羨望の眼差し
ケンタは若い男であったが、運動神経が良いわけでも頭がいいわけでも容姿がいいわけでもなかった。金持ちでも貧乏でもなく平凡のようななんとも草みたいなありきたりな人間だとケンタも思っていた。ケンタは才能がなにもなく、やりたいこともなにもなかったので暇を大いに持て余していた。時間つぶしにゲームセンターへ行くと、ぬいぐるみを抱えた美少女が同じような演出を繰り返すメダルゲームをしていた。ケンタはあんなに若くてかわいい容姿ならそれを生かしてYou Tubeやサークルでチヤホヤされればいいのにとおもった。贅沢な楽しみ方だなと思った。
別の場所で無精髭を生やしたおじさんがいた。定年を過ぎてやることがないのだろう、ずっとスロットが回る様子を無気力に見ている。ケンタは哀れだなと思った。同時に自分もこの老いぼれと似たような境遇だと思った。ゲームで少し遊ぶとケンタはお金がなくなった。お金があればなあ・・・。と豪華客船やスーパーカーに乗っている自分、女にたくさん囲まれている自分、おいしいものを食べている自分。欲望の夢が次々と思い浮かぶ。せめて才能があればなあ。あの美少女が羨ましかった。自分があの境遇だったら良かったのに。
少女は、人と話すのが苦手だった。いつも話すと人は不快な反応になっていき周りは誰もいなくなってしまうからだ。自分の話し方が悪いのはわかっていた。なので喋らないようにした。しかし結果は変わらなかった。一人きりでメダルゲームをするのが彼女の休日の寂しさを紛らわせる方法だった。
老いぼれは若者を羨ましがった。スポーツが好きで身体を動かすのが老人の趣味だった。歳をとってからは軽いボール投げでも身体に痛みが走りと運動できる状態ではなかった。若い健康な身体なら少し荒っぽい動きをしても頑丈でスポーツをしても平気なのに。お金は腐るほどあるがバットやボールが買えればそれで十分だった。老いぼれは全財産を投げ売ってでも若さが欲しいと思いながらスロットを回し、贅沢な使い方をしているとケンタの背中を見ながら思った。