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異世界少女、放浪記。  作者: げっとは飛躍のせつなさ
2-4章 這い上がるまで、のおはなし

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65 - 天国か、地獄か?

 菜優は目を覚ましました。そして、あれ、と首をかしげました。記憶が確かなら、そう、ポルト・ニューイヤーの街でガードにたった斬られて、そのまま意識を失ったものです。つまり菜優が自認する限りは、菜優は死んでいるのです。それならばなぜ、菜優は今目を覚まし、起き上がることが出来たのでしょう。


 まさかあれが嘘やったとは言わんよな?と思いながら服をめくり、傷がないかを確認します。すると、左の脇腹の方にめがけて、大きな大きな傷が塞がったような()()がありました。それを追える限りたどっていくと、胸元にも達していそうです。それ以上に確認するのは、服を脱がないと難しそうなのでやめましたが、菜優は自分が一応無事そうなことに安堵しつつ、体に大きな傷痕が体に残ってしまったことにショックを受けました。


 さて、自分が無事そうだと分かった一方で、ここがどこだかさっぱりわかりません。あたりの様子を探ってみようとしてすぐ、あたり一面に真っ白な世界が広がっていることに気づきました。


 ああ、これは夢なんや。やっぱり本当の私はもうとっくに死んでて、これは死ぬ前に見る夢なんやと、菜優は悟りました。しばらくしたら迎えが来て、きっと、天国か地獄かに連れ去られていくような。つまりここは、いわば三途の川の船着場のようなもので、対岸にはきっと、あの世が広がっているのだと、菜優は考えていました。川なんて、どこにも見当りもしませんが。


 嫌だ。菜優は叫びました。菜優自身、まだまだ友達といっぱいおしゃべりしたかったですし、ショッピングモールなんかに集まったりして遊びたかったですし、高校にも行きたくありました。何について勉強するつもりなのかはまだ曖昧でしたが、音楽に触れていることは好きだったので、またブラスバンド部なり、軽音学部もあるらしいですから、そこに所属して、キーボードを引っ提げて、新しい仲間たちと音を合わせていたかったのです。


 けれどそんな夢も、将来も、訳の分からない異世界イースティアとかいうせかいの中で絶たれてしまいました。死ぬ前にせめて、さくらちゃんや、パパ、ママに会いたかったですが、それすら叶いません。いなくなった事に気付かれても、死んだ事には気付かれないでしょう。悔しくて寂しくて、菜優の双眸から大粒の涙が溢れてきました。膝を抱き抱えうずくまり、その中に仕舞い込むように顔を押し付け隠します。しかし嗚咽が漏れ出て外に響き渡るのも、堰を切ったように溢れ出る涙を押し留めることも、まるでかないません。


 泣いたってどうにもならないことなんて、頭では分かっているのに、悲しみと苦しみと、綯い交ぜあって生まれた怒りと、その他もう菜優にすら分からない感情が、ぐるぐるぐるぐる混ざり合って心の中を駆け巡って、だんだんだんだん膨れ上がって、菜優の心を大きく大きく支配していきます。()()()の一部を切り崩しては涙に変えて、あるいは号哭に変えて、自分の中から追い出そうと、菜優の心は必死に抵抗していますが、とめどなく膨れ上がっていく()()()を、やっつけるにはなかなか至りません。


 懐かしい、愛おしい故郷の、友達の、家族の景色を一つ一つ思い浮かべては、それらと会えることは二度とないのだという現実が立ちはだかります。けれどどうしようもありません。菜優は死んでしまったのですから。分かっていてもなお枯れない涙に辟易としながらも、菜優は泣き叫び続けました。


 それから、幾許時が過ぎたことでしょう。抱えた膝に突っ伏した菜優の頭上から、暖かな光が差し込んで来ました。やけっぱちになりながらも、菜優はそちらの方を覗き込んでみます。すると、なにやら像の足のようなものが見えました。これまでの経験からして、おそらく何かの神様の像でしょう。菜優は察しましたが、今の菜優は言わば死人。今更何の神が来たところで、私が救われることはないのだと、いじけ半分にまた、自らの顔を膝に隠しました。


「おぉい、キミ、やっほぉ。あれ、聞いてるのかな」


 菜優は自分を呼ぶ声がした事に気づいていましたが、無視することを決め込んでいました。今更なにが来たって、それは死んだ自分を迎えに来た、死神に違いない。ならせめて天国か地獄かに連れて行かれないように、あがいてやる。三途の川の渡賃もないって言い張ってやると、やけっぱちになっていました。やがて菜優が無言の抵抗を決め込んでいると、首元にじゃきりと鋭い気配を感じました。菜優は驚いて目を上げてみると、大きな鋏のような刃が、自分の首元にまで迫っているのが見えました。殺される。菜優はそう直感して慌てて飛び退くと、二つの刃はまたじゃきん!と音を立てて、綺麗に閉じられました。


「ううん、惜しい。あと少しでキミの運命を頂けたところだというのに」


 鋏の持ち主は残念そうに頭を振りました。見れば小学生くらいの背丈の、ゴシック・アンド・ロリィタのワンピースに身を包んだ少女の姿が、そこにありました。黒く長い髪の、ぱっつん頭のてっぺんには、赤く大きなリボンが、のんのんと気ままに咲き誇っています。手にした鋏は小柄な彼女とは対照的に、非常識な程大きく、彼女の背丈を大きく越しているどころか、菜優の背丈にも届きそうなほどに見えました。そんな彼女が菜優の方に向き直ります。


「やぁ。ぼくはアトロポス。君をお迎えに来た死神さ」


 少女は、身の丈の程に合わないハサミを肩に乗せながら名乗りました。そして次の瞬間には菜優の眼前に現れて、その鋭い鋏を地面につきたてて、菜優の体を断ち切らんとしてきました。


「あんたの運命、頂くよっ!」


 菜優は素早く身を翻して鋏を躱しました。彼女が何者か分からないけれど、とにかく、逃げ延びないと殺されてしまう!嫌だ、まだ死にたくない!菜優は半狂乱になりながら、彼女から逃げ出しました。自分が既に死んでることなんて、どこか遠くへ忘れ去ってしまったままに。


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