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第10話 ゲームの鍵

 美瑠々と交際契約を結んだ後、俺は学生寮の自室に戻っていた。

 …というのもスマホの充電が切れてしまったからだ。今はデスクの上にある充電器に刺して放置している。


 しかし、新品のスマホで1日しか充電が保たないってどういう事だ。昨日スマホの電源を入れたのは15時頃。そして電池が切れたのは今日の15時頃。ちょうど24時間だ。そこまで使用していた覚えも無いのだが…


 俺はスマホのホーム画面を開く。ふと所持金ページを開いてみた。

 

〈所持金80000円〉


 半田から頂戴したお陰で3万も増えた。このペースなら俺の目標金額にも届くかもしれない。今はとにかく金を増やさないといけない。


 所持金管理アプリには「プレイヤー情報」と書かれたページがある。ふとそこをタップしてみれば俺の名前が表示された。


〈プレイヤー「鹿羽巡」/想い人なし/現在の役職【薄情者】/交際契約者「白ノ江美瑠々」〉


 昨日までは無かった文字が並んでいた。

先程、「恋人」になったばかりの幼馴染の名前だ。


「美瑠々…」


 なぜ彼女は俺に交際契約を持ち掛けたのか。

 彼女は臆病で何事にも慎重で用心深い。こんな大胆な行動に出ることなど滅多にない。

 奇しくも幼馴染だから分かる事だ。


彼女はこの学校に来てから何かがおかしい。俺に協力するというのは本心なのだろうか。


そして…美瑠々が交際契約を提案出来たという事実。それは二つの可能性を示していた。


一つは、彼女の役職が【遊び人】であること。この場合は、俺が隙を見て〈指摘〉を行えば20万円が手に入る。しかし、確信が持てるまでは指摘をするべきではないだろう。失敗すれば『劣等生チケット』が配布されてしまうからだ。


