086-異端審問
「私の階位には異端審問の権限がある。そうだろう、アーリスマディオ殿?」
「……そうですね」
「証拠もないではありませんか! あの男が魔物で、アーリスマディオ様が異端であるとの証拠が!」
神官の彼は何を思ってか、アールを必死に弁護していた。
だが当のアールもドートシールも冷静で、彼一人が必死な様子はとてもおかしく見える。
まるでもう、結論が決まってしまっているかの様だ。
「あの紫の男は青い血を流した。それだけで十分では?」
「ドートシール様がそう主張しているだけでしょう! あの人物はあの女性と親しげで、しかも返り血まみれで、見て分かるような怪我すらしていなかったではありませんか!? 彼が魔物である訳がない!」
「それはこれから分かることだ」
彼女はそう言いながら数歩歩き、地面から一本の剣を拾い上げた。
誰かが使っていたものだろう。
確かに、例え俺の負傷をドートシールだけしか見ていなかったとしても、それを証明する方法は容易いのだ。
この場で捕まえている俺を、あの刃で傷つけてみれば良い。
「それはさせられませんよ。私を審問するのは良いとしても、一般の人を傷つける事は許容されません」
「ふむ。ちょっと傷つけるのも駄目か」
「駄目ですね。直ぐに解放するべきです」
しかし今の所、俺は魔物と確定しているわけではなく、彼らが守るべき一般市民だ。
それこそ今も魔物と戦って守っている他の人々と同じ立場であって、傷つけることなど言語道断である、という理屈をアールは利用している。
「だが審問される立場にあるアーリスマディオに私を止める権利はないし、私の部下はお前以外に私を止める者もいない」
「……」
「なっ」
「何より、お前はただの下級神官。私を止める権利はお前にもないな」
しかしドートシールという女性にとって、そんなものは何の障害にもならないらしい。
彼女はニヤリと笑みを浮かべると、剣を手にしたまま俺へと向かって歩き始めた。
言葉から察するに、彼女は強い立場と権限で自分の言動を押し通そうとしているらしく、魔導教会の仕組み的にはそれは止められる物ではないようだ。
事実彼女の部下たちは口をつぐんでいて、アールですらこれと言った反論ができていない。
武力では恐ろしい彼も、このような方向にはあまり強くはないらしい。
いや、この場合は俺が明確な弱点になっているということなのかも知れないが。
何にせよ、このままでは俺もアールも一巻の終わりだ。
「黙って聞いてれば、ふっ、ふざけやがって……」
「ん?」
俺の側で座り込んでいたバルダメリアさんも、それを悟ったのだろう。
彼女は声を震わせて、剣を手にドートシールの前に立ち塞がっていた。
「駄目ダ!」
「テメェ、デルミスを、解放しろ」
俺はそれに対して静止の声をかけたが、彼女は聞く耳を持たない。
アールの時と同じように、彼女は神官に対しても剣を向けるだろう。
彼は彼女に対して寛容だったが、このドートシールという女神官がそうであるとは限らない。
あの時の様にバルダメリアさんを止めたいが、今の俺はエネルギーが枯渇している上に、全身を鎖でがっちりと固定されていて、何をすることもできない状態だ。
「ほう、なるほどなぁ。しかし魔物を庇って神官に楯突くとは、何をしているか分かっているのか?」
「う、うるせぇ!」
「女のくせに粗野な奴だが……ふっ、そんなに震えていたのではな」
バルダメリアさんは足を震わせて、しかし剣をガッチリと握って手放してはいない。
その様に必死である彼女に対して、ドートシールは挑発する様に嘲笑した。
「デルミスは、町人の為に戦っただろうが!」
「そうなのか? 私は見ていなかったな。だがこれで刺してみれば、敵か味方か分かるだろう?」
いや、様に、ではない。ドートシールは確実に挑発しているのだ。
彼女はあからさまに剣をちらつかせて、その切先をバルダメリアさんではなく俺の方に向けていた。
何故? そんなことをせずとも、この場にいる神官でバルダメリアさんを排除することなど容易なはずなのに。
だが何にせよ、悪いことには変わりないはず、アールは何故止めないのか。
彼は目隠しをしたまま無表情で、何を考えているのか分からない。
「青い血がでたら……そうだな、首でも落としてみようか?」
「て、てっ、テメェは!!」
「魔物風情には似合の処刑方だ。そうだろう?」
「このアマぁ! ───あがっ!?」
そしてとうとう我慢の限界に達したバルダメリアさんは、ブルブルと震え、片手で握っているだけだった剣の柄を、その両手で掴んだ。
その瞬間だ。彼女を一瞬にして光の線が取り囲み、瞬時に収縮して彼女を拘束した。
かと思えば、横向きに引っ張られる様に飛び、アールがそれを片手で受け止め、ドートシールから隠す様に半身になって遠ざける。
今のはアールの魔法『捕縛せよ』だろう。
「いいでしょう、認めます。その男は魔物に相違ありません」
「ぁうあー!?」
そして彼は、俺の正体をドートシールに言い放った。
彼の言葉に、見ていた周囲の人間がザワザワと声を立てる。
ご丁寧にバル駄目リアさんの口にも魔法の紐はかかっており、彼女は反論すらできない状態だ。
しかし見れば、そのドートシールは剣に魔力光を灯しており、もう一瞬遅ければバルダメリアさんは斬られていただろう。
挑発は彼女を斬るための口実作りか何かだったのかも知れない。
「ほう、ではやはり、アーリスマディオ殿は教会に背いたと?」
「そんな……」
「いえ、それは違います。彼は今まで確認されたことのない、人間に友好的な魔物なのです。ですから私は彼を保護し、観察を含め管理していました」
アールの言い分は俺には正当なものに聞こえるが、それは俺が魔物であると言う立場だからだ。
「なるほど、確かに話が通じるのは確からしい。常なら邪教徒の戯言だと思っただろうが、実際に話されてはな。しかし魔物は魔物。魔物は殺すのが教義だ」
そう言うと、ドートシールはアールに向かって獰猛に笑いかけた。
めちゃくちゃ苦慮して書き直しまくった問答。
各キャラクターの思想から立場から狙いが無駄に難しいから、書くのも難しい。
勢いがあるシーンだと、どうにでもなれー!って適当に書けるのに!




