休憩
「はぁ……つかれたぁ」
ドラゴンさんの次に接客した骸骨さん。この方はお洒落な方でした。元々は宮廷魔導師さんらしく、魔法と魔術を極めようと修行してたらいつの間にか骨になってたらしい。所謂アンデッドとのこと。
アンデッドになっても、人間性は失っていなかったらしく骨だけでも服を着用したり、身なりを整えたりしてるらしい。その見た目のせいか、アンデッドなのにも関わらず〖賢者〗と領主や住民からそう呼ばれてるらしい。
まあ、そんなこんなで毎週に服やアクセサリーを購入してる常連さんなんだとか。けれども、自分のファッションセンスに自身が無いらしく私のような従業員に訪ねてるんだとか。あと、女性でした。
「……あっという間だった」
9時から12時の3時間だけども、接客よりも案内することでショッピングモール内を結構歩く方が大変だった。
そして現在、私は休憩室にいます。
アレンに「でかいソファーがあるから、みんなそこでぐだってるし」と勧められて………身体を沈め、ダメダメになりながらも身体を起こす。
アレンさんからの言葉を思い出す。
「休憩室の横に食堂があるし。地球の料理もあるけど、カップ麺もあるからサナエでも安心して食べれると思う。あと食堂の主に言ったら何でも作ってくれるから。試しに言うだけ言ってみ?従業員なら無料だからねー」
と、何とも夢の様な話。
因みに結構早くから出勤してる社員さん達は、朝食も取ってるとのこと。夜遅くまで働いてる場合は夕食もあるらしい。すごいな、ここ。
「食堂は………っと、おぉぅ」
食堂には私以外にもアルバイトや社員の方もいる。勿論、私と同じ人間以外のエルフさんやケモ耳尻尾さんに、動物さん。あと………え、天使に悪魔?色々いるねここ。
「あらやだっ!新しい顔ねっ!」
「は、はじめまして!今日から働かせていただいてます、山田サナエです!」
「サナエちゃんねぇ!ワタシのことは【料理長】って呼んでちょうだいっ!サナエちゃんは日本人ね!好みは何かしら?和食に洋食に中華なんでもござれよっ!」
厨房にいたのはサングラスのガチムチなお……漢女と言えばいいのかな?スキンヘッドで凄くカッコいいんだけど。
料理長さんからは「異世界の食べ物や料理は後日検査した方がいいわよ?」とのこと。地球上にない食べ物だからこそ、アレルギー検査して問題ないか確認してからの方が安全らしい。「アレルギーはない?」など事細かに聴きながら料理作ってくれるので、料理長さんはイイ人だ。
「ほわぁ………うまうま。これが、無料」
ありきたりではあるけど、カレーを頼むとこれが中々美味しい。あ、これ………1日朝から夕方の七時間働けば昼晩のご飯はワザワザ作らなくてもいい……!
「あら珍しい。お隣いいかしら」
「あ、どぞ………ぇ」
横に座ってきたのは、OLの方でした。ビシッ!と決められたスーツは凄く新鮮。あと、明らかに日本人だ。だって他の方々言葉分からないし。
後から聞くと、私が配属されたセントラルにもそれぞれにチームがあってそこは言語が同じな人で纏める様にしてるらしい。あとアレンさんはこのショッピングモール内にいる従業員の言語は全て話せるらしい。すご!あと英語とかもペラペラだった。スペック高すぎない?
「はじめまして。私は【田中涼子】。貴女と同じ日本人よ。因みに〖アックス〗の社員よ」
「〖アックス〗ッ!?!?」
〖アックス〗と言えば!
日本の有名スポーツメーカーであり、ダンジョンの探索者向けのインナーやサポーターなどの道具など、衣類に力を注いでいるダンジョン探索向けメーカーでもある。ま、大抵のスポーツメーカーは探索者向けメーカーでもあるけどね。
「私は〖アックス〗代表として、このショッピングモールの東館と西館にそれぞれテナントを借りてるの」
「そ、そうなんですか」
「このショッピングモールの従業員は貴女だけかもね。けど、テナントを借りてる日本メーカーは殆ど日本人よ」
日本のファーストフードやスポーツメーカーにファッションやブランドだけじゃなく、海外の有名メーカーも結構あった。それ以外は他の異世界の店なんだろうね。
「わ、私は、山田サナエと申します」
「あらご丁寧に。名刺どうぞ」
……し、しまった。名刺無いよ。
「ああいいわよ。私としては、このショッピングモールの従業員さんと縁を結べるだけでもありがたいわ。しかもその従業員さんの一人が同じ地球人なら尚更ね」
うぁ……何となく社会人として、闇を感じちゃうのは私だけ?考えすぎ?
