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異世界少女、放浪記。  作者: げっとは飛躍のせつなさ
第1章 朱鷺風菜優、異世界漂着者。

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3 - はじめての一人暮らし

「さて、私達、もう行かなきゃ。これ以上、遅くなるわけにはいかないし」


「この洞窟を出てしばらく北に歩けば、ヴァレンタインの街に着く。そこに流れ着き者達の互助組織があるから、そこを頼るといいだろう」


 そう言って二人は、背を向けて洞窟の外へと歩み始めました。その直後、にわかにライアンが足を止め、思い出したように口を開きました。


「ああ、そうだ。街道まで出れば比較的安全だが、それでもモンスターやへんなやつが出ないとは限らない。さっきのスライムみたいにな。片手剣を一つあげるから、それで身を守るといい」


 ライアンは鞄から短剣を一つ取り出して、菜優に渡しました。飾り気のない焦げ茶の鞘に包まれたそれは、五十センチのものさしより少し長いくらい。そのわりには不自然なほど軽く、まるで羽を手に取っているようです。菜優はそれを受け取り、両腕で抱えこみました。


「幸い、この洞窟には冷蔵庫やらベッドやらが置いてある割には、近々に人が生活していたような痕跡が見当たらないの。冷蔵庫の中も、軒並み腐ってたしね。しばらく厄介になっても、問題ないと思うわ。じゃあね。貴方に、エーカトル様の加護があらんことを」


 そして、菜優は二人と別れました。独り、洞窟の中に取り残されます。今までは家には両親がいて、弟がいて。それが当たり前だった菜優は、家に一人で残される感覚に、どこかぽっかりと心に穴が空いたような気分になりました。


 随分と意識がしっかりしてきたところで、二人が運び込んできてくれた洞窟を見回してみました。足元を見やれば絨毯がひかれおり、その外にあるどぎつい緑色のスライムは、そこから動くでもなく消えゆくでもなく、ただそこにのっぺりと貼りついています。壁にはいくつかの電球が刺さっており、その一つ一つが暖色の柔らかな光で部屋を照らしています。奥を見やれば冷蔵庫も台所もあり、冷蔵庫のドアを開ければ、ひんやりとした空気が菜優のもとに雪崩込んできます。中には多少の食べ物があり、腐ったようなものは見受けられません。どうやらエルレアネたちが処分してくれたようです。


 しかし、先程までは特に気にも留めませんでしたが、改めて考えてみると変な話だと、菜優は思い当たりました。洞窟の中まで、電気を通しているのでしょうか?その割には、コンセントの一つも見当たりません。


 ただ、生活をする上で冷蔵庫と灯りが使えることはこの上なくありがたいものです。菜優は、考えることをやめました。使えなくなった時に、また考えれば良いのです。


 それよりもお腹が空いてきたので、冷蔵庫にあったりんごを一つ取り出してかじりつきました。菜優は自分がなんとなく異世界に流れ着いたような気がしていて、そこで食べるはじめての食べ物だから…と期待したのですが、残念なことに、それはまごうことなきりんごでした。


 りんごは柔らかに菜優の前歯を受け入れて、噛みしめるたびにもさもさとした感触が甘みと共に口いっぱいに広がっていきます。硬めのりんごのほうが好きな菜優は、そのもさもさ、もしょもしょとした食感に、ちょっぴり残念そうに眉をひそめました。


 部屋にあった食卓のあるところまで戻ってくると、食卓を固く絞った雑巾で一撫でして、その上で菜優はまたりんごにかじりつきました。食卓の周りは洞窟であることを考えると妙に広く、また妙に入り口が近くありました。ベッドも、こたつも、絨毯も揃っています。前の住人はここを居間として、生活の中心にしていたのでしょうか。そんな由無しことを、柔らかなりんごをはみはみ、考えていました。


 そしてりんごを食べ終わった頃くらいに、ライアンは去り際に言い放った「ヴァレンタイン」という街の事を思い出します。ゴジョソシキの意味はいまいち理解していませんでしたが、とにかく街に行けばなんとかできると、菜優は察知していました。菜優はすぐにでも両親の待つ家に帰りたくありましたが、一方で、それがすぐに叶うとは思えません。


 自分はまだ子供であるし、大人の力を頼るべきだと考えました。それもなるべく、早いほうがいい。菜優は思い立ったように立ち上がり、洞窟にしっかりと据え付けられたドアを開けて外に飛び出しました。


 しかし外の世界は既に暗く、普段見る満月の二十倍はありそうな、異様に大きな月が既に空に登っているのでした。それを見た菜優はにわかに扉を閉じ、居間にまで戻ってきました。そしてそのままベッドに横たわり、瞬く間に眠り込んでいきました。夜は、危ないですからね。


 眠りに落ちた後、菜優は赤い髪の老人と出会いました。老人は、菜優に問いかけてきます。


「誰じゃ、お主は?」


 しかし、菜優は意識こそはっきりしているものの、なぜか唇が絡まってしまったかのように、うまく言葉が紡ぎ出せません。


「ああ、答えずとも良い。間違った者の夢に現れてしまったようじゃ。すまぬな。お詫びといってはなんじゃが…」


 そう独りでに老人は呟くと、指をくるりと回しました。すると、菜優の視界が緩やかに揺れていき、同時に不思議な浮遊感と、軽い頭痛を覚えました。


 そして、菜優は目を覚ましました。先程出会ったおじいさんはなんやったんやろうと考えを巡らせましたが、やがて、彼との出会いが夢であることに気づきました。軽い頭痛と酔ったような気持ち悪さが残っていましたが、いつもと違う布団やまくらで寝たからだとか、ちょっと寝足りないのかなとか、そんなことにのんびりと考えが巡っていきました。


 冷蔵庫に置いてあった干し魚とハーブティを頂いたのち、洞窟のドアを開け放ちました。外は抜けるほどの快晴で、太陽が地平線の上に顔を出していました。今日こそは、絶好のお出かけ日和です。ライアンから貰った剣を忘れず腰に携えて、洞窟の外に繰り出しました。





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