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メリーさんと北館①



 『もしもし………私、メリーさん。いま、あなたのうしろにいるの』



 それは突然であった。


 電話が掛かってきたのは、出勤前。しかも直前だ。


 メリーさん、メリーさん。怖いですよ?ですけどね?あの、あるじゃないですか。もっと遠くから始まるものじゃないですか。

 何故ゆえに、最初から私の後ろに?



 “はよいくで~”

   


 あ、待って待って管狐さん。


 えっと……メリーさんって、怖い系の都市伝説の奴だよね。しかも、絶対殺されるじゃん。え、どうするのこの状況。これから入れる保険はありますか?


 ま、それよりも。



 「仕事前に電話とか喧嘩売ってます?」


 『ぇ…………わ、私、メリーさん。あなたの後ろに』

  

 「はぁ」


 『溜め息!?』


 “ほな行くで~”


 『え、管狐!?』


 

 どうにでもなれ、とポイ捨てする私は前よりか神経図太くなってる気がする。これは良いことなのか悪いことなのか。


 結論、私こと山田早苗はメリーさんと一緒に職場に向かうのでした。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



 「喧嘩、売ってるの?」


 「ひ、ひぃぃい!?!?」



 現在、私は東館の支配人、【雪花の白九尾マシロ】さんの元に来ています。

 マシロさんの目の前には………まるで人形の様な、金髪碧眼の少女がいました。赤く可愛らしいエプロンと少々血痕がついて………どなたかころしました?あとマシロさんが、ニコニコ笑顔だけど耳と九つの純白の毛が逆立っています。うん、ぶちギレてますねはい。



 「よくも、私達の従業員に手を出そうとしましたのね……」


 「誰よ誰よ!?こんな大妖怪なんて知らないわ!?」


 「聞いているのは私、なの」


 「きゃぁぁぁあっ!?!?何よ何よ!こんなの、祟り神や禍津神よりも禍々しいじゃない!」


 「あら、面白い単語が聞けたの。貴女はどこの勢力に属してるのかしら。とても、とても気になるの」


 「な、なによ。わ、わたしはどこにも」 


 「正直、どうでもいいの。けれど、私達の………【ラビリンス】の従業員に手を出そうとしたツケは払ってもらう。例え大妖怪だろうが、大神だろうが、混沌なる者だろうが」


 「ひ、ひぃぃい!?!?い、いやぁ」


 

 うわぁ………ガチ泣きです。メリーさん、マシロさんにガチギレされてわんわん泣いてます。いや、メリーさんも怖いんだ。

 本来なら何時もの事務室の鳥居前に転移されるけど、マシロさんがメリーさんの気配に既に察知した為にここに管狐さんを呼び寄せたんだとか。

 管狐さん達は全員、マシロさんの眷属とのこと。一匹一匹に名前があるらしく、このラビリンスには百匹はいるとのこと。 

 


 「………さて、どう料理してやろうかなの」


 「わ、私を殺す気!?」


 「なの?貴女に殺す程の価値はあるの?」


 「ぇ」


 「(うわぁ)」



 支配人さんと接する機会は全く無い、と思ってたけどクロエさんとマシロさんだけは頻繁によく会う機会がある。他の二人の支配人さんとは顔も知らないし、話したことも無い。

 普段、マシロさんはお母さんみたいに優しい人。母性があって、従業員である私達を子供の様に慈しむんだけど、私より倍以上の年齢は生きているということ。因みに未婚で、そもそも結婚する気が微塵も無いらしい。

 けれども、マシロさんは従業員達やお客様には優しいが………敵対する人は容赦ないタイプ。敵対する態度をすれば、微笑んでいる様で目は全く笑っていない。これが私にとって非常に恐怖に感じる。やっぱ、普段感情に出さずに優しい人ほど一度キレると怖いものはない。


 でも、非情で慈悲がない訳ではない。



 「貴女、名前は」


 「め、メリーさんよ。知ってるでしょ。都市伝説の代表的な怪異を」


 「アホなこと言ってないで、本名は何なの?ふざけるのも大概にするなの」


 「ふ、ふざけてない!正真正銘、私はメリーさんよ!」


 「……この子、頭おかしい子なの。サナエ、人付き合いはよく考えるの。マシロ的に縁を切るべきなの」


 「ぇ、ぃぇ、全く面識が無くて」


 「つまり、ストーカー………なの?サナエは年齢より幼く見えるから、子供を狙った変質者なのね。同じ同性として、これは許さざるべきことなの。そこの“バカな子”。マシロが直々にしつけるの!」


 「ば、バカな子って私のこと!?」


 「この場で誰がいると思ってるの、なの」



 そう言えば、そもそもメリーさんは何で私を狙ったのだろう。あ、いや、私が弱いからかな。それだけでも……うん、納得する。



 「で、ストーカーさん。何故、この子を狙ったの?」


 「そ、それは………この小娘が、凄くヤバい(・・・)匂いがしたから………」


 「そのヤバい匂いをする子を狙ったのね」


 「ほ、他の妖怪達は皆ビビって怖じけついたのよ!あの大妖怪ださえ、『あの餓鬼に手を出すな!』って………。私達は怪異であり妖怪。こんな小娘に怯えて暮らすなんて、そんなの、許せる訳がないじゃない!どこにでもいる、雑種の!しかも、その雑種よりも弱いくせに!」


 

 あ、あの、そこまで言います?

