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魔王と寝具、黒騎士と抱き枕①



 「………むぅ、朝か」



 朝は辛い。


 確かに睡眠は取った筈なのにも関わらず、まだ寝足りないと心身共に叫ぶのだ。十分な時間、食事、運動もしているのにと関わらずに、だ。



 「さて、仕事……か」


  

 【魔王アンタレス】の朝は早い。


 【魔王】、国の王として前日に報告があった資料に目を通す。内容としては公務だけではなく、ダンジョンの視察も行われる。

 ダンジョンの視察、とは言うが出現したダンジョンの危険度やダンジョンの中にいるモンスターが溢れ出さないかの確認である。無論、他の官僚達も行う仕事なのだが……やはり【魔王】という名は伊達ではない。報告に上がった、特に危険なダンジョンを探索するのだ。



 「…………最近出現したダンジョンか。名称は、“常世の館”だと?………ふむ、既に“特等の探索者”が調査済み。ほう、彼らがそう呼んでいるのか」



 調査は粗方既に探索者というダンジョンや遺跡、密林などの未開の土地を探索し、調査、採取などをしその土地の情報提供を行う者達。更にはその採取したもの、生息していた珍しい或いは危険なモンスターを討伐し、【ギルド】に卸売りをすることで金銭をより多く得ている。


 

 「我が国の探索者は優秀だな……が。報告にもある様に、その特等の探索者は明らかに隠している。ふむ、嘘が下手なのか」


 

 特等の探索者は、探索者の中でもトップクラスだ。中には国と契約している者もいるらしい。特等の探索者は一軍隊レベルを相手取れる戦力。

 が、その特等の探索者よりも上の戦力が【魔王】である。他の国々には【勇者】や【剣聖】、【聖者】などの名を冠するに相応しい力を有する王が君臨している。が、王権制という訳ではなく“国の象徴”だ。



 「【魔王】として、動かなければならぬ」



 赤髪を靡かせた彼女は即座にその新種のダンジョン“常世の館”へ赴いた。彼女は判断が早い。



 「して、ここが“常世の館”か…………妙な魔力が出てるな。これでは溢れる前兆かもしれぬのに、何故報告せなんだ?この程度であれば問題ない、と」


 「おわっ!?ま、【魔王】様!?護衛も付けずに何を!」


 「“常世の館(このダンジョン)”の監視員か。うむ、善き働きだ。流石は我が国の守り人よ。この【魔王】、貴殿らの働きに感服する他無い。感動だ。故にこれを」


 「あ、ありがとうございます!」



 アンタレスは用意した食料などの資源をドスン!と地響きを鳴らしながら監視員達の前に置くのだが、明らかに多い。しかもこれらは国の金ではない。



 「ま、【魔王】様?まさか、これ自腹で」


 「当然だ。我に金は不要。只でさえ金に有り余る。故にその金の使い方はこの国、我が国の為に尽力する者達に使うのが道理。気にするな」


 「………そろそろ官僚達に怒られますよ」


 「怒られる理由があるのであれば、それを大人しく受けよう」


 「改善してくれませんかねぇ!?あ、こらテメーら!当然のように【魔王】様からいただいたものを食べるんじゃねぇ!」


 「「「【魔王】様、ありがとうございます!!!」」」


 「礼を言うのはこちらだ。これからも頼むぞ、戦士達よ」



 【魔王】は相手が誰であれ、敬意を払う変わり者。善人であろうと悪人であろうとその態度は変わらない。そんなやり取りに慣れているのか、困っているのかその監視員のリーダーはヤレヤレとため息を付きながらも【魔王】から貰った煙草に火をつけて吹かす。


 彼女は、人であれモンスターであれ、何であれ敬意と礼を欠かさない。其ゆえなのだろうか。



 《【魔王】よ、手を貸そうか》


 「ぬ?【シャウラ】か」


 「ぬぉ!?ダンジョンボスが何外に出てんだよ!?仕事増やすな!?」



 現れたのは、バルハードを片手で担ぐ禍々しい焔を纏う黒騎士である。腰には剣を、腕には短剣を、膝には長針を隠し、尾から蠍の尻尾を生やす物騒な存在。

 人ではなく、()最恐のダンジョンと呼ばれた“奈落の剣山”のボス。それが【シャウラ】であった。過去にアンタレスがシャウラを倒し、仲間にした時からの仲である。因みに単身で、日帰りだ。



 「……気になるのか」


 《ああ、無論》


 「ならば、我の護衛を頼むか」


 《任せておけ【魔王】よ。初めてお前に負かされた時に………【魔王(お前)】の剣となると決めていたからな》


 「頼もしいな」



 【魔王アンタレス】と【黒騎士シャウラ】。


 二人は未知のダンジョン“常世の館”へと歩みを始める。そこで新たな出会いがあるとは、この時のアンタレスは予想もしていなかった。

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