54 - 金髪の少女と代償と、その対価
菜優は無心になったまま、三匹の金髪の少女達を引き連れて歩きます。時折抵抗されて歩きたがらないのを、無理矢理引っ張ったり、酷い時にはその頬をはたいたりして歩かせます。少女達は「あはは」と笑うことしかしませんが、その声色は悲しげで、痛々しくもありました。
一方の菜優は、もはや眉ひとつ動かさぬ様子でした。少女達が悲鳴をあげても、恐れ慄いて後退りしても、まるで歯牙にもかけません。ただ淡々と、少女達を縛りつけた縄を引いていくのみです。
菜優が露天商のところまで戻る頃には、日も夕に暮れなずんでいました。そんな時間だったものですから、露天商も広げた荷物を片付け終わろうとしていたくらいでした。
菜優は露天商に拘束した少女達とお金を渡して、携帯用のテントキットを受け取ります。それを境に露天商はロバ車の中に荷物を仕舞い込んでしまって、自身もロバ車の中に引っ込んでいきました。
ケルが菜優に追いついて、「まぁ、ナヨナヨな菜優にしては、よくやった方じゃない?」なんて声をかけましたが、菜優から帰ってきたのは、うん、といっただけのような生返事のみでした。
菜優は受け取った携帯用テントセットを捨てるように地面へ落とすと、テントは瞬く間に地面に広がって、三畳ほどの大きさのテントが出来上がりました。菜優は何も言わぬままその扉を開いて中に入り、ばたんと扉を閉めました。ケルはその一部始終を、目を丸くさせながら見守っていました。
次に菜優は、平原のど真ん中で目を覚ましました。あれ、おかしいな、テントの中に入ったはずなのにな、とは思いましたが、記憶はどこか朧げで、確かにそうしたという自信が持てません。あたりを見回してみると、今日あったのと同じように、蝶々を追いかけている金髪の少女の姿がありました。
菜優は少女の姿を見て、また花冠を作ってくれないかな、なんて考えて、一歩歩み寄りましたが、二の足は踏んでしまいました。少女の仲間を助けようと、菜優に襲いかかってきた少女を斬り殺してまで少女たちを拐っていった菜優が、どんな顔をして彼女達に接すれば良いのでしょう。菜優はその場に立ち尽くして、少女が一人でに遊んでいる様子を、ただ眺めていることしか出来ませんでした。
そして菜優は、ベッドの上で目を覚まします。嫌な夢を見たものだ、と思っていた菜優は、視界が涙で歪んでいることに気が付きました。それを手で拭い去ると、テントの扉を開けて、外へと出ました。
見ると日はもう空の天辺にまで登っていたようで、そんな時間までぐっすりと眠っていたのかと、菜優は驚きました。それまでは日が登るか登らないか、といった頃には起きていたものですから。それに、目覚めた時の頭の働かない感じや、体の重たさといったものもなかったのです。
菜優は、あの少女達には悪いことをしたけれど、いい買い物をしたなと思いました。これで、残り半分近くとなったルナーまでの旅程を、比較的快適に過ごすことが出来るでしょう。既にいなくなっていた露天商に向かって、ありがとう、と頭を下げました。
それにしても、菜優が露天商に引き渡した少女達は、その後にどうしたと言うのでしょう。人懐っこい少女達でしたから、もしかしたらペットとしての需要があるのかもしれません。
ただ、その少女達を買ったのが怪しげなおじさんだったら…?菜優はそんなシチュエーションの漫画を、友達の家で読んでしまったことがありました。その漫画を読んでいることに気づいた友達は、菜優ちゃんにはまだ早いよとやんわり奪い取っていきましたが、その時には、さくらちゃんだって同い年のくせに。と思ったものでした。
しかし少女達が、あの漫画のヒロインたちみたいに乱暴されていたら…と思い至ったところで、頭を振って考えるのをやめました。あの少女達がどういう目に遭ったとしても、そう仕向けたのは他ならぬ菜優なのです。可哀想だと言える道理など、どこにもあるはずがありません。
菜優は思い切りよく伸びをしました。それで区切りをつけて、そしたらまたルナーに向けて出発をしようと思い切って。菜優はテントの裏側についていたボタンを押して、テントを小さく折りたたみます。そしてそれをカバンの中に入れると、ケルを呼びつけて歩き始めました。
「しっかし、昨日はどうしたのよ。あたしが話しかけても、心ここに有らずだったじゃない」
「いやまぁ、その節はご心配をおかけしまして。ちょっとね、罪悪感を感じてたの」
「罪悪感?また面倒なもの抱えてるのね。ナユは生きるために必要だったから狩りをしただけでしょうに、それの何に罪悪感を感じる必要があるのかしら」
ケルはそう言ったっきり、菜優に向けた顔を道路に向けて、菜優の後ろをついていきはじめました。菜優は「そんな簡単に割り切れることばかりちゃうんよ」と一人ごちると、ルナーに向けての道のりをまた、歩き始めるのでした。




