093-対神官用戦術
「ど、ドートシール様、敵とは、まさか……」
「あそこに居るアーリスマディオだ! 奴は教会に弓引いた大罪人、全神官は奴を殺すために全力を尽くせ!」
「第3階位の方が……本当に?」
「何かの間違いでは?」
「異端審問は……いや、しかし……」
「どうした、私の命令が聞けないのか!?」
私は確かに、アーリスマディオを殺せと命令した。
しかしこの命令は実のところ、今まで一度も行使されたことのないものだ。
また敵とされた相手が上位の神官だと言う事もあり、部下たちは動揺していた。
それでも幾人かは手をアーリスマディオに向けているものの、彼らも魔法を行使するまでには至っていない。
「フッ、フフフ……これが力ですか」
「ぐっ」
「良いでしょう、ならこれでどうです?」
アーリスマディオが嘲笑しながら手のひらを後ろに向けると、奴の背後から白いものが飛んでくる。
それは先ほど奴に貫かれた神官だった。
意識を失ったその身体が2階から放り出され、ドシャリと私の前の地面に転がされる。
彼の体からは赤い血がとめどなく流れており、その傷の深さは誰がみても明白だった。
「あなた方全員をこうしてあげましょう」
「なん、え?」
「う、うわあああ!」
上級階位の神官が本当に異端者になった。
その事実に多くの者はパニックに陥り、尻込みしている。
このままでは戦いにもならない。
「さあ、行きますよ」
奴はそう言うと、混乱している神官たちに向けて、2階から弾かれたように飛び出してきた。
「ひっ、うごっ!」
「助けっ、ぐうぅ!?」
「いやだあああぁ、があ!?」
まず最も近くにいた神官が腹を殴られ、体をくの字に曲げて吹き飛び、近くの民家の壁を突き破って消えた。
次に手を向けられた先の1人が地面から生えた石の棘に貫かれ、天高く持ち上げられる。
その次はまた別の神官へと向かっていき、顔面を掴んで石畳に叩きつけた。
「ははははは」
「戦え、殺されるぞ!」
「う、うわぁ」
「「「が、天の裁き!」」」
「何!?」
命の危機を感じたせいか、ようやく3人ほどの神官が魔法を放った。
しかし魔法の選択は最悪のものだ。
アーリスマディオは我々に取り囲まれた状態にあるが、少し飛びのいただけで躱してしまったし、躱された魔法は地面と水平に直進していく。
そしてそれは、生半には防ぐことすら叶わない天の裁きなのだ。
「うわああ!?」
「あぐっ、腕が、ああああ!」
案の定、魔法は流れ弾として神官たちに被弾し、その腕や体を撃ち抜いてしまった。
あの先には他に誰もいなかっただろうか?
囲んでいるのは有利ではあるが、強力過ぎる魔法が使えないのはネックだ。
「馬鹿者、魔法の選択を考えろ! 対神官戦用の戦術を思い出せ!」
「「「は、はっ!」」」
しかしそれならそれで、戦い要はある。
滅多に使われるものではないが、格上の神官用の戦法もちゃんと準備しているのだ。
たとえ強力な魔力や魔法を行使するとしても、それは無限ではない。
それに両手さえ封じてしまえば、第2階位以下の神官は封じることが出来るのだから。
「やれ!」
「「「はっ!」」」
失敗と私の命令によって神官たちは冷静さを取り戻したのか、この場にいる全員が整然と動き出した。
これならばいける。
数人の神官はやられたが、まだまだ部下はいるし、町に散っていた部下たちもほとんど集まってきている。
50人の神官による包囲網であれば、如何にあの化け物でも殺すことができるだろう。
「行くぞ!」
「「「応!!」」」
「落雷!」「突き刺す根!」
奴に近い神官たちは魔力光を纏って突撃し、遠距離の神官たちは魔法を放つ。
落雷と突き刺す根というピンポイント攻撃に向いた魔法で上と下から攻撃し、横方向からは神官たちが取り囲んで殴りかかる。
「無駄です」
だがアーリスマディオはそう呟いて、普通に一歩を踏み出した。
落雷を受けてもものともせず、地面から出ようとする根を踏み潰して、同時に地面を操り地に引き戻したのだ。
操っている魔力の密度がまるで違う。これでは個々の攻撃はダメージにもならない。
そのまま奴は遅いくる神官に自分から飛び込み、殴られる前に逆に拳打を叩き込んでいく。
魔法を使わなくても強すぎるほどに強く、この場にいる神官ではまるで歯が立たない。
「ぐあっ!」「あがっ!」
「同時にかかれ! 2人以上だ!」
しかしそれも、1体1ならの話だ。
格闘戦を選ばせれば、こちらの勝ちは揺るがない。
私が指示すると、アーリスマディオの正面から2人の神官が奴に襲いかかった。
案の定、奴は流れるようにその2人にも拳打を叩き込む。
「ふっ!」
「ぐぅっ」「ぐはっ……ああああ!」
「む!?」
2人の神官は腹を殴られたが、しかし吹き飛ばずにその場に止まった。
何故なら、2人はアーリスマディオの腕を掴み、その腕力で奴の手にピッタリと張り付いているからだ。
2人はそのまま奴の手を掴み、手のひらが開かないようにガッチリと固定する。
そしてそれと同時に、アーリスマディオの背後からはもう1人の神官が迫り、魔法名を唱え始める。
「天の───」
あの魔法を防げないのは奴とて同じ。
いかに化け物であろうと、アレが決まれば土手っ腹に穴が空き、神の元へと送られるだろう。
とった!!
「裁おごぉおっ!?」
私が確信した、いや、その場にいた誰もが勝利を確信しただろうその直後に、奴の背後に一本の柱が生まれていた。
柱? いや、棘だ。それは奴が先ほどから行使している石の棘。
魔法を唱えていた神官はそれに貫かれて、魔法を唱え切ることもできず地面から高く持ち上げられていた。
普通の人なら瞬殺されるかなって戦法。
連携は完璧で、背後から撃たれた魔法は前面の2人の間を抜けるので、フレンドリーファイアも発生しません。
勝ったな、ガハハ!
なお。
誤字報告ありがとうございます!




