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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第四章 ハルマトン・ダンジョン
98/120

095-チェレミーファイト1

<Side チェレミー>


 私は困惑していた。

 魔物が人のように振る舞っていたこと、お母さんがそいつを傷つけていたこと、そしてアーリスマディオが責められていたこと。

 全部意味が分からなかったから。


 お母さん……ドートシール様は私のお母さんになってくれた人。

 彼女は誰よりも私を慈しんで、神官という存在が人々を守るものなのだと教えてくれた。

 愛を与え、生きる意味を与え、私に希望をもたらしてくれた。


 彼女の、お母さんのおかげで、私は神官として生きる道を見いだしたのだ。

 だから彼女のやっていることが、余計に私には理解できなかった。

 魔物とアーリスマディオ。あの二人は人に害を与える存在では無かったのに。


 特にアーリスマディオは私が知る限り、誰よりも優秀な神官だ。

 魔法の力は誰よりも強く、信仰心は底知れないほど一途で、私が対抗できそうなのは、人々を守る責任感くらい。

 誰よりも人々のために励む存在で、それを修行という形で私にも言ってくるのは確かにちょっと鬱陶しかったけど、それでも尊敬するしか無いほどの神官だった。


 そう、私は彼に憧れていたのだ。

 神官の理想像たる、太陽のように眩しい彼に。

 私の進む道を照らす、象徴のような彼に!


 ……けれど、そんな彼も私の想像を裏切った。

 教会は襲撃されて、神官が串刺しにされた。

 彼の魔力は怒り狂っていて、焼き尽くされそうな激情を(たた)えていた。


 そして彼はこう言ったのだ。


「チェレミー? あの修行嫌いも殺してほしいと?」


 って。

 それで分かってしまった。

 彼は私のことなんて、つゆほどにも興味がないんだと。


 その瞬間、私の儚い想いはあっさりと砕け散った。

 初恋は叶わないって年上の神官はみんな言っていたけど、本当なんだ。

 悲しくて苦しくて、私は涙を流した。外の悲鳴なんて聞こえないくらいに絶望して、その場にうずくまってしまう。


 私が目指したものなんて、嘘っぱちだったんだ。


 私はこれからどうすればいいの?


「お母さん……」


 けれど私とって嘘でなかったものが一つだけある。

 それはドートシール様が私を娘にしてくれたこと。

 そして愛してくれたこと。


 私にはもうそれしかなくて、それに縋るしかなかった。


「お母さん……!」


 外を見れば神官たちは無惨な姿になっていて、お母さんにもアーリスマディオが迫っている。

 それだけはやらせるわけにはいかない。

 アーリスマディオは愛しい正義の人。


 その彼の正義がお母さんを殺すなんて、あってはいけないことなのだから。


「お母さんを、殺さないで!!」


 気づけば私は、2人に向かって2階から飛び出していた。



 ◇◇◇◇◇◇


<Side ドートシール>


「チェレミー!? いかん、来るな!」

「ふむ」


 私の危機に最後に駆け付けたのは、今最もここにいて欲しくない娘だった。

 彼女が巻き込まれることだけは避けなければならない。

 アーリスマディオが娘に視線を向けたのを見て、私はすぐに立ち上がって奴に対峙しようとした。


「待っごはっ!?」


 だがそうする前に、私は視界外から硬いものに殴り飛ばされ、情けなく地面に倒れ伏してしまう。

 奴は私のことなど片手間もかけずに制圧できてしまうのだ。

 このままではチェレミーが危ない。


「う、ぐ……く、そっ……」


 だが頭が揺れて、私はうまく立ち上がることも出来なかった。


「やめてえええ!」

「……」


 その間にも娘はアーリスマディオに迫り、殴りかかっている。

 彼女も一瞬で串刺しにされてしまう。

 そう考えた私の予測は、しかし意外な形で覆されることになった。


「ふっ」

「やっ」


 アーリスマディオによって突き出された槍が不自然にズレて、空中で娘を捉えることはなく。

 かと思えばパパパッという音がして、娘はアーリスマディオを蹴り離れ、奴の方も槍を手放して落としていた。

 何が起こったのか? いや、それは何となく分かる。


 娘は空中で身をよじりながら槍を殴りつけて軌道を逸らし、そのままアーリスマディオに殴りかかって、奴もそれを迎撃したのだ。

 2度拳を合わせ、娘が最後に蹴りつけて、二人は距離を離した。

 それは理解できたが、分からなかったのは娘にそれほどの技術があった理由だ。


「ふむ……」

「もう、止めなさいよ!」

「よっ」


 私が混乱している間にも、2人のやり取りは進んでいて、アーリスマディオは落とした槍を蹴り上げてその手に持ち直している。


「来なさい」


 そして奴は槍を構えて先端をチェレミーへと向けると、娘に対してそれだけを口にした。

 

「何でこんなことすんのよ!? あんたは、こんなことする奴じゃないでしょ!」

「来ないのですか?」

「このっ……氷の大爪(オーチェス)!」


 言葉では止められないと悟ったのか、娘は両手に1本ずつの氷の刃を生み出した。

 1本では止められないと思ったのだろう。

 それは理解できるが、私はそんなところではないところに目を見張っていた。


「チェレミー……?」


 今のは何だ、どうやった?

 娘は今確かに、1つの呪禁で二つの魔法を行使した。

 そんなことが可能であるのか、私は知らない。


 呪禁は自動で魔法を発動するための仕組みであって、あんなことは出来ない筈なのだ。

 しかし現実に娘は氷の刃を2本持っていて、当然のように構えている。

 私は娘に呪禁と魔力の操作方法しか教えていないし、それ以外のことを学んでいるとも聞いたことがない。


 私の知っている筈の幼い娘が、私の知らないことをしている。

 そのことに私は強い違和感を覚えていた。


「やああっ!」


 けれど私のそんな困惑をよそに、娘はアーリスマディオに果敢に斬りかかっていく。

 今までに見たこともない速度で、見たこともない魔法の使い方をして。

 それは何もかも、私の知らない娘の姿だった。

純粋で、理想に燃える幼い戦士。

チェレミーは純粋培養の神官って感じですかね。


それはそれとして、ドートシール弱すぎぃ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] それは苦甘酸っぱい、金柑のような初恋でした。 そんな風に言える年まで生き残ってほしいなぁ。特に苦味が酷いけど。 [気になる点] やっぱりこの脳筋神官、人の感性とちょっとズレてるんですね。…
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