東館の支配人
“あっはっはっ!そうかいそうかい!新人さんは地球人だったのかい!こりゃ配慮が足りなかったねぇ”
初副業の初接客相手が、ドでかいドラゴンさんでした。あ、首ちょっと痛い。ドラゴンさんも顔を下げてくれてるけど、それでも大きい。あとドラゴンさん、めちゃフランク。
私が知るドラゴンは、ダンジョンにいる主だったはず。討伐されたのはあるのかな?あったとしてもかなりの被害が出てそうな気がする。
「え、えっとお客様?何をお求めでしょうか……?」
“おぉそうだったそうだった。実はな……人間が好きそうなものは何かを探しておったのだ。ドラゴンだからな。人の求めるものはわからぬ。故に人のお嬢ちゃんに聞こうかと”
「そ、そうなんですね!」
ドラゴンが、人に贈り物か………。え、なんで?とはあえて聞かない。ドラゴンさんでもお客さんだから。
「え、えっと……その人の方はご年齢とか、性別とかは」
“……いや、わからぬな”
「え、ぇぇ……」
“だってワシ、ダンジョンの主じゃし”
「………ぇ」
“やっぱ、ダンジョンに来るなら!価値のあるものをダンジョンに配置するのが礼儀であろう?やはり、聖剣?いや魔剣か?いやいや、それよりも魔道具?むむむ………悩ましい”
えぇ……ダンジョンの主さんってこんな感じなのかな。ある意味、ダンジョンに人を呼び込む為にアイテムという名の餌をばら蒔く感じ………うん、こっちの方が意味合い的にしっくりくる。
“して、どう思う?”
「そ、そうですね……。私個人としては」
“ふむふむ!”
「ダンジョンに詳しくはありませんが、イメージとしてですけども」
“構わぬ。続けよ”
「ダンジョンって、危険な場所なんですよね?なら、怪我をすると思う……思います。なので……」
“ほうほう………なるほど。確かに、ダンジョンの奥に行けば行く程に生傷は多くなるだろう。武器なども良いが、それよりもキズを癒す……或いは魔力を癒し、回復させる薬草や薬などの方が良いな。うむ!参考になった!薬は東館だな!よし、新人よ!行くぞっ!”
「は、はい……へ?」
いつの間にかドラゴンさんに咥えられ、背中に乗せられてしまった。アレンさんは『いってらー』みたいな感じに手を振ってる。あと私の肩に管狐さんが“だいじょうぶよー”と言ってくれてるけど、大丈夫なのだろうか。
東館に到着すると、そこはまるで料理店やスーパーに一番があった。しかも日本にある有名チェーン店もある。うわぁ、ダンジョン感無い。あと親近感が溢れるねこれ。
“ここか!うむ……お嬢ちゃん。薬に詳しいかな?”
「あ、いえ」
“そうかそうか。では、ここの支配人に聞くしかあるまい”
支配人、かぁ。西館の支配人クロエさんしか知らないんだよね。と、いうか初日に会えるとは思ってなかったりしてたんだけど。だって、セントラルメインで働くと思ってたし。
“ふむぅ。マシロ殿は”
「あら、珍しい客人なの」
“おぉ!噂をすればなんとやら”
フラりと現れたのは、白髪の狐耳尻尾がある着物の女性でした。しかも異名?通り九つの尻尾。そして何よりクロエさんと負けず劣らずの美人さんでした。しかも私より背高いなぁ。羨ましぃ。
「なの?貴女は……今日から入った新人さんなの?」
“うむ、そうなのだ!しかしワシの相談に乗ってくれる中々良い従業員ではないか!”
「それはそれは……ウフフ。ありがとうなの新人さん。で、何がご所望なの?」
“そうであった!良い薬草か、キズや魔力を癒し回復させるポーションを所望したい!”
「承知しましたなの。では、こちらに」
まさか支配人さん自らご案内………よくよく考えれば凄いことなのでは?もしかしてこのドラゴンって、結構凄い人だったり?
「こちらになります、なの」
案内された場所は……あれ、ドラッグストア?あ、でも横は花屋さんみたいな植木鉢に生えた薬草?とか花がある。
「ポーションもあるけれど、ダンジョンなら薬草も育てられるの。ダンジョンの経営者の方の中には薬草の苗を購入して、自ら栽培してるの」
“ほうほう。むっ……しかし…………いや、そうか。では、各薬草とポーションを貰おうか”
「はいなの!」
“あ、そうそう。そのポーション……えりくさー?を一つ包んでくれ”
「承知しましたなの」
何か凄い単語があったような気が。
にしても凄い。ドラゴンさん、薬草とポーションを百単位で購入してるし。どうやって持って帰っ…………あ、尻尾で器用にしてる。
………そう言えば、決済とかってどうなんだろ。お金かな?
