもの。
「こ、こちらは………私が住んでます地球の携帯食料です。携帯食料以外にも自衛隊のレーションもありまして」
「ジエイタイ?はわからんッスけど、レーションッスか………食べてみないと分からないっスね。食べてみたいかな~、なんて冗だ」
「そ、そうですよね!しょ、少々お待ちください!」
「冗談ッスよ!?あ、脚はやッ!?」
ビューン!と騒がしくもなく、ただ走っている訳でもない。競歩だ。その従業員の少女は身体能力が高いエルヴァからしても明らかに速い。と、思えば風が靡く様に彼女は戻ってきており、「こちらへ」と再び案内されるのだ。
「こちらが試食コーナーです」
「お………おぉ!めちゃくちゃいい匂いじゃないっスか!あ、あんな箱にこんなのが入ってるッス?」
「はい!そのままでも食べられますが、暖めていただければより美味しくいただけますよ。こちらをどうぞ」
どのようなものが入ってるかは透明なガラスケースに置かれており、その横では従業員が小皿などに入った少量の実際に入ってるレーションの各種が入っていた。
それを一つその従業員から渡され、一口食べる。もう、分かりきっていた。匂いで美味しいのだから。
「ぅ………ぅんめぇっ!?」
「そちらはポテトサラダですね。こちらのレーションや携帯食料はお客様の世界に合わせた味となります」
従業員の話曰く、それぞれの異世界人に合わせた食材・食べてもいい食材を使用しているらしい。しかも食材もその出身の世界のものを使用してるんだとか。
「こ、これは?」
「カレーライスですね。そしてこちらがハンバーグ。横のが焼き鳥です。他には…………」
試食に試食。
エルヴァの味覚と聴覚は、初めの冒険を。そして輝かしい金銀財宝の類いに匹敵するものを発見してしまったのだ。
「………か、買ってしまったッス」
気が付けば各レーションと携帯食料を買ってしまっていた。因みに支払いは貨幣でも可能とのこと。しかも以外に安かったのが悪い。既にパンパンになった鞄を背負い、他に必要なものを見たり買ったりしていると後ろから先輩に声を掛けられる。
「お、新人。レーションと携帯食料を買ったのか」
「はいッス!」
「分かるぜ、分かる!だかな?レーションと携帯食料は確かに上手いが、それはあくまで非常食。本来食べるべき、美味なる花園へ繰り出そうぜ!」
「び、美味なる花園…………」
「リーダーからは酒禁止とは言われたがな?だが、異界の料理は酒が無くても旨いメシがある!」
「め、メシが………」
「ほら、行くぜ?リーダー達も無事に【ラビリンス】との取引完了したからよ。ここの支配人さんが用意してくれていた店があるんだが…………“ばいきんぐ”なんだぜ?」
「ば、“ばいきんぐ”?」
「聞いて驚くな。色んな異世界の料理が、食べ放題だ」
「た、たべ!?」
「ほら行くぞ?俺らの冒険は、ここからだ!」
先輩に肩を組まれて放心状態のエルヴァはリーダー達が待つバイキングに向かうのであった。
因みにそのバイキングではエルヴァだけではなく、先輩達が様々な地球や他の異世界の料理に舌鼓を打っていたのは言うまでもない。
尚、エルヴァはリピーターとなり最低でも週に一回はこのラビリンスに通っている常連客になっていたのも言うまでもない。