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第9話 変わらない想い

「私の……恋人になって欲しいの」


 美瑠々は確かにそう言った。

 俺は彼女に抱き着かれた状態で固まっている。


「恋人…?」


 俺がうわ言のように呟いても彼女は何も言わない。


「それは本当に……美瑠々の意思か?」

「……そうだよ、だからお願い」


 美瑠々は俺から身体を離し、真剣な眼差しで俺を見つめている。


「それは……ゲーム上で交際契約を結びたいってことで合ってるか?」

「…………うん!」


 美瑠々は頬を染めて、元気な笑顔を見せた。


「少し…早い気がする。周りの出方を探ってからでも遅くはないと思うが」

「だからこそだよ」


 戸惑う俺とは対照的に美瑠々は自信あり気な様子で返答する。そしてそのまま言葉を続けていく。


「情報が無いゲーム序盤の今だからこそ、先手を打つのが大事なの」

「まぁ……分からなくもないが………美瑠々、何か…焦ってるのか…?」


 俺の言葉を聞いた美瑠々は一瞬、目を逸らした。しかし、何事も無かったかのように、すぐ笑顔に戻る。


「私はメグルと一緒に、このゲームに勝ちたい。それには確実な協力関係が必要不可欠なの。交際契約は…勝つための手段だよ」


 美瑠々の真剣な眼差しに日和りそうになる。彼女は本気だ。


「……交際契約を結べば協力しやすくなるのは確かにその通りだ。だが、肝心の契約に必要な条件を…俺は満たしてない」


 『汝は恋人なりや?』では、クラスメイトと恋人関係になる…言い換えるならば他のプレイヤーと〈交際契約〉を結ぶことでボーナスを得ることが出来る。


 しかし、その交際契約を提案できるのは、好きな人…いわゆる〈想い人〉がいるプレイヤーのみ。例外として役職が【遊び人】であるプレイヤーは誰にでも交際契約を持ち掛けることが可能らしいが。


 俺は昨日の脳波チェックで〈想い人なし〉と判定されている。それに、俺はまだ役職を選択していないため初期設定の無能力役職である【薄情者】のままだ。つまり、俺は現状、交際契約を結べない。


 ……他のプレイヤーから告白を受けた場合は別だが。


「だから……私からお願いしてるんじゃないですか…」


 美瑠々は赤く染まった顔を背けながら不貞腐れたような声を出す。


「お前は交際契約を提案できる状態にあると、そういう事だな?」

「………そうだよ」


 彼女は静かに頷いた。


「……………分かった。交際契約を結ぼう」

「ホント…!?」


 俺の回答に美瑠々は顔をパッと明るくする。


「ただし、条件がある。この契約を履行する上での条件だ」

「……条件…?」


 俺はベンチから立ち上がり、座ったままの美瑠々の正面に立ち、彼女を見下ろす。


「今日から俺達は利害関係者だ。このゲームに勝って、金を得るために協力するだけの仲間。そして…お互いのプレイングに口出しはしない……それでいいな」


「えっ……?」


 美瑠々は目を見開いて間抜けな顔をする。

 俺の言葉は、彼女に半ば圧力を加えるような自分勝手なものだった。


「初めのうちに認識は合わせておきたい。勘違いで関係が崩壊する可能性もあるからな」


 美瑠々は目を泳がせながら膝の上に置いた両手の指先に力を込めていた。俯いて、彼女は震える唇を開く。


「……それで、いいよ。その方が……メグルも動きやすいもんね」


 彼女は眉を下げて控えめな笑顔を俺に向ける。


「じゃあ……契約を結ぶか」

「うん。ちょっと待ってね……」


 そう言うと美瑠々は鞄からスマホを取り出し、操作する。しばらく待っていると俺のスマホに通知が届く。


〈交際契約の提案が届きました。内容を『契約アプリ』にてご確認ください〉


 俺はその指示に従い、ホーム画面にある赤いリボンマークのアイコンをタップする。『契約アプリ』を開くと「白ノ江美瑠々さんから交際契約の提案があります。承諾しますか?」という文言が表示された。


 俺は「承諾する」を選択した。

その時、美瑠々の額に付けられている脳波測定器のランプが桃色に点滅していた。


「……うん。交際契約、結べたみたいだね」


 美瑠々は穏やかな表情でスマホの画面を見つめている。俺も自分のスマホを確認すると「交際契約が結ばれました。おめでとうございます!」と、やけに華々しい文字とイラストが画面を彩っていた。


「ああ、確認した」

「……じゃあ、改めまして…よろしくね、メグル」


 美瑠々は俺に向かって微笑みながらそう言った。俺は反射で目を逸らす。


「とりあえず、交際契約を結んだことは…クラスメイトには隠しておいた方が良いだろう。だから、今日はここで解散だ」


「うん、そうしようか。あまり長い時間一緒にいると怪しまれちゃうもんね」


 美瑠々はベンチから立ち上がり、俺に軽く手を振るとその場を離れて行った。


 俺は深い溜め息を零しながら、誰もいない中庭でベンチに座り直した。

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