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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第四章 ハルマトン・ダンジョン
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091-ドートシールの野望

<Side ドートシール>


 チェレミーを連れて教会の執務室にたどり着いた時、私は少しばかり複雑な気分だった。

 アーリスマディオを追い詰められそうなのは嬉しい。

 魔物を連れ回していたなど、大聖堂に報告すれば彼を追い落とせるのは間違いが無いだろう。


 その証拠も捕らえたし、町には多くの目撃者がいる。

 偽装工作をするまでもなく、この事実は奴を破滅に導くだろう。


「あの、お母さん」

「チェレミー、あのな、あれは仕方ないんだ」

「でも、あいつ、良いヤツなのに……」


 しかし一方で、私は娘の暗い表情に気を重くせざるを得ない。

 どうやらあの紫の魔物は、娘と知り合いであるらしい。

 そのせいか、娘はあれを捕まえたことを非常に気に病んでいるのだ。


 だからといって解放する訳にも行かないし、大聖堂にも送らないわけにもいかない。

 あの存在を隠匿すれば、今度は私が疑われて追い落とされることになるのだから。

 あの魔物には死んでもらわなければならない。


「あの魔物を使えば、私の地位は盤石になる。そうなれば、もっと多くの神官を養成して、多くの人々を救える。その為にはあの魔物も、アーリスマディオにも死んでもらわなければならないんだ」

「アーリスマディオ? なんで? え?」


 私が先の展望を語ると、娘は目を丸くして、心底驚いたと言う表情をした。

 そういえば、娘には派閥のことを話したことはなかったかも知れない。

 彼女はまだ幼いので、そういうドロドロとしたものとは無縁でいてもらいたかったからだ。


 しかし、今後のことを考えると、そろそろ知っておいてもいいだろう。

 何故なら私はこの功績をもって第3階位に上り詰め、もっと多くの部下を抱えることになるのだから。

 その娘であるチェレミーも、今よりもずっと大きな権力を振るえるようになる。


「奴がいると、教会がなかなか一つにならないからだよ。教会にも人を救わずに魔法にばかり血道を上げる、練魔派というロクデナシ共がいてな、アーリスマディオはその中でも筆頭の様になっているんだ。練魔派の星。天才アーリスマディオなどと呼ばれていて、奴が声をかければ少なくない数の神官が私たちの邪魔をしてくるだろう」

「錬魔派? そんな奴らがいるなんて……でも、アーリスマディオは凄い奴だわ。魔法も、町人を救ってもいるし……」


「あんなものは、その場で少し手を貸して見せるだけの人気取りみたいな物だ。奴が本気で人を助けようと思えばもっと大きな事が出来るだろうに、それをせずに旅などをして、しかも教会から金だけは取っていく。宿り木のような恥ずべき真似をしているんだ。奴らがいるだけで救える人が減っていく」

「そんな……そんなことないわ!」


 娘は私の養子になる前から、アーリスマディオと接触があった。

 だから彼女が信じたくないのも理解はする。

 しかし娘がこれから先も神官として成長し、そして尊敬される人間になるためには、あの様なロクデナシとは手を切らなければいけない。


「だってあいつ、いつも修行しろって私にうるさく言ってくるし、旅だってその一環で……」

「我々は旅なんて悠長なことをしていられる立場ではないんだ。教会が人々から寄付を集め、あらゆる国にまたがっているのは、教会が人類を守る存在なればこそ。昔の決まりごとにあぐらをかいて、怠けているようではいけないんだ! 分かっておくれ、私の娘」

「お、お母さん……」


 娘はひどく戸惑っている様子で、簡単には頷いてくれそうにはなかった。

 けれど拒否もされていないように感じる。

 彼女は揺れているのだ。ならば今はそれで良いだろう。


 私が昇位するにはまだ時間があるし、ゆっくりと討滅派としての自覚を育てていけば良いのだ。

 少なくとも、あの魔物とアーリスマディオさえいなければ、彼女が惑うことはきっとないのだから。

 そう、だからあの男は排除しなければならない。


 私がそう考えていると、不意に執務室のドアがノックされる音が聞こえてきた。


「ん?」

「ドートシール様、町の状況確認の報告に参りました」

「入れ」


 窓の外を見てみると、陽が随分と傾いていて、もう時期空が赤く染まりそうだ。

 思ったよりも時間が経っていたことに驚きつつ、部下の神官に入室の許可を出す。

 娘との話は一区切りついたし、町の状況を確認することは私の責務であるのだから、拒む理由は何もない。


 すると「失礼します」という言葉と共に、白い装束をところどころ青く染めた若い神官が入室してきた。


「お邪魔してしまい申し訳ありませんが……」

「いや、いい。それよりも要件は何だ」

「は、町の被害に関してです。正確な数は不明ですが、おそらく犠牲者の数は町人の半数ほどにもなるかと……神官にも低階位神官に数名の死者が出ています」

「そんなにか……」


 起こった事象の規模からして、この数を多いと思うべきか、少ないと思うべきかは分からない。

 ダンジョンで賑わっていたおかげで戦える人間も多く、武器も潤沢にあった。

 それでも尚半数が死ぬほどの犠牲が出てしまったのは、それだけ魔物の数が多かったからだろう。


 アーリスマディオは氾濫と言っていたか。

 私は聞いたこともないが、奴が知っていたということは、大聖堂の資料には記録があるのかも知れない。


「ただ町の地面は穴だらけですが、建物にはあまり被害がなく、また食料に道具や家具などは殆ど無事だったそうです」

「何、本当か」

「はい。それにバッケルやケルーク、それにカーニャなどの動物もあまり襲われなかったようで……」

「ふむ……まるで人間だけを狙っていたかの様だと」

「は」


 魔物にしてはおかしな行動だ。

 まるで本当に、人間だけを殺しにかかっていたかの様な結果。

 これもアーリスマディオは知っていたのだろうか?


「むぅ、大聖堂か……アーリスマディオに聞いてみるしかないのか」

「あ、その、アーリスマディオ様に関してなのですが」

「ん?」

「アーリスマディオ様が逃げていった方角から、何か連続した大きな音が聞こえたとの報告も上がっています。その、先ほどのことで……何か報復などをされるのでは」

「それは心配なかろう。あの男は教会に従順だ。それこそ吊るされるまで唯々諾々と従うくらいにはな」


 心配そうに私を見る神官の言葉を私は一笑に付した。

 そうだとも、だからこそあの男は教会で支持を集め、そしてそうであるが故に私は彼を破滅させられる。

 勝つのは私なのだ。


 ───と、一瞬視界の中に違和感を感じた私は、その原因に無意識に目を向けていた。

 窓から差し込む夕暮れの光を、屋根の上の何かが遮っている。

正義が二つあった時、どちらが間違っていると言えるでしょうか?

あるいはどちらも間違っていて、真理がどこかにあるのでしょうか。


ただ一つだけ言えるのは、どちらにも歴史の中で生まれる理由があったということだけかも知れませんね。

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