「それにしても今でも信じられないわ。まさかダンジョンの中に、こんなショッピングモールがあるだなんて。規模的に地球には無いわよ?」
ですです。
あり得ない位に大き過ぎる。
四つのエリアに分かれていても、その一エリアが都会の大型ショッピングモールよりも更に大きく、広々としている。1日じゃ回りきれない。
「今日初日なの?」
「は、はい!」
「なら、気を付けておかないとね。私も最初は度肝抜かれたけど、私達の常識は通用しないこともあるから」
ドラゴンさんと骸骨さんは会いましたけど?
それを言うと田中さんは、からからと渇いた笑いを見せる。
あ、まだあるんですね。
「山田さんはアニメとか漫画は読む方?」
「ぇ……す、少し」
「ゴブリンって知ってるかな?」
「あ、はい。異世界もののファンタジーで」
………今となってはファンタジーじゃないよね。ファンタジーって幻想とか空想的って意味だし。現実的なローファンタジーかな。地球じゃ、ゴブリンとか居ないし。
「山田さん的に、ゴブリンってどんな存在?」
「ぇっと、小さくて、小汚なくて………小さな鬼?女の人に酷いことをして。例えば」
「はいはい、ストップストップ」
田中さんに慌てて止められてしまう。
あれ、なにか言っちゃいました?
「山田さん。そのイメージは払拭してね。因みに………」
田中さんから教えられたのは、私が知らないことであった。
ゴブリン。
それは醜い子供の様な緑肌の小鬼。人々に危害を加え、女性達に酷いことをし、男性ならば殺される。というのがアニメや漫画などの知識のイメージだろう。
けど、現実では違うとのこと。
まず、ゴブリンとはエルフのことを指す。
は?とは思うだろう。
厳密には、幼いエルフの子達をゴブリンと呼んでいる。エルフの習慣らしいが、魔除けの為に幼い頃から肌や髪に優しい薬草を混ぜた緑の液体を全身に塗るらしい。緑、即ち自然の加護を纏わせることで子供達をモンスターなどから身を守るまじない。現に、保護色ほどではないが目の錯覚で森の中なら分かりにくいらしいとのこと。
また、わざと緑の肌と髪にして悪い妖精やら神様から目を欺くためでもあるらしい。何故、妖精や神々に狙われるのか。………単純に可愛すぎる為らしい。妖精なら、その愛らしい姿を固定させる為に不老不死にしたり、神々の場合は普通に誘拐し、己の使徒にして返すこともあるんだとか。
親達、というよりはエルフ達は幼い頃から狙われない為にその愛らしさを抑える為に緑の化粧とエルフではなくゴブリンと呼ぶようにしていたということである。
「だからねー?ここならこの緑化粧をおとしてもいいとおもうんだけど」
「だめ、ぜったい。ろりしょたこんどもにねらわれる」
「はむはむ………それよりまずはごはん。かれーはかみ」
「ね?可愛いでしょ?」
「そ、そうっすね」
いつの間にか同じテーブルに座っていたのは、可愛い緑肌の子供達。明らかに人間の枠組みを越えたその愛らしさは、その緑肌であっても衰えない。130cmもないんじゃないかな。あと、私達と同じバーテンダーみたいな服だけど、半ズボンだ………!ロリなのか、ショタなのか。それが問題だ!
「手、出しちゃダメよ」
「だ、出しませんよ!?」
「とは言え、子供エルフとは言っても20歳は越えてるから」
「………は?」
「ファンタジーよねー」
三人のゴブリンくん?ちゃん?は私と同じカレーが好みらしい。あと、真横にいる三つ編みのゴブリンさん(食い意地が張ってるジト目の子)からめちゃくちゃいい匂いがする。田中さん曰く、ゴブリンさんの緑化粧は薬草なので、自然の良い香りで落ち着くんだとか。因みにエルフの子供向け化粧としてここで売ってたりする。
そうこうしていると、既に13時過ぎ。そろそろ帰られなければならない。
“じゅんびおけー?”
腰にポーチの様に付けてた竹筒から管狐さんがひょっこりと。どうやら勤務後にダラダラしている方々もチラホラいるみたいだけど、基本的には早よ帰れが平常らしい。
近くにある鳥居に私の管狐さんと一緒に帰れる。
大変で忙しかったけれど、新鮮で楽しかった………かな?
…………けど、私は気付かなかった。
ショッピングモールにいた、魑魅魍魎の強者共に生物の上位種、神々の類いが往来する場所に三時間も留まっていればどうなるか。
そんなこと、素人な一般人な私には知るよしもないことでした。