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異世界少女、放浪記。  作者: げっとは飛躍のせつなさ
第1-9章 菜優の逃亡生活、のおはなし

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45/80

45 - 逃亡生活の始まり

 マリーナを追われるように離れた菜優たちは、どこともわからない林の中をひたすら駆けていました。


 もう、何時間走ったのでしょうか。菜優には分かりませんが、すでに体力など残っておらず、後ろにつけているケルなど、早歩きをするほどの速度でしか走れていません。


 菜優は、こんなことになるなら、体育の授業のマラソンとか、部活でのランニング、もっと真面目に走っていればよかったなと思いました。


 通っていた中学校ではブラスバンド部に所属していて、腹筋運動やランニングなどをよくやらされたものです。文化部なのにな、とは思っていましたが、そのおかげでそこんじょそこらの文化部員よりも体力はあるつもりでした。実際、体育の授業なんかで長距離走をすると、運動部員にこそ敵わないものの、なかなか悪くない成績を収めていたものです。


 しかし実戦になると、全くもって通用しないのが現実でした。中学校でも部活でも、明確にこれだけ走る、と距離か時間を決めるものですから、ペースの調整のしようなどいくらでもありました。一方で、今のように、とにかく逃げる、というシチュエーションにおいては、なるだけ長い距離を、なるだけ速く走る必要があります。追いつかれなければ走らなくても良いのですが、追われる限りはどれだけでも走らなくてはなりません。


 その追手が来ているかどうか、菜優たちには分かりませんでした。ケルはそれらしい匂いはしないとは言いますが、当てにしきれないのが実情です。匂いの伝播の仕方は、風の向きに大きく左右されるものですし、それに、相手が到達していないところからは、当然相手の匂いなどするはずがありませんから。追う時にはめっぽう強いですが、逃げる時にはほとんど役に立ちません。


 ならば、コアトルを頼るのはどうでしょうか。前に、コアトルの魔法の力で死に頻していたケルを素早く見つけ出す事が出来ました。エーテルの光は探し物の方へと流れて行きましたから、今度はその方向とは逆に逃げれば良いのです。


 しかし、使用する際に多量に発せられるエーテルの光が目立って仕方ないですし、何よりも菜優が酷いエーテル酔いを起こして、まともに動く事が叶わなくなってしまいます。なのでよくよく考えれば、使う事そのものが躊躇われる代物です。


 追手が来ているかは分からないし、知る術もない。けれど捕まったらきっと殺されてしまう。そんな状況では、常に全力で走り続けるより他はありませんでした。


 やがて菜優の体力が限界を迎え、足を縺れさせて転んでしまいました。そのまま天を仰ぐように体を翻すと、肩で大きく息をして、立ち上がる事が出来なくなりました。転んだ菜優を避けるように隣に移動したケルが、それでもと言わんばかりに菜優を立ち上がらせようとします。


「ナユ、こんなところで寝転んでる場合じゃないでしょ」


「そうは言うてもやな、ケルちゃん。私、もう限界」


「もう限界?まったく。人間ってなんて脆弱な生き物なのかしら」


 ケルは悪態をつきながら、菜優のそばに寄ってきます。耳をさまざまな方に向けて、時折顔ごとそちらに向けて、ケルは周囲の様子を探っているようです。


「少なくとも、今は追手は来てないみたいね。けれどね、あたしが追手を捕捉したところで、手遅れだってこともあるんだからね。あたし、避けたことはあっても、逃げたことなんてないんだから」


 ケルは心配から警告してくれているのでしょうが、菜優の体力はもうすっからかんです。友達の勧めで始めた、モンスターを狩るゲームに例えるなら、スタミナゲージがゼロになって、スタミナが満タンになるまで手に膝をついて全く動けないような、そんな感じです。


 ゲームでは空になったスタミナはすごい速度で回復して、五秒もあれば満タンになるまで回復して、すぐさま動くことが出来る様になりました。しかし、現実の菜優のスタミナは、そこまで早く回復してくれるはずがありません。一体いつになったら回復するのでしょうか。菜優はゲームのようには表示されないスタミナとにらめっこをしながら、五秒じゃ流石に無理やなと嗤いました。


 こんな時に、モンスターに襲われたらどうしましょう。例えば、何度も何度も突進してくるようなモンスターがやってきて、それに菜優が何度も突き飛ばされて、仕舞いにはぴよぴよとひよこを頭上に侍らせながらまた動けなくなって。そうなったら…いや、モンスターが相手なら、そうなる前にケルに蹴散らして貰えば良いでしょう。


 問題になるのは、ケルに蹴散らせない相手…いや、蹴散らしてもらいたくない相手でしょうか。例えばそう、マリーナの街で菜優を追っていたガード達とか。


 菜優のためなら、ケルは何の躊躇いもなしにガード達を手にかけるでしょう。そしてそれを、余裕綽々とこなしてしまうほどケルが強い事は、マリーナの街で斃れたガードの山を築き上げた事からも証明されています。


 でも、菜優はそれを良しとしません。自分の為に、悪くない人まで殺してしまうのは、もう懲り懲りです。ケルもそれが分かっていますが、それでは解決しないと思っているからこそ、菜優に自分に殺しをさせろとけしかけるのです。


 荒れた息が整ってきて、菜優はようやく立ち上がる事が出来ました。でも足は既に乳酸が溜まりきっているのか、思うように力が入りません。歩くことは出来ても、走ることは難しいでしょう。


 足取りをふらつかせながらも、それでも菜優は前に前に、街から離れるように歩きます。意地でも歩かなければ、また罪を重ねることになってしまうのですから。

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