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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第四章 ハルマトン・ダンジョン
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096-チェレミーファイト2

「ふっ」


 突撃する娘を迎撃するように、アーリスマディオの槍が突き出される。

 娘がそれを氷の刃で受け止めたように見えた瞬間、彼女はその場を飛び退いていた。

 その一瞬後に娘がいた場所に地面から棘が生えたことから、彼女がそれを回避したのだと分かる。


「はぁっ!」

「ぬっ」


 かと思えば着地と同時に別の角度から斬りかかって、アーリスマディオはまた同じように娘を迎撃する。

 娘の方も同じように槍を受け止め、今度は受け流したように見えたものの、やはりその場から飛び退いて棘を躱した。

 そしてまた斬り込んで、飛び退いて躱す。


 アーリスマディオを中心にして周囲を回るように、娘は幾度となく同じようなことを繰り返している……ように私には見えた。


「や! は! せい!」

「……ふっ、せっ」

「た! や、た、は、せやっ、はっ、やああ!」



 断言できないのは、その速度がどんどん加速していて、私の目では追うのも難しくなっていっているからだ。

 アーリスマディオが槍を突き出す速度も、娘が2刀を振う速度も、あまりにも速すぎて軌道を正確にを捉えることが叶わない。

 ただ時折娘が一撃を加えようとして槍の柄で受け止められたり、アーリスマディオが槍を払うように繰り出しているのが何とか分かる程度でしかなかった。


 それほどの速度で、2人はいつ終わるとも分からないほどに攻防を繰り返し続けていく。

 だが当然のことながら、そんなものが本当に永遠に続くことはないらしい。


「はっ!」

「えっ、あっ!?」


 突如として、娘が飛び退いた瞬間にアーリスマディオが追うように飛び出し、槍を突き出して娘が左手に持っていた氷の刃を弾き飛ばしたのだ。


「っのぉ!」


 娘も崩れた体勢から即座にもう一方の氷の刃を投げつけるものの、奴はそれを身を傾けて躱しながら、更に一歩を踏み込む。


「ふっ!」


 あっ、と思った瞬間にはもう遅い。

 奴はそのまま槍を半回転させるように回して、棒の逆側で娘を殴り飛ばしていた。


「ぎっあ!」

「チェレミー!」


 民家の方まで飛ばされるかと思った瞬間、地面から板状の岩が出現し、娘はその岩に叩きつけられる。

 岩にはヒビ一つ入らず、しかしその表面は波打つように形を変えて彼女の四肢巻き付くと、引っ張って大の字に固定してしまった。

 それはまるで、磔にされた罪人のような姿だ。


「くっ」


 もはや看過できない。

 2人の距離が少しだけ離れた今ならと、私は立ち上がって魔法を使おうと奴に手を向けた。


「ぐぅあっ!? あぐっ!」


 が、魔法を放つ前に私の両手は棘に貫かれ、しかも棘はそのまま形を変えて手にまとわりつくと、強力に引っ張って私を地面に張り倒してしまう。

 更には倒れ伏した私の地面に繋ぎ止めるように、土くれの触手が首に巻きついてがっちりと固定してしまった。

 たったこれだけで、私は無力化されてしまう。


 娘を相手にしてあれほど激しく戦っておきながら、奴には隙ひとつない。

 神官たちに戦わせた時もそうだった。

 背後から攻撃しようが、不意打ちをしようが、奴には全て見えているのだろう。


 現に奴は、今も私には目もくれていないのだから。


「う、ごほっ、ぁ……」

「チェレミー」

「あ、アーリ、ス、マディオ……」

「腹に魔力を込めなさい」

「ひっ」


 奴は娘に歩み寄ると、その拳を引いて構え、僅かに魔力光を灯す。

 それに対して娘の腹が魔力光で輝いたのを見て、私には奴が何をする気なのか、言われずとも理解させられた。

 私にとって、それは許し難い蛮行でしかありえない。


「や、やめろぉ!」

「ふんっ!」

「おごおおぉ!?」


 私の制止の声も聞かず、真っ直ぐに繰り出された拳が娘の腹に突き刺さり、娘が人のものとは思えない声をあげる。

 地面が揺れるほどの衝撃で、それが拳の重さを物語っている。

 奴は何と言うことをするのか。


 娘はまだ年端もいかない子供だと言うのに、それを、あんな、拷問のような真似をする理由がどこにあるのだ。

 何故、どうしてあんな非道ができる。

 頭がカッと熱くなり、目の前が真っ赤になる程の怒りを覚えて、私は奴に叫んでいた。


「きっ、きさま、キサマ、貴様ぁ!」

「お、ぁ……や、やべで……」

「もう一度です。腹に魔力を込めなさい」


 けれどそんな私の叫びも、娘の苦しみの声も、奴は聞こえないかのように再び拳を引く。

 無表情で、無慈悲に、ただ淡々と。

 許すことはできない。できないのに、私はこの拘束を破ることさえできなかった。


「くそ、このぉ……何故だ!?」


 水を生み出そうが、根を操ろうが、奴の操る大地が全てを押さえ込んでしまう。

 私の実力では、そこに干渉することもできない。


「や、だ、何で、やめ……」

「ふんっ!」

「おごぉっ、おぅっ……いだい、いだい、よぉ……」


 娘の腹に拳を打ち込み、奴はまた拳を引く。

 ボロボロと泣き出した娘を見ても、眉ひとつ動かさない。


「もう一度」

「や、だ、やだ……やめて、やめてぇ!」

「ふんっ!」

「おぐっ、おっ、おええぇっ……がふっ、おぇっ」


 ついに娘は嘔吐したが、アーリスマディオはそれを身を引いて躱すと、四度目の拳を引いて構えた。

 娘の呼吸音がヒューヒューとか細くなり、明らかに弱っているのに、奴はまだやる気なのだ。

 死んでしまう。これ以上は本当に、娘は耐えられない。


 分かっているだろうに、それでも奴は「もう一度」と変わらず口にする。


「やめろ、やめてくれ! 娘を殺さないでくれ!」

「おがぁざ」

「はぁっ!!」

「ごぉっ……」


 そして今までよりも一際大きな衝撃で拳が娘の腹に突き刺さった。

 その衝撃は彼女を捉えていた石板に大きな亀裂を走らせ、そのまま崩れ去って娘を瓦礫の中に埋めてしまう。


「チェレミーィィィ!? あ、あぁ……」


 死んでしまった?

 そんな馬鹿な、こんなことがあっていいはずがない。

 彼女は、彼女は私の、そんな……。


「……素晴らしい」


 あまりの衝撃に頭が真っ白になりかけていた私の耳に、アーリスマディオのそんな声が僅かに聞こえてきた。

 奴は目の前の瓦礫を見ながら、感じ入るようにそんな戯言を呟いていたのだ。

こんな話書いていいのかよ……って思いながら書いた。

本当は5発の予定だったんですが、良心の呵責に耐えかねて4発になってしまったんですよ。

あとアルルゥの時も似たようなことしたじゃんとか……。


でもアーリスマディオのキレっぷりを考えると彼が暴走しないのはおかしいので、やるしかなかったんです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人でなしぃぃぃぃっ。 悲鳴がリアル寄りに書かれていて好き、もとい残酷。キャアアアとか定番の悲鳴より好き、ではなく胸が痛いです(欺瞞)
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