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異世界少女、放浪記。  作者: げっとは飛躍のせつなさ
2-4章 這い上がるまで、のおはなし

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69 - 菜優よ、這い上がれ

 菜優は相変わらず真白広がる不思議な世界の中を駆け抜けています。けれど、先程までの、()()もなしに走り回るだけの菜優ではありません。なにせ、剣傷をつけた鋏があちこちに突き刺さっているので、それらを目印にして、行ったところ、行ってないところを大まかに判別できるようになったのですから。しばらく走っては鋏にぶつかると、刃につけた傷跡を確認します。その鋏には傷跡がなかったので、菜優は腰に下げたエーテルソードを抜いて、その鋏を斬りつけます。初めて見つけた鋏には一つ、次に見つけた鋏には二つの傷をつけたので、今度は三回、斬りつけます。そして菜優は右の方へと九十度に体を翻すと、また走りはじめました。


 しばらくは、これを繰り返していました。鋏を見つけては傷を四つつけて、また右を向いて走ります。また鋏を見つけては傷を五つつけて、また右を向いて走ります。また鋏を見つけては、傷を六つ…あれ、おかしいな。菜優はエーテルソードを握った手を止めました。


 今、剣傷を六つつけようとしたのだから、周りに鋏は五本ないと計算が合いません。けれど、見渡す限りには、だだっ広い真白が広がるばかりで、鋏の一本も見受けられません。菜優は顎に指を這わせながらしばらく考えて、やがて菜優はエーテルソードを振り抜いて、鋏に一つだけ、傷をつけました。そして濁った翠の傷がついた事を確認すると、それをそのままじぃと見つめ続けました。


 するとどうした事でしょう。翠の傷跡はしばらく残ってはいましたが、じわじわとその傷跡が塞がっていくではありませんか。時間の感覚はもはや分かりませんが、体感的には五分くらいでしょうか。そのくらいの時間が経つ頃には、せっかくつけた傷跡が綺麗さっぱりと消えているのです。これでは、気持ちの悪い思いをしながら剣を抜いて傷をつけても、まるで意味がありません。菜優はまた、途方に暮れてしまいました。


 菜優は思い出していました。まるで昔ながらの、不親切なゲームを遊んでいた時のようだと。昔ながらのRPGなんかでは、ヒントらしいヒントがない事も多く、そういうゲームに触れるたびに同じような、砂粒の中の金を探すような、そういう、途方もない気持ちになった事を。それでもゲームの世界には、そこに住む村人がいて、彼らが何らかの情報を持っていて、それらをジグソーパズルのピースを嵌めるように繋げていくと、やがてジグソーパズルも一つの絵になるのと同じように、ゲームクリアへと一歩ずつ、一歩ずつ近づいていけたものです。もっともそのゲームでは、やがて現れた六つの手足を生やしたラスボスがあまりに強くて、勝てずじまいなままですが。


 しかし、ここはゲームで見た世界とよく似ていましたが、ゲームの世界とは違います。今いるところには、村人の一人すらいません。いるのは菜優と、菜優を襲ってくる死神、アトロポスと、彼女(アトロポス)の足止めをしてくれている眷属ワルキューレ、ヴェルザンディの三人だけです。一人はまるで話が通じませんし、一人はこいつを探して、と荒いヒントはくれましたが、きっとアトロポスの事を足止めするのに精一杯で、菜優の話を聞く余裕なんてないでしょう。つまり、情報をくれる、村人役なんか、ここにはいません。菜優は、得られる情報もなしに、目印に出来るものもなしに、ヴェルザンディが教えてくれた糸を見つけ出さなければなりません。そんなクソゲー、聞いた事もないよ。菜優はそう零しましたが、あるんですよね、そんなクソゲー。

 

 菜優は途方にくれました。その瞬間にどっと疲れが襲ってきて、菜優は思わず背中から地面に倒れ込みました。見上げた空は、四方に広がる真白と全く同じて、空にあって、空でないようでした。周りの景色と空との境目を探してみましたが、そんなもの、真白の広がる空のどこにもありません。菜優はその色にげんなりとして、息を大きく吐いた、その瞬間。菜優は、真白の広がる空のほんの一片に、わずかな灰色を見つけました。よく目を凝らして見てみると、どうやら糸状の形をしているようにも見えます。見えたのは影の方ですが、菜優は一縷の希望の光を見た気がしました。菜優は寝転んだまま体をを顔の上のほうに持ち上げて、首から跳ね起きるように一気に飛び起きました。ごちんと背中を打ちつけて、失敗したことを確かめると、今度こそ失敗しないように、ゆりかごの要領で緩やかに起き上がるとその糸を見失わないように上を向きながら、その方へと走りはじめました。

 

 先刻まではあんなに迷い迷い走っていたというのに、糸を見つけてからというものは、とんとん拍子にことが運んでいきました。菜優が立っていた場所の、はるか上方に糸があったので、菜優はその糸にどうやれば辿り着けるか想像もつきませんでしたが、いざ走って近づいてみると、みるみるうちに近づいてくるのです。菜優は本当に真っ直ぐ走れているのか、実は坂を駆け上がるように、斜め上に向かって走っているのか、よくは分かっていませんでしたが、なぜかゴールが近づいてきてくれているので、気にしないことにしました。やがてその糸の、ー糸に目も鼻もありませんがー目と鼻の先まで近づくと、菜優は夢中になって飛びついて、その糸の先っぽをはっしと掴みました。そしてぐいと引き込んで、体を糸に引き寄せて、もう片方の手でさらにその上を掴みます。ようやく、ようやく元の世界に帰れる。菜優は夢中になって、糸を引き続けました。やがて世界を覆う白が、一層きつく輝いて、菜優の視界を埋めていきました。そして――


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