 弱い、最弱なんて学生時代に夢見ていた冒険者の適正でそう叩き出されてたし、それを自覚はしてるけど………他人にこうも言われると少し凹む。



 「で、でもこの小娘の匂い………あ、あんたから同じ…………ま、まさか」


 「なら、わかるでしょう?この子は、マシロの加護を付けてるの。この子はマシロの庇護下。その庇護下の子を、貴女は手を出そうとしたの。妖怪怪異でも、この意味はわからない?」


 「………くそっ!」


 「あ゛?」


 「ぁ、なんでもなぃですぅ………」



 あ、メリーさんヘタった。


 うん、怖いね。出勤前にトイレ行っててよかった。絶対チビってたから。それに、見せつけるかの様に何処から出したか分からない透き通った刃のない太刀をトントンと叩く。あ、学生の頃を思い出すなぁ。



 「で、本名は」


 「め、メリーさん………なんですぅ………」


 「…………貴女の名前は【リカ】なの。これ決定」


 「なんで!?」


 「貴女の特技は」


 「ぇ、ぇぇ……ひ、人とをおどかすなら」

 

 「…………他には」


 「つ、追跡とか……」



 まあメリーさんだからね。正式にはメリーさんの電話だっけ。

 


 「転移に」



 いつの間にかいるもんね、後ろに。

 ゴミ箱から順々に、玄関前に、最後には背後に………だから。よくよく考えたらホラーだ。



 「あと、千里眼………しか、ないです」


 「!?!?」



 【千里眼】、別名天眼通。


 地球上、それを保有している人間はいない。過去の偉人にいたとされる記録はあるけれど、その能力は凄まじいもの。

 ああ、だからか。メリーさんは何処からともなく電話を掛けて、いつの間にか背後にいる。そもそもそのターゲットを正確に居場所を突き止める理由はその【千里眼】のお陰なんだ………伝説の眼、まさかメリーさんが。教科書とかテレビの特集とかでしか聞いたことないよ。



 「…………」


 「ぇ、ぇと、ど、どうてすかね………?(あ、あれ?なんで私下手に出てるの?)」

 

 「………他に、あるでしょ?」


 「ぐっ…………か、看破も、出来ます」


 「やっぱりなの」


 「(ちーとやん)」



 【千里眼】に【看破】


 【看破】に関しては【千里眼】程の希少性は低いけれど、それでも世界中に二桁程しか存在しない。けど、特殊な眼だからかその保有者は身体能力が低かったり、体力が少ないことが保有者全員に共通しているとのこと。



 「千里眼に看破なら、働くには十分なの」


 「ぇ、働く?」


 「単純に従業員を増やそうと思ってたところなの。丁度、サナエにアホそう…………こほん。社畜に出来そうな貴女を見つけたからわざわざ連れてきたの。感謝するの」


 「あれ、言い直す必要あった?あと言い直すにしても、前より酷くない?」


 「?」


 「(あぁ、もうダメだ)」



 メリーさんの未来は確定した。


 【ラビリンス(ここ)】で働く運命(さだめ)なのだと。



 「サナエ、まだ試用期間中だけどこの子は貴女の後輩なの。勿論、新人だからアレンに任せるけど………困ってたら出来る範囲でサポートしてほしいの。あ、勿論時給は上げておくのね」


 「ぇ、ぁ、はい」



 本当にメリーさんを働かすんだ………。


 もうすぐ試用期間終わるから、新人さんに教える立場になるんだろうか。そして試用期間中なのに時給が上がる件について。嬉しいことに、確定申告面倒かも……。



 「まって、まってまって。私働かないわよ」


 「あ、ごめんなさいなの。これが【ラビリンス】で働く上での待遇なの」


 「はぁ?待遇とか関係な……………時給2500円………?朝昼夜賄いあり…………送迎あり…………資格手当あり…………ぁ、特別休暇……………ぇ、健康診断も…………ボーナスも………ま、まってまって!?従業員割引制度に、あのブランドまで適応されるの!?」


 「そのブランドは【ラビリンス(ここ)】にもあるの。だけど、割引は【ラビリンス】だけ。他の場所でも適応すると色々不都合があるから、なの。リカなら正社員になるには十分だから、これも見ても良いの」


 「………………これ、マジ?」 


 「正社員にしては低い?それは申し訳ないの。これが」


 「いやいやいや、低い?しかも新入社員で?あ、あんた、これ見てそう思う?」



 そうメリーさんはマシロさんから渡された雇用契約書(仮)を私に見せる。うん、正社員登録もあるから気にはなってたけど………なになに?


