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第2話 最高の遊戯

 悪い意味で個性豊かな面々に囲まれながら俺は教室の席に着いた。

 美瑠々は俺の後ろの席に座る。出席番号の関係で俺達は運良く前後の席になったらしい。


「ね…ねぇ…メグル?」

「どうした美瑠々」


 背中をツンと突かれ後ろを振り返ると、美瑠々が気まずそうな顔をしている。


「わ、私…この人たちと友達になれる自信ないよ…!」

「まぁ、それは同感だな。思ったよりヤバすぎる。もっとガリ勉野郎の集まりかと思っていたが…」

「わはは! まるで自分たちはさも真人間であるかのような言い草だね」


 俺の右隣から声を掛けられた。

そちらを見ると、にこやかな顔をしたブロンドヘアーの癖毛男子と目が合った。制服のシャツはズボンからはみ出ており、非常にだらしない。


「いや、そんなつもりはないが…」

「嘘が下手だね。本心では自分が一番優秀だと思ってるし、クラスの奴らは馬鹿ばっかりだって思ってるんでしょ?」

「なっ…!」

「わはは! 隠さなくたっていいのに~俺は君と仲良くしたいだけなのさ」


 そう言うと彼は歯を見せて笑う。直感した。俺の嫌いなタイプだ。俺は彼との会話を切り上げるため、その言葉には返答しなかった。


「……常識を語る奴は非常識な奴ばかりさ。きっと君もそうなんだろ」


 その声に俺は畏怖した。

 そろりと右を見れば、先程の明るい雰囲気を纏った彼はそこに居なかった。冷酷な目をして宙を見つめている。まさに別人のようだった。


「は~い! 皆さ~ん、席についてください! これから入学式を始めますよ~」


 手をパンパンと叩きながら一人の女性が教室に入ってくる。

 クリーム色のワンピースに紺色のカーディガンを羽織っていて、穏やかそうな人柄が滲み出ている。彼女は教卓の前に立つと自己紹介を始めた。


「今日から皆さんの担任になります、瀬野紘子(せのひろこ)です! よろしくお願いしま~す」


 彼女の年齢は二十代後半といったところか。緩く巻かれた黒のロングヘア―と、たわわな胸を揺らしながら笑顔で挨拶をする。どこかから「おお~…」という男子の声が聞こえた気がしたが。


「…ちょっと待ってよ。入学式ってここでやんの?」


 黒髪のボーイッシュな女子が机の上で組んだ脚をユラユラと揺らしながら瀬野先生に尋ねる。


「はい、そうですよ~新入生は皆さんしか居ないので体育館を使う必要はないと判断しました~」

「はぁ? バカにしてんの? 新入生を祝う気持ちが無いっていうか、そもそも人数が少なすぎるでしょ」


 ボーイッシュな女子はさらに悪態をつく。二人の言葉に教室内はざわついた。入学式を教室で行うというのは変な話だが、この教室に居る生徒はピッタリ二十名。

一年生はこれで全員なのか?


「ごめんね~今年は不作なのもあって…上からの指示っていうか…早く話を進めないと怒られちゃうのよ。だから入学式は時間短縮のために教室で行う事になりました~」


 瀬野先生は頬に片手を添えて困り顔を見せる。教室内からは不満の声が飛び交っている。そんな中、一人の好青年が声を上げた。


「皆、先生を困らせちゃいけないよ。僕たちの為に時間を作ってくれてるんだ。黙って指示に従おう」


 彼は立ち上がってクラスを静まらせる。ようやくまともな奴が出てきたと思ったら海パンを履いていた。え、海パン?


「ありがとう(あずま)君! それじゃあ早速だけど入学式を始めさせてもらいま~す」


 誰もその奇妙な光景にツッコミを入れる事はなく、皆ただ茫然と二人を見つめていた。

 瀬野先生は深呼吸をすると言葉を紡ぎ始める。


「まずは皆さん、ご入学おめでとうございます! 今日からこの恋命高校の生徒として学校生活を送っていくことになりますが……」


 そこで瀬野先生の表情が変わった。先程の和やかな雰囲気とはうって変わり、歪んだ笑顔を見せる。


「皆さんには、あるゲームに参加してもらいます」

「は? ゲーム?」


 俺は思わず声を上げた。学校には似つかわしくない単語が先生の口から放たれたからだ。


「はい! その名も『汝は恋人なりや?』。愛か? 金か? 欲望渦巻く禁断の遊戯!」


 瀬野先生はそう言い切ると不気味な高笑いを上げる。彼女が口にした内容と、その豹変ぶりに俺達はあっけに取られていた。


「あ、あの…ここは学校…ですよね?」


 窓際の席にいる白髪の小柄な女子がおずおずと手を挙げて発言する。


「ええ、この学校は恋愛教育を主体とした学校です。教育カリキュラムの一環だと考えていただければ結構です」


 瀬野先生はご機嫌な様子で返答する。


「その…汝は…なんとかっていうのは…一体何なんですか?」


 榊原の質問に瀬野先生はニヤリと口角を上げた。


「勝てばお金と恋人が手に入る、人間の欲望を詰め合わせた最高のゲームですよ」


 瀬野先生は笑う。俺は理解の及ばない状況に、ただ息を飲むことしか出来なかった。

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