もう一つは、美瑠々の〈想い人〉が「俺」であること。

交際契約の提案は基本的に想い人にしか行えない。つまり……美瑠々は俺のことが好きであるという可能性だ。


「まぁ…普通に考えれば後者の可能性の方が高いんだろうな」


 俺はベッドに横になりながらボソリと呟いた。

 美瑠々の気持ちは……数年前から薄々気付いていた。それでも俺は気付かないフリをした。彼女は俺の『家族』だからだ。


 そう思い込む方が都合が良かった。だからさっきも美瑠々に釘を刺したんだ。


『俺達は恋人になれない』


 そう伝えたのだ。俺達は、ただの利害関係者。

 美瑠々が俺に協力すると言ったのも、俺の心配をするのも…結局は俺の気を引くための打算でしかない。


 いつかきっと、少しでも可能性があるのなら…


 そんな彼女の献身的な想いは、時に俺の心を揺らがせることもあった。それでも俺は自分の考えを曲げられなかった。


 たかが幼馴染に心を惑わされてたまるものか。

彼女の想いが真実でも、偽りであっても俺には関係ない。俺は幼馴染さえも利用する。

自由になる為なら……何を犠牲にしたって構わない。


俺は全ての嫌な思考を振り払うように両手でグシャグシャと頭を掻いた。



 その時、スマホからコール音が鳴り響いた。

 画面を見れば「非通知設定」の文字。そういえば昨日もこんな事があった。


 俺は溜め息を零しながら応答ボタンをタップする。


「……誰だ」

「分かってるだろ? ベガさ」


 加工された低音の声。昨日の電話の主と同じ奴であると確信した俺は分かりやすく不機嫌な声を出してみる。


「またか。今度は何の用だ」

「釣れないねぇ…鹿羽巡。今日はまともな用事だから安心したまえ」


 電話越しから笑っているような息遣いが聞こえてくる。


「……ベガ。少し聞きたい事がある」

「ほう、なんだね?」

「お前は生徒会長である重織姫かさねおりひめの関係者か?」


 その問いの後、数刻の沈黙があった。

 今日の校内放送で『織姫』という名の生徒が挨拶をしていた。そこで俺は『ベガ』に揺さぶりを掛けてみる事にしたのだ。


 しばらく間を空けて奴が喋り出した。


「なぜ、そう思う?」

「『ベガ』って星で言うところの『織姫』だろ。わざと意識させるようにそのコードネームを名乗ったのか?」

「………さぁな。私がそれに答える義理はないね」

「……そうかよ」


 満足する回答は得られなかったが、奴の反応を見られただけでも十分だろう。

 俺達は通話を続ける。


「昨日は話せなかった事を話したくてね」

「……なんだよ」

「カップル成立おめでとう。随分とモテ男じゃないか」

「なっ……!?」


 俺は言葉を失った。

つい数時間前の出来事が筒抜けになっているとは思わなかったからだ。


「なぁに、恥ずかしがることはない。このゲームにおいて恋人がいるということは、勝利までの道筋がいくつも存在するという事だからな」

「……意味が分からないぞ」

「ははは! すぐに分かるさ。君がいかに恵まれた状況にいるのかっていう事をね」

「…なぜ俺の情報がお前に筒抜けになっているんだ…?」

「言っただろう? 私は学内のあらゆる情報を確認できる立場にあると」

「……ベガは学校とゲームの運営側、ということか?」

「その認識で構わない」

「それなら俺みたいな一生徒に肩入れするのはマズいんじゃないのか」

「いいや? 案外こちら側は自由なのさ。行動に制限は無いのでね」

「そうか…」


 ベガに監視されていると思うと気分が悪いが、運営者であるならば出来るだけ情報は搾り取っておいた方が良いだろう。


「それで……本題は?」

「……交際契約を結んだからには役職選択に悩んでいるんじゃないかと思ってね」

「何かアドバイスでもしてくれるのか?」

「ああ、もちろん」


 ベガは上機嫌な様子で答える。


「この『汝は恋人なりや?』では‘配布用’ルールブックには記載されない重要な補足情報があるんだよ」

「……補足情報…?」


 俺はその文言に違和感を覚えた。重要な情報であるにも関わらず、ルールブックに記載しないという事はゲームの公平性を欠く行為であるからだ。


「この役職選択……選択を間違えると人生が終わる可能性がある」

「……は?」


 ベガの言葉はやけに大袈裟なものだった。たかがゲームの役職選択で…人生が終わる?


「私は嘘を吐かない。君の為に言っているんだ」

「……それが真実であるという証拠も無いだろ」

「ああ、そうだな。だから、ちゃんとした契約を結んで情報の取引をしよう」

「…契約?」

「私は正確な情報を君に渡す。その対価として君が私に金を支払う。そういう契約さ」

「結局は金稼ぎか。運営も生徒から金を巻き上げて良いんだな」

「そうさ。この学園にいる全ての人間は金に関する自由が与えられている」

「ふーん…?」


 俺はしばし思案する。ベガを信用して良いものか。

 ヤツが胡散臭いのもそうだが、得体の知れない人間と契約を結ぶというのは抵抗があった。それに、情報の真偽を証明する方法もない。俺に旨味の無い状態で他人に利用されるのは気に食わなかった。


「迷っているのかい?」


 ベガが愉快そうに話し掛けてくる。


「俺は……」

「鹿羽巡、君は金が欲しいんだろう?」

「……ッ!」

「私が君に教えた情報を他のプレイヤーに横流ししてもいい。ゲーム序盤の今、金を叩いてでも情報が欲しい奴はいくらでもいるだろうな」

「………情報でも金は稼げると…そういう事を言いたいのか」

「ああ」

「それでも俺は……お前を信用しない」

「そうか…残念だ」


 話す気を無くしたと思われるベガの様子を感じ取った俺は電話を切ろうとした。


「君たちが上手くいくのを祈っているよ。部屋の扉、ポストを確認しておくといい」


 一言だけそう呟いたのが聞こえた。通話が終了して、真っ黒な画面を見つめながら俺は一つ溜め息を吐いた。


「ポストか…」

 

 俺はフラフラとした足取りで部屋の扉に向かう。扉の下部には郵便受けのような物が付いており、開閉できるようになっている。それを開けると白い封筒が一つ入っていた。


「『特別チケット』ねぇ…」


 封筒にはそう書かれている。封筒の中には一枚の紙と高級感のある白いチケットが入っていた。紙は説明書きのようだ。


〈鹿羽巡 様

 この度は交際契約の成立おめでとうございます。記念として『特別チケット』を1枚プレゼント致しました。チケットにボーナスの内容が記載されていますのでご確認ください。今後とも充実した学校生活と恋愛をお楽しみくださいませ。『汝は恋人なりや?』運営事務局より〉


「ふざけた手紙だな…」


 俺はその紙切れをデスクに放り投げ、チケットに目を通す。上品な白地の厚紙に金色のラインで装飾がされていて無駄に豪華だ。そのチケットには「所持金保管庫の利用権利」と記載されており、QRコードが付いている。


 そのQRコードをスマホのカメラで読み込んでみる。すると自動的に画面が切り替わった。


〈交際契約ボーナス「所持金保管庫」の使用方法〉

・所持金管理アプリに保管庫機能が追加されました。所持金はいつでも保管庫に移動する事ができます。この保管庫を利用できるのはチケットを読み込んだ本人のみです。


「……金を保管庫に移動したからって…何が変わるんだよ」


 俺が文句を垂れると同時に説明画面が進んでいく。


・保管庫に移動させた所持金は、1年前期のゲーム期間中、いかなる問題が生じた場合でも運営に没収されません。保管限度額は100万円です。


 その文言を見て俺は理解した。この「所持金保管庫」の有用性を。


「つまり…所持金を常に保管庫に入れておけば、急に一文無しになることは無いってことだ」


 『汝は恋人なりや?』における大半の役職は、敗北条件を満たすと運営に所持金を没収されるというペナルティが発生する。大金を得るチャンスが与えられているとはいえ、美味しい話ばかりではないという事だ。所持金保管庫は、そのペナルティを軽減する役割があるということらしい。


「結構いいもん貰ったな。交際契約を続ければ毎月チケットが貰えるらしいし、早めに交際契約を結べた俺って勝ち組じゃないか?」


 俺はベッドの上でふんぞり返りながら先程の通話でベガが言っていた事を思い出していた。


〈すぐに分かるさ。君がいかに恵まれた状況にいるのかっていう事をね〉


「なるほどな…ベガが言っていたのはこういう事か」


 交際契約を結べば戦略の幅が広がる。ボーナスも受け取れる。さらに…実質的な協力者も手に入る。滑り出しとしては予想以上の出来と言えるだろう。


「感謝するよ……美瑠々」


〈プレイヤー「鹿羽巡」/4月8日(ゲーム終了まで145日)/所持金80000円〉

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