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プロローグ

女の子だって、暴れたい!

1930年、雑誌「婦人公論」に鹿児島県に住む女性が書いた文章が掲載された。一部抜粋して以下に記す。


「女性にも徴兵の義務を

先の大戦を経て、国家総力戦における婦人の占める価値の大なるところはすでに示された。これにともない、世界各国では婦人解放が著しい速さで行われつつある。

中略

しかしながら、我らが大日本帝国は婦人解放において世界に遅れをとっている。ただ欧米に倣うのみではいつまでたっても追い付くことはできぬ。

そこで、我ら大和撫子は権利ばかりを唱えるのではなく、自ら義務を買って出てはいかがか。歴史を見れば巴御前や井伊直虎、甲斐姫など男に混じり、時に男を率い戦う勇ましい婦人達は皆、身分が高い。よって我ら大和撫子が男と同じ身分を得んとするなら、戦に出て国を護る、その覚悟を示すのが一番ではないか。

全国の婦人よ、大和撫子よ、気高く、勇ましくあれ。」


なぜこれが検閲を潜り抜けたのだろうか。まずはそこが疑問となる。そして潜り抜けてしまった影響が、直ぐに世論に影響を与えた。しかし、それはただの影響ではなかった。国家転覆とほぼ同等とでも言うべき影響を与えたのだ。


「女性にも徴兵の義務を!」

まだペルリ来航よりたった76年、鎌倉幕府が開かれて七世紀も続いた武家の気質が一世紀も経たぬうちに薄れるはずもなく、この文章を読み、または人伝に聞いた婦人たちは闘争を求める大和民族の血をたぎらせ、ついに全国で女性徴兵運動を巻き起こしたのである。

そしてその激しさは良識を失うほどに激しくなり、たった一月で女性徴兵暴動と名を変えて呼ばれるようになった。


こういうときに暴動を鎮圧するのが警察であるが、勢いを増す女性徴兵暴動には対応できず、国会議事堂や議員会館、首相官邸が包囲、そして占領されると、ついに憲兵隊や陸軍、ついには海軍陸戦隊すらも動員された。その規模は後の二・二六事件が子供の喧嘩に見えるほどであった。


内閣は急いで声明を発表、「婦人の徴兵は目下準備中である。組織最適化や設備の改修、軍服の調達を急いでいるのでしばし落ち着いて待て」とした。


そして翌年、1931年。早くも満20歳の婦人から徴兵が行われることになった。


もちろん、このような急ぎ方をすればミスも多発するというものである。

まず陸海軍共通のミスである。

大和民族がかかあ天下の民族であるのは歴史を学べば火を見るより明らかであるのに、これを失念しており、男の割合の多い前線にでる兵科が、女の割合の多い主計、輜重の尻に敷かれるという事態が見事なまでにほぼ全軍で発生した。そして両軍首脳も、参謀本部や連合艦隊司令部に女性士官が配属されるまでそれに気づかなかった。そして気づいた頃には尻に敷かれていた。

また性犯罪も頻発した。しかし、女も兵士として鍛えられていたため、返り討ちにすることもよくあったため、あまり報告されず発覚が遅れた。どんな婦人も自分より弱い男には興味がないのである。


続いて海軍で起こった奇妙な、そして阿呆なミスである。


それは制服である。

水兵は聞き耳を立てるためにセーラー服を着用する。これを女性にも当てはめたのだが、何を思ったか下をズボンではなくスカートとしたのだ。何をいっているのかよくわからないと思うが、おそらく邪なことを考えたやつがいたのだろう。しかし可愛らしくもあり、なおかつ凛々しく見えるよう調整されていたため、しばらく問題化しなかった。


問題が発覚したのは艦上勤務訓練が始まった頃である。


海軍の軍艦というのはわずかな浸水にも直ぐに気づけるよう、床をピカピカに掃除しておくのが常識である。帝国海軍においては床や壁がそのまま鏡として使えるほどであった。そのせいで床で反射し、褌が見えるという赤面ものの事件が次々に報告された。

こんな間抜けな事件が起こって、ようやく女水兵の制服もスボンとなった。

ちなみに海軍の陸上施設の床もほぼ鏡なのだが、訓練でそれどころではなかったのだろうか、自分たちで掃除しておきながら気がつかなかったのだそうだ。


そのような大問題を抱えながらも、大日本帝国は兵役の男女平等を達成したのである。


そしてときは流れ、支那事変が勃発する…





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