初出勤
い、いよいよだ………!
残業もあったけど、何とか今日から始まる副業の準備を終えて当日になった。
服は汚れても良いような、けれど悪目立ちをしないようにはしてる。あとは、家で待つだけ……!
「本当に中身ないな」
竹筒の中は、蓋を開ければ見られるけど空っぽなまま。時間は30分前から待機してるけど、9時ジャストに?
アルバイト……アルバイトと言えど、上手く馴染めるかとか失敗しないかとか不安でしかない。けど、稼ぐ為に!
“こんちは!”
「わっ!?」
無かった筈のたけつつからひょっこりと管狐さんが顔を出した。マジックだよ。種も仕掛けもない。
“いっくよー”
「え、どこに!?って、んへぇ!?」
目の前が暗転する。変な、間抜けな声出ちゃった。
まるで、床が抜けた様に。あ、あれだ。落とし穴に見事落ちた感じ。こんな感覚なのかな。
“ついたよぉー”
「!」
「やっほぉー。一週間ぶりだねー、山田さん」
「え、あ、はひ。クロエさんも」
「じゃ、早速だけど色々と用意しよっか!」
クロエさんにお姫様だっこされたまま、私はどこに向かうのかわからないまま行方を眩ますのであった。
眩ませてないけど。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「よーし!着替え完了だね!」
結論、着替えさせられました。制服だからね。
必要な資料の提出と、記入とかは完了済み。で、私は今制服を着用してる訳ですが。
バーテンダーみたいな服装……ですね。しかも服装が、何というか男装してる感じだ。
「この制服は男女ともに同じなのさ!ま、細かい所は差異はあるけどね」
「あ、あの……ここは、どこですか?」
「ん?何処からどうみても大型ショッピングモールだけど?日本のチェーン店やブランドもあるから、日本人なら尚更馴染みやすいかと思ったんだけど」
「いえ、わかります!」
見たらわかる。
けど、場所だ。
「このショッピングモールって、何処にあるんですか……?」
「んー、ダンジョンの中だけど」
「だ、ダンジョン………」
私には縁の無い単語だった……!
というか、私が知るショッピングモールにしては大きすぎる。通路だけでも車2台は通れる位だ。
「じゃ、私は【支配人】だからちょっくら会議みたいなの行ってくるからー」
「へ?」
「なので………おーぅい!【アレン】、教育係り頼むわ~」
どうやらクロエさんは支配人であり、毎朝会議があるとのこと。会議みたいなの、って何さ。
で、代わりに教育係りとして来たのが………。
「へー?新しい子じゃん。しかも私より年下?アーシは【アレン】。一応このフロアのリーダー。よろしく」
「よ、よろしくお願いです」
白髪茶眼の少女。長い白髪は侍の様に結われ、腰には一本の刀。見た感じ髪色は兎も角、古風な風貌でむしろ堅苦しいイメージだけど。
「堅苦しいのはよしてー?アーシはこれでも〖勇者〗でさ。それなりに強いし、何かあっても従業員達を守れる様に努力はするから。ま、元が付いているし、追放されたんだけどねー」
「つ、追放!?え、えっと、〖勇者〗?」
「山田サナエだっけ?サナエでいいよね?サナエは、地球から来たんでしょ?アーシは地球とは違う異世界の出身。〖邪神〗を倒して英雄になったけど………結局、王族貴族がアーシの力を恐れて毒殺や暗殺者を仕向けられた哀れで愚かな女ってこと」
「そ、そんな…………」
「本来なら絶望して復讐とか考えるところだけどさ。ま、アーシの場合は【総支配人】に拾われたからさ。今じゃ、笑い話だし」
「そ、そうなんですね」
アレンさんからこのショッピングモールについての説明をされる。
アレンさんが担当するエリアは〖玄関口〗。基本ここからお客様が入店するとのこと。中央通路とも呼ばれているけど、特に何かがここいある訳じゃないけど、セントラルから右や左。そこへ向かう為の通路がある。
左は、西館。
右は東館。
下は南館。
上は北館。
四つのフロアが存在するとのこと。
西館は、生活で必要な寝具や風呂具、ソファーや椅子机などの家具を。
東館は、薬草や薬草などを加工した薬品。食材そのものや、料理を。
南館は、鉱物や家電や電気ではなく魔力で動く魔力道具を。
北館は、〖花園〗と呼ばれていて一般の人は入れないらしい。
東・西・南・北のそれぞれの館には、それぞれ支配人が存在している。
東館の支配人、【雪花の白九尾マシロ】。
西館の支配人、【黒焔の隠神狸クロエ】。
南館の支配人、【奈落の黄昏アバドン】。
北の支配人兼〖総支配人〗、【コリュウ】。
この四名が、このショッピングモールを管理し支配している。あ、支配人の方々の異名っぽいの怖いなぁ。総支配人はコリュウ?りゅうってことは、ドラゴンってこと?
それにクロエさん……黒焔とか、神とか中々、物騒だよね。ああ、何でドクターをああも簡単に蹴散らせたのか理解したかも。
「試用期間中は、このセントラルで主に来客の対応。で、試用期間後にこのセントラルか。或いは東西南北の四つの館の領域に配属を希望するか。そのどちらかだし」
「そ、そうなんですね」
「そーそ。あと、サナエがいる地球は人間しかいないんだっけ」
………もしかしなくても?
いや、このショッピングモールの大きさといい何となく嫌な予感が。
「その感じ、何となく理解してる感じね。じゃ、そろそろ開店だからさー。始めてくるお客さんとか、久々に来るお客さん。あと、求めてるものが何処にあるかわからない客もいるから。ま、わからなかったらアーシにきーてちょ」
そう言いながら、アレンさんはウィンクして少し離れた場所にいた同じ従業員らしい………え、杖?あと、え、ちょ、まって!?
“どうかされたか?”
「あ、いえ、別に」
私の近くに、同じ制服を着た………熊、さんが。え、フツーに怖い。ホッキョクグマではなかろうか。しかも二足歩行で。
あ、狼さんもいる。流石に四足歩行か。あれ、結構大きいけど、何故だろうこの安心感は。
“………………もし”
動物とかって、動物園とかでしか見たことないんだよね。ダンジョンにも大きなモンスターとかいるらしいけど、画像とか写真とかしか見たこと無いし。
“お嬢ちゃん?”
「っ!?す、すみません!なにかごようで…………しょ、か……?」
“おやおや、漸く気付いてくれた”
熊に狼、更に言うとエルフやケモ耳尻尾ならまだ平静を装ってスルーは出来る。
けど、これは…………。
“む?どうしたのかな。お嬢ちゃん?おーい?”
声を掛けてきた最初のお客さんが、地球の各国で語り継がれる西洋のドラコンさんだなんて………なんて無茶苦茶なぁ!