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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第四章 ハルマトン・ダンジョン
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088- 絶望の虜

「ああ、こいつは人型の魔物だよ。信じ難いことに、知能があってな」

「そうだ、けど、あの、私、助けてもらったのに……」


 そうだ、俺はチェレミーを助けて、彼女のためにも戦った。

 会話もしたし、お菓子だって一緒に食べた。

 彼女が俺を見逃したのは、その辺りのことがあったからだろう。


 人の信頼関係は積み重ねだ。

 今はそれが無駄でなかったことを祈るしかない。


「む、そうなのか。しかし、魔物は悪しきものだ」

「それは、知ってるけど……でも……」


 しかしチェレミーはドートシールを見て、そしてもう一度俺を見て、俯いてしまった。

 やはりダメなのか。

 彼女はドートシールを母と言った。確か、養子になったとも聞いた覚えがある。


 であれば、積み重ねられた信頼は彼女らの方が何倍も大きいだろう。

 彼女がその信頼関係を選ぶと言うのなら、もはや絶望しかない。

 そもそも子供に何を期待しようとしていたのだ、俺は。


「悪しきものは滅されねばならない。そう教えているだろう?」

「でも……ソイツ、悪いヤツじゃなかった……」

「何?」


 しかし俺が諦めようとしたその時、チェレミーはポツリと呟いた。


「だって、普通で、話したけど、変じゃなかった。……普通の()だったわ」

「なっ……」


 彼女の言葉は俺にとって救いの様な言葉で、俺は嬉しかった。

 しかし一方でドートシールの声は驚愕に染まり、同時に周囲からも「ザワリと!」と一際大きな動揺の声が漏れる。

 それほどに、彼女の言葉は神官たちに大きな衝撃を与えたらしい。


「何を言うんだ!? そんなことを……!」

「悪いヤツだったら、私は分かるもの」

「チェレミー! くっ!」


 特にドートシールの焦り様は声を聞くだけで分かるほどで、彼女はチェレミーの言葉を歓迎してはいない様だ。

 それほどまでにアールを追い詰めたいのか、それとも魔物である俺を処断したいのか。

 何にしても、彼女にとって都合が悪いことなのだろう。


「ドートシール、チェレミーもこう言っているのですから、今は彼を解放しても良いのでは?」

「……いや、それは駄目だ」

「お母さん……」

「特殊だろうと魔物は魔物。少なくとも取り調べる必要がある。こいつは渡してもらうぞ、アーリスマディオ……!」

「あなたは……」

「やましいところがないのなら問題はないはずだ! 異端審問は続いているぞ!」


 ドートシールは強引に話を進め、2人の言葉を封殺しにかかった。

 あれを言われてしまっては、なかなか反論はしづらい。


「拒否します。今のところ彼には、貴方の言うところの邪悪であるという証拠がない」

「いいや、従ってもらう。教会の魔物に関する権限は現地の最高階位にあり、修行僧は現場の教会の指示に従わなければならない!」

「む」


 それでもアールは俺を庇ってくれようとしたが、彼は教会の決まりごとを持ちだされて、黙らされてしまった。


「……分かりました」

「あー!?」


 そしてアールは、とうとう俺を引き渡すことを決めた様だ。

 彼は信心深く、それ故に教会の法には逆らえないのかもしれない。


「しかし、彼は貴重な存在です。これ以上、いたずらに傷つけることは許しません。魔物を研究することも我々の責務です。分かりますね?」

「チッ、分かっている。私はそんな事はしない」

「結構。信じていますよ。彼について結論が出たら、この続きをしましょう。では」

「ぅあぁー!!」


 そしてアールはバルダメリアさんを抱えたまま、言い捨てる様にして空高く跳び上がった。

 それは大きなバックステップの様で、すぐに人の群れの向こうへと着地し、こちらから姿が見えなくなる。

 彼は逃げたのだ。


「あ、アーリスマディオ様!?」

「放っておけ。どうせ追いつけん」

「しかし、異端審問は……」

「あんなものは茶番だ。それよりも、こいつを確保出来た事の方が大きい。後はどうとでも出来る」


 ドートシールはそう言うと、俺の方を見てまたニヤリと笑った。

 終わった、とそう思った。

 彼女の目的が何にせよ、聞く限り彼女は魔物を徹底的に排除している人間で、アールを追い詰める時もそれを根拠にしていた。


 そして俺の身柄は彼女の管理するところとなり、俺に関する「調査」も彼女が行うのだろう。

 であれば、もう俺の処遇は決まったようなものだ。

 彼女は俺を処刑して、ここのダンジョンに加担していたと言えば良いのだから。


「あの、お母さん」

「あ、ああいや、ちゃんと取り調べはするが……」

「ドートシール様?」

「ええい、くそっ、お前はこいつを教会の牢にでも放り込んでおけ! 他の神官は町の被害状況の確認と、町人を助けて回れ! チェレミーは、私と一緒に来るんだ。いいな?」


 しかしドートシールはチェレミーにはかなり弱いようで、彼女にだけはキツく出られないらしい。

 これならば俺が即座に殺される事はなさそうだ。

 もっとも、俺は今かなりの空腹感を感じていて、後どの程度正気を保っていられるかも分からない。


 このままエネルギーを補給できなければ、どのみち数日以内には正気を失って、魔物として処分されることになるだろう。

 アールが俺の食事の事を教会に報告していれば良いが、彼は教会から俺を隠したがっていたから、それも考えにくい。

 それに俺が正気を失うだろうことは俺以外には誰も知らず、アールは俺のエネルギーがまだまだもつと誤解しているはずだ。


 つまり、俺がエネルギーを補給できる可能性は限りなく低い。

 何とかしたいが、何ともならない。

 だからどのみち、俺はもう終わったのだ。


「『くそっ、ああ……』」


 じわり、じわりと絶望が這い寄ってくるのを感じる。

 俺はこのまま死ぬしかないのか?

 もう一度死んだら、俺はどうなるのだろう?


 バルダメリアさんも、アールも、村長も、ヤグも、子供達も、俺を思い出さなくなるのだろうか?

 心胆が冷える。

 死ぬ痛みも怖いが、自分の存在が消滅すると言う事の恐怖が、俺を蝕んでいるのを感じる。


「私、怪シク、ナい、デす」

「……知りませんよ、私が、そんな事は……」


 一縷の望みをかけて、俺に歩み寄ってきた男に俺は最近覚えた弁明をするが、それも無駄に終わった。

 俺はそのまま、鎖を捕まれて町の方へと引きずられていく。

 あの先には教会があり、その中には牢獄があるのだろう。


 そこはきっと、俺という存在が潰える場所になるのだ。

よく人に忘れられた時、人は本当に死ぬのだと言いますが、あれはあながち間違いでは無いと筆者は考えています。

色んな人に見捨てられる事は恐ろしいですが、死して存在が消滅することは、それと同じ事が起きるんです。

つまりあらゆる人の隣から、自分の存在が消えてしまう。忘れられてしまう。それがどんなことよりも恐ろしい。

これを人は執着というのでしょうか?


メメントモリ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 予想と反してドートシールにちゃんと愛情があってよかった。むしろこっちが絆されてるほうだった [気になる点] 諦めるなデルミィィィィス! パルシステ、もといパルダメリアの姉ちゃんが壊れちゃう…
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