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業務内容

 

□契約期間

 期間の定めなし

□就業時間(シフト制)

◯日の部(7時間勤務)

 【1】 6:00~14:00

 【2】10:00~18:00

 【3】13:00~21:00

●夜の部(7時間勤務)

 【4】18:00~2:00

 【5】20:00~4:00

 【6】22:00~6:00

 【7】 2:00~10:00

□休憩時間

 ◯日の部:1時間 

 ●夜の部:1時間

□休日

 ◯日の部:完全週休二日制

 ●夜の部:完全週休二日制

□時間外労働

 あり(※1日平均一時間)

□賃金

 月給25万円(残業代は別途支給※1分単位から)

 ※資格手当(別途冊子にて)

 ※異世界語手当(一世界語につき1万円~)

□加入保険

 雇用保険

 労災保険

 年金保険

 健康保険

□募集者

 ◯日の部

 ●夜の部

 ※アルバイトから昇格希望者のみ

□福利厚生

 朝昼夜食堂利用無料

 魔力・霊力・妖力・神力補給あり(事前の検査後で問題がない場合の方のみ)※勤務外の場合は有料

 異世界語翻訳器貸与※勤務後に必ず返却

 従業員割引制度(【ラビリンス】のみ)

 託児所あり(※5歳まで)

 メディカル休暇

□雇用形態

 正社員

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 なんだぁ、最高じゃねぇか………と、言いたいところだけど日本人の私からすれば本来、対人だけの接客ではなくドラゴンさんや魔王様にアンデッドさんと言ったモンスターの方々もご来店されるので、メンタルは強くないと。



 「因みに、夜の部は募集してないの。種族的に(・・・・)夜しか(・・・)向いてない子が大半だから」



 つまり、夜の部。夜勤は夜行性の方々が働いてるとのこと。地球なら夜勤であるけれど、異世界の場所によっては真夜中に働く仕事はあるにはあるものの酷だったり、非人道的だったりするとのこと。無論、種族差別的などで雇われない場合があるんだとか。なので、夜の部は獣人やフクロウなどの鳥人、ドラキュラなどの方々が既にいるんだとか。



 「…………これ、どう思う?」


 「好条件でしかないです」


 「そうよね………しかも妖力もくれるとか。あぁもうっ!断る選択肢なんて、ないじゃない!?」


 考えてもみてほしい。

 給与25万円から手取りは幾らか減るとして、朝昼晩はここで賄いを。しかも通勤は管狐さんが連れていってくれるから交通費や交通にかかる時間もほぼない。因みに勤務前後は10分ごと、合計20分は準備手当として残業代?がしっかりと支給されてる。家賃や水道代光熱費などの生活に必ず発生する金額のことを考えると…………貯金にするのも十分。私は最近、ここで仕事をすることに役立つ勉強をしてるけど…………。



 「魅力的過ぎるのよ!妖力と神力を貰えるって」



 メリーさん曰く、妖怪怪異の方々は妖力や神力を生命エネルギーとして糧にしているらしい。しかもその妖力や神力は地球上に存在しているらしいが、そういう場所に限って大妖怪大怪異達が縄張りにしている。大妖怪大怪異が我が物とするその妖力と神力が溢れる大地は只では貰えず、彼らの配下などになるしかない。しかも十分に与えられぬ者も多いのだ。故に、人を襲い微かにある妖力と神力に準ずる力を奪ったりしているのだ。そうなると人間達から悪鬼と呼ばれ討伐されるしかない。


 しかし、メリーさんは「はっ!?」と何か正気に戻ったのかマシロさんに疑いの目を向ける。


 

 「………けれど、本当なのかしら。あまりにも好条件過ぎるもの。給与面は正直、私にとって重要性はない。けれど、妖力と神力を、本当にくれるの?」


 

 まあ普通は怪しむよね。あまりにも好条件だから。私もそうだったけど…………うん、感覚おかしくなるよネ!



 「嘘をついているつもりはないけれど…………うん。けれど、ミスマッチが発生してからじゃ遅いの。よし!じゃ、行ってみるしかないの!」


 「行ってみる?」


 「マシロ、さん?」



 行ってみる、とは?



 「そう言えばサナエは初めてなのね。北館の〖花園〗は」


 「〖花園〗って…………滅多に入れない場所!」



 北の支配人兼〖総支配人〗、【コリュウ】さんがいる場所らしい。因みにもうすぐ試用期間終了するけれど、一度も行ったことも無いし、聞かれたこともない。

 北館は一見さんお断りエリアであり、普通に入れる領域ではない。大抵凄そうな人が往来しているけれど、多くはない。



 「サナエなら(・・・・・)大丈夫なの」



 ………なんだろう。考えすぎかもですが、意味深な言葉ががががが。



 

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