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異世界少女、放浪記。  作者: げっとは飛躍のせつなさ
2-2章 無法者の街、ルナー、のおはなし

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58 - 宿屋の住人達は活きが良く

 マリーと話をしている菜優の耳に、子供達の喧騒が届いて来ました。二人は自然と、その喧騒の方へと目を向けます。真ん中にはデールが居て、右へ左へと駆け回る子供達をなんとか捕まえようとしています。


 こんな保育園のような施設で、こんな時間まで遊んでいて。親は迎えに来ないのかと思いました。いや、そういえば孤児だとかなんとか言ってましたっけ。菜優は、この子達がおよそ親の居ない事を思い出しました。


「そういえば、ここの子供たち…たしか孤児っていってたよね。なんで宿屋の方にも来てるの?」


 菜優がそう話を振ってみると、マリーは申し訳なさそうに目を伏して答えてくれました。


「ああ、そのことですね。こっちの建物が孤児院になってるんですが、最低限の寝床くらいの設備しかまだないんです。だからお風呂に入ったりご飯作ったりするのに、同じくナル兄が運営してる宿屋の設備を借りるより他ないんです」


 菜優はとっさに迷惑なんてしてないよ、とばかりに菜優は手を振ってみせて、


「賑やかそうでいいなぁ、とは思うよ。私には兄弟がいないから」


 と、取り繕うように言いました。うるさいなぁ、と心のどこかで思っていたことなんか置いておいて。


「ここの子供達ってどれくらいいるの?」


「ざっと二十人くらいですね」


 マリーの回答に、菜優はぎょっとしました。テレビで見る大家族の特集でも、せいぜい十人強くらいなものです。それでも家の中は荒れ放題、子供達が暴れ回るのは当たり前。子守をした経験の無い菜優でも、そんな子供達を一人で何人も面倒を見なければいけない事がとても大変な事だと、想像に易くありました。


「二十?うひゃあ、大変だねえ」


「最初のうちはそうでしたね。でも慣れてしまったので、どうと言うことはありませんよ。大人しい子もいますしね」


 慣れの問題なのかな?もし自分がこの状況に投げ込まれたとして、果たして本当に慣れられるのかな?と菜優は訝しみました。実はこれだけの子供達の面倒を見られているデール達がすごいだけじゃ?


「ううん、えらいと思うよ。マリーちゃんもデールちゃんも、年下の子達の面倒見られて。私なん子供の相手したことあんまないから、()()()()しちゃいそう」


 菜優がそう言うと、マリーは「そんなものですかね?」と言いながら、はにかんでみせました。


 菜優達は、他にもいろいろな事を話しました。ウサギ狩りをしたこととか、子供達のこととか、お仕事の話とか、孤児院のこととか。夢中になっているうちに、菜優達に気付いたデールがこちらに寄ってきていました。見れば夕に傾いていた日も、そろそろ地平線の彼方へと隠れゆこうとしています。闇があたりに立ち込めて、見通しがだんだんと悪くなっていきます。


「そうだ。時にナユさん、ちょっと手伝ってくれませんか?荷物が多すぎて、運ぶの大変なんです」


「それなら手伝うっスよ」


「ううん、デールは先に戻って子供達の面倒見といてくれないかな」


 えっでも、と食い下がるデールを、半ば強引に言いくるめると、デールは渋々と孤児院のほうへと戻っていきます。


 菜優はそのさまを不思議に思いながらも、もちろんいいよと快諾して、マリーの腕いっぱいに抱えられた荷物を引き取りました。そして孤児院の中に入っていくと、玄関のあたりで荷物を下ろすように言われました。


 中は打ちっぱなしのコンクリートの壁のところどころひびが入っていて、玄関もなく、一つのだだっ広い部屋の端っこに布団が積まれているくらいです。掃除は行き届いているらしく綺麗なのですが、どうにもボロっちいという印象が拭えません。


 それに、電気の類もありそうになく、薄暗い部屋を照らしているのは数個の蝋燭です。菜優の実家も裕福とは言えませんでしたし、幾人もの友達の家にお邪魔したこともありましたが、こんなにも寂しい気持ちにさせる家は初めて見ました。こんな寂しい家であの子達は過ごしているのかと、菜優はその生活を憂いました。


 菜優がこの孤児院での生活に想像を巡らせていると、マリーが菜優に何かを手渡して来ました。菜優が受けとったそれは、合計して十五ティミ分にもなる硬貨でした。菜優はこんなの受け取れないよ、と返そうとしました。


「何を言ってるんですか?私がナユさんにちゃんとお仕事のお願いをしたじゃないですか。ナユさんはそれに応えてくれて、だから私はその報酬を渡したにすぎません」


 仕事を受けた?私が?いつ?菜優は混乱しましたが、思い出してみると、菜優は確かにマリーから荷物を持って欲しいと依頼されています。もしかしてそのこと?菜優は考えました。


 しかし、目の前に見えた孤児院まで荷物を持っただけ、距離にして十メートルもないでしょう。十メートルもない距離を運んだだけで千五百円相当にもなる報酬は、あまりにも破格過ぎでしょう。流石に受け取れないと思いました。けれど、マリーは静かに菜優の手を押し返しながら言うのです。


「騙されたと思って受け取ってくださいな。これで、今日の宿賃の不安はなくなったでしょう?そのかわり、今日はもう宿に戻ってくださいね。夜のルナーは、猟犬一匹連れてるくらいじゃどうにもならないくらいには危ないですから」


 マリーはそう微笑むと、また荷物を抱え直して孤児院の中へと消えていきました。菜優は納得しきっていませんでしたが、マリーに一杯食わされたことにして、今日のところは宿屋に戻る事にしたのでした。

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