「お支払はどちらにしますなの?」
“〖魔力払い〗で”
「はいなの」
え、何。まるで◯払いみたいに。
後から聞いた話。
〖魔力払い〗とは、購入者が持つ魔力をレジにある魔力入れの宝玉に注ぐんだとか。このショッピングモールでは〖魔力払い〗が主流であり、その者が持つ魔力の質と量で決められるらしい。魔力の質と魔力の量、どちらが高いかというと魔力の質とのこと。
あと、現金払いやクレジットなども可能らしい。ファンタジー要素ェ……。
“お嬢ちゃん。ほい”
「………え?」
こ、これ……確か、えりくさー……では?
さっき日本の金額でウン百億円したんだけど?そもそも入れ物がウン億円って記載がががが。
「た、たかっ!?こ、これは!?!?」
“相談してくれたお礼さ。受け取ってくれないと困るねぇ。ワシの魔力が無駄になってしまう”
「け、けども」
こ、ここここここれ、う、ウン百億円っ!?
「新人さん。受け取ってあげるの」
“うむうむ!新人とは言え、ワシに恐れながらも接客してたことに、誠に感謝!”
「そんな優しいダンジョンの主様にはサービスなの。薬草の栽培に役に立つ肥料や道具、そして説明書もお付けするの!」
“おぉおぉ!これは有難い!また分からぬことがあれば”
「何時でも来店していただければご対応させていただきますの!」
“うむ!うむ!安心だ!では、早速薬草の栽培をする故、帰らせてもあろうかな。ではな、新人の……地球の人よ”
「ご来店ありがとうございましたなの」
「あ、ありがとうございますっ!」
ドラゴンさんはウキウキ気分でご退店される。歩いてじゃなくて、飛んで。あのドでかいドラゴンさんが五匹同時に通れる位の広々とした空間はその為なんだろうね。
「お疲れ様なの。山田サナエさん、でよかった?」
「は、はい!え、えっと」
「私は【マシロ】。東館の支配人をやらせてもらってるの。初日なのに良く頑張った、なの。よしよし」
マシロさんに真っ正面から抱き締められて、頭をよしよしされてます。いい匂いですね、ありがとうございます。ああ、こんな子供扱いされたのいつぶりだろうか。
「いい子いい子。初日に凄いお客さんのお相手、良く頑張ったなの」
「え、えっと……あのお客さん、有名な方なんですか……?」
「地球でも、それなりに名を轟かせた神話のドラゴンさんなの。けど、お客さんとしてはとても優しい方だから安心するの」
地球でも名を轟かせた神話のドラゴンって。
あーもう、何も分からないし聞いてなーい!
「で、ではこれにて失礼し」
「待ってなの、待って」
「は、はひ!?」
ぬ、抜けられないっ!
あ、でも着物の肌触り凄い心地いい……。
「貴女が、伏見の子……私と同郷なのね。不愉快だけれども、アレの…………」
「え、えっと、マシロ支配人!?」
「貴女が心配なの。弱いし」
「ぐぇっ」
「あと才能無さそうだし」
「ひんっ!?」
「更に言うと、弱いの」
弱い二回目!?
マシロ支配人って、結構辛辣なの!?
「だから、おまじない。玄関口にはアレンがいるから大丈夫だけど……念のため、なの」
「おまじない……?」
「そうなの………はい、おしまい。何かあったら周りの先輩従業員に訪ねるの。分からないことは当たり前なのだから」
「も、勿論です!」
「優しいお客様は多いけれども、それでも中には悪い客はいるの」
「………その、悪い客に当たれば、どうすれば」
「地球の、日本の価値観とは異なるけれど……お客様はこちらが決めるなの。まあ、余程の事がない限りは………ふふふふふ」
ひぇっ!
のほほーんとした柔らかそうな性格と優しさの塊かなと思いきや、かなり怖い。一瞬、心臓が止まったかの様な身体が凍てついたかの様で。
“マシロさま。〖総支配人〗がおよびでございます”
「わかったたの。では、山田さん。お仕事頑張って!なの」
「は、はい!ありがとうございます!」
マシロさんの横にいた管狐さんの呼び掛けに去ってしまう。まるで夢幻の如く。煙のように消えていっちゃった。
お、驚いたけど、が、頑張らないと………!
《そこの生者よ》
「はいっ!なんでし…………ゃ、か…………?」
《我に似合う衣服を探しているのだが》
「……は、はい。こ、こここちらへどうぞ」
ど、ドラゴンのお客さんの次は…………が、骸骨のお客様の、ご、ごあんなぁい………。
あ、でもドラゴンさん相手してたからから幾分か慣れてきたかも………ぇ、ちょっとだけですよ?