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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第四章 ハルマトン・ダンジョン
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094-神官蹂躙

「馬鹿な」


 私はそう、思わず声を出していた。

 アーリスマディオの手は確かに封じていたはず。

 それなのに何故奴は背後の神官に対して魔法を行使できたのか。


 もしや手魔の縛りから解放されているのか?

 いや、そんなはずはない。奴はまだ第3階位であるのだから。

 だとすれば、どこかに仲間が───


「だから無駄だと言うのです」


 私の思考を遮って、アーリスマディオがそう口にした瞬間に、奴を取り囲んでいた神官たちが10人近くも同じように串刺しにされた。


「ひ、ひぃっ!」

「何で、うわ、このっ!?」


 そして奴は抑えられているはずの手に魔力光を灯し、ゆっくりと手を開いていく。

 あの2人が全力で押さえ込むよりも、奴がただ指を開く力の方が圧倒しているのだ。


「あなた達には鍛錬が足りない」

「やめっ、ひっ、あああ!?」


 開いた両手の先には小さな火球が生まれ、奴がそれを手を掴んでいる神官に押し付けると、衝撃と共に大きな爆発が起こった。

 それによって2人の神官はどちらも吹き飛ばされて、周囲の神官達までもが尻餅をついているが、アーリスマディオは当然のようにその場に止まったまま、居住まいを正して見せる。


 汚れ一つない、真っ白な姿。

 戦っている最中であるはずなのに、神官服の浄化機能を働かせる余裕すらある。

 まるで格が違う。


 魔法の練度があまりにも隔絶していて、私にも奴が行使している魔法の底がわからない。

 であればまさか、ひょっとして本当に、今の魔法は奴が行使したのだろうか?


「テストは終わりです。やはりあなた方には神官である資格が欠如していると言わざるを得ません。ですので、これよりは本気で行きましょう」


 アーリスマディオが冷酷にそう告げると、私の疑念を証明するかのように、奴の目の前の地面から一本の棒が出現すた。

 何の変哲もない石の棒だが、その魔法の始まりに奴は手をかざしておらず、しかしあまりにも自然な動作で浮かび上がった棒をがっしりと掴み取る。

 その光景を見れば、もはや確定したと言ってもいいだろう。


 奴はもう、魔法を行使するのに手を必要としないのだ。

 私にとって、その光景は恐ろしい凶報であった。


「あ、あり得ない……」

「こんなの、どうしろって……」

「怯むな! 奴が1人であることに変わりはないんだ!」


 言っていて、自分でも無茶だと思う。

 一般に魔法というのは対処が難しい。

 無手の状態から突然発生するため、事前に行使されることを予測するのが不可能だからだ。


 それでも手を向けた方向から放たれるという情報があればこそ、警戒も対処もギリギリ可能になる。

 しかしでは、もしも発生位置も予備動作も分からなかったら?

 そしてそれが、10も20も同時に行使されるのであれば、それは最早対処が不可能であると結論づけるしかない。


「しかし、これでは!」

「惰弱な……!」

「ひっ、あぐっ」


 悲鳴をあげた神官は防御しようと翳した腕ごと肩口を殴られ、ひどく鈍い音が鳴って、彼はその場に倒れ伏した。

 だがアーリスマディオはそれを確認することもせず、流れるように2人目を殴り飛ばし、そのまま3人目、4人目と殴りつけ始める。


「ごあっ」「ぐあっ」「ひぎゃっ」「やめ、あがっ」

「くそっ、(ガラ)ごふっ」


 そこからはもう、一方的な蹂躙だ。

 回避も防御もできない速度と力で殴られ、突き飛ばされ、昏倒させられる。

 だからと言って魔法を使おうとしても、発動する前に串刺しにされる。


 相手は目を塞いでいても周囲を完璧に把握しているような奴で、背後からの不意打ちすら不可能だろう。

 飽和攻撃すら効かないなんて、そんなことは予想外だった。


「こんな……」


 こんな化け物と、いったいどうやって戦えというんだ。

 そう言いかけて、私は口を押さえていた。

 どんなに絶望していても、そんなことを口にするわけにはいかない。


 私の部下はまだ戦っていて、私はその指揮官なのだから。

 けれどそんな心配は、無用のものだったかもしれない。


「貧弱で!」

「ぐあっ」「うぎゃ!」

「怠惰で!」

「うぐぅっ」「ひぃがっ!?」

「許しがたい低脳……!」

「ぎゃっ」「うがぁっ」


 1つ罵倒するたびに、2人も3人もが沈んでいく。

 数十人いた部下は既に半数以下になってしまった。

 もう何をしたところで勝ち目はないのだ。


「勝てるわけがない、逃げろ!」

「う、うわああああ! ごふっ」


 部下達もそう思ったのだろう。

 数人が逃げ出そうとして、しかし次の瞬間にはもう串刺しにされている。

 アーリスマディオは逃げようとすることも許さなかった。


「逃しはしませんよ」

「何でだ! 俺が何をしたって!?」

「戯言を!」


 また1人、また1人と倒れていく。

 奴はこの場にいる全員を仕留める気なのだ。

 だがそれなら何故、私は生きているのか?


「そうか、私は餌にされたのか……」


 私は事ここに至って漸く、奴の狙いを理解した。

 奴はわざと私の危機感を煽るだけにして、私に部下を集めさせたのだ。

 全員でかかってくるように仕向けて、その全員を返り討ちにする。


 奴は最初からそのつもりで、私を煽って、痛めつけたのだ。

 私は奴の企みにまんまと乗ってしまい、今こうして部下を1人残らずやられている。

 私は意図せずして、奴の手伝いをさせられたのだ。


 その事実を理解した時、私はあまりの無力感に足が震えて、その場に膝をついてしまった。


「ドートシール様、お逃げくだがはぁっ、あああああ!?」

「ふん! ほっ」


 最後の1人がいつの間にか先端が尖っていた奴の棒で腹を貫かれて、奴はそれを私の前に投げて転がした。

 皆私のいうことを聞いて戦ってくれた、良い部下だったのに。

 私の積み上げてきたものが崩れてゆく。


 魔物に襲われて全てを奪われる一般市民のように、最後には命までが奪われるのだ。

 私にとって奴は魔物と何ら変わらない(けだもの)だった。


「ふぅ、これで最後ですね。そこそこ運動にはなりましたか」

「……逃すつもりはないんだろう?」

「何を言っているんですか、当然でしょう? あなたは私たちを殺そうとしたのですから」

「そうだったな」


 だが、そうなのだ。

 結局は私が手を出してはいけないものに手を出したからこうなってしまった。

 欲に駆られて動いた結果、アーリスマディオは私を殺すことを決めたのだから。


 愚かだったのは私だったのだ。

 私が死ぬのは、きっと自業自得というものなのだろう。


「では───」

「お母さんを、殺さないで!!」


 しかし私が諦めかけたその時、静まりかえったこの場に、聞き慣れた高い声が響き渡った。

武器が使えないとは言っていない!

鋼鉄のグローブとか作ってましたしね、硬くてリーチがある獲物があるなら、そっちの方が間違いなく強いでしょう。

他の神官は手を塞いじゃうと魔法が使えなくなるので格闘が基本ですが、彼にその縛りはありませんからね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 手を開けていないと魔法使えない。杖を持っていないと魔法を使えない。詠唱しないとetc……なお、いずれも例外がありますというのは定番。オノレ才能 [気になる点] 神官というより闘士(グラップ…
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