082-チェレミーの戦い
「って私は神官なのよ!? 守られるのはあんた達でしょ!」
俺が背後に回したチェレミーは、しかしすぐに立ち直ると、俺の横から飛び出して魔物を殴り飛ばした。
その威力は大したもので、怪我や消耗を一切伺わせない素早さとパワーだ。
こうしてみると、確かに彼女は強いらしい。
「あの魔物もどこ言ったかわからなくなっちゃったし、探さなきゃならないのに、何でみんな逃げてないのよ……もう!」
そうして彼女は周囲を確認すると、苛立った声を上げた。
ここからではあの魔物が未だに村の奥にいるのかもわからないし、それ以前に彼女が助けなければならない町人たちがそこらじゅうにいる。
見た所正義感の強い彼女では、この状況の中で周囲を放っては置けないのだろう。
「『天の裁き』!」
チェレミーは手のひらから、あの白いビームを大穴の方向に撃ち出した。
それによって正面の魔物が3体ほど貫かれるが、正面の1体以外は腕に当たっていて致命傷にはなっていないようだ。
この魔法は威力は恐ろしいし、防ぐ方法も分からない。
しかし俺に対してもそうだったが、1発だけで殺す事は、実は難しいのかも知れない。
「ああもう、こんな乱戦じゃ使いづらいったら。まだるっこしいわね!」
また、チェレミーは横にいる人々の方向も見ているが、そちらには使用出来ない様だ。
戦線は横に伸びているから、そちらの方向に撃てれば魔物を薙ぎ払える。
しかし万が一人間に当たりでもすれば、腕の一本や日本で済めば御の字だろう。
フレンドリーファイアが許される様な火力ではないのだ。
だがその時、俺たちの僅か頭上を数本の白線が走った。
距離にして1メートルも離れていない位置で、人間より少し背が高ければ当たるかも知れない位置だ。
実際に、立ち上がっていた熊の魔物などは頭を吹き飛ばされているものもいる。
「何!?」
「神官様たちが来たぞ! これで助かる!」
明らかに『天の裁き』で、背後から撃たれたものだ。
ダンジョンから出てきた神官の集団が、町の方からようやく駆け付けたらしい。
そちら側から聞こえてくる喜色の強い歓声がその事実を告げていた。
「あ、あ……アイツらぁぁあ、何考えてんのよ!? 制御ミスったらどうすんのよ!!!」
しかし一方でチェレミーは怒り心頭だ。
それも当然で、角度を少しでも間違えれば町人たちの頭まで吹き飛んだはずだ。
そうでなくても剣や腕を振り上げているのだから、俺が見ていないだけで被害だって出ているかも知れない。
「後でボコボコにしてやるんだから! 『氷の大爪』!」
チェレミーは怒りに顔を歪めながら、その両手に巨大で肉厚な氷の大剣を作り出した。
以前使った時は果物ナイフサイズだったが、今は彼女の身長を優に超えるほど大きい。
透き通った氷の塊に魔力光を纏わせて、
しかしこの魔法は戦闘には使えないと言っていたはずだが、何故今行使したのだろうか?
「そこぉおっ!!」
『ゴヴァッ』
魔物の相手をしていた俺の横を再度すり抜けて、彼女は目の前の大きな魔物を刃の腹で打ち飛ばし、村の中に放り込む。
『ジェナアアアアアア!!』
「『何!』」
するとあの黒い魔物の特徴的な鳴き声が聞こえて、そこから鳴き声の持ち主が飛び上がってきたではないか。
彼女はいつの間にか、奴の居場所を見つけていたらしい。
飛び上がった黒い魔物は真っ直ぐにチェレミーへと向かっており、彼女はそれを迎撃しようとすぐに構え直していた。
だが俺は予想外のことに、一瞬反応が遅れる。
他の魔物を前にしていたこともあるだろうが、とにかく奴の一撃目に俺は間に合わなかったのだ。
「これならぁ!」
チェレミーはその小さな体からは想像もできない膂力で以て『氷の大爪』を振り上げ、襲いかかってくる魔物を迎撃せんとした。
しかし魔物の方もそれに合わせて腕を振り上げており、氷の大刃と魔物の手の爪とは即座にぶつかりあう。
『くっ』
質量で見ればチェレミーの魔法が圧倒している。
だがあの刃は魔法で作られており、強度はおそらくあの魔力光によって保たれている。
通常ならばそれで何の問題もないはずだが、しかし彼女の拳は傷ついていたのだ。
そしてあの黒く、オイルのような光沢をした甲殻は、魔法を霧散させる性質がある。
だとすれば───
「『駄目だ!』」
刃が爪に触れた瞬間、輝かんばかりだった魔力光が触れた場所を中心にフッと消え失せ、氷の刃が半ばから折れ飛ぶ。
しかしその瞬間にチェレミーは『氷の大爪』を手放しており、そのまま両手を空中で構えて、再度叫び声を上げた。
「『氷の大爪』!!」
先ほどよりも更に3倍はあろうかという恐ろしく巨大な氷刃が、中空に一瞬で生成される。
強い。チェレミーは俺の予想だにしなかった強烈な攻撃を行い、敵を強引に潰そうというのだ。
いかに氷といえど、その質量はバカになるものではない。何せ水の質量は1立方メートルで1トンもの重量になるのだから。
氷になって多少軽くなるとはいえ、あれだけの巨大さならその程度のことは問題にもならないだろう。
あれを上から勢いをつけて振り下ろすのだから、大抵の生き物ならあの叩きつけを食らえば即死するに違いない。
その、筈なのだ。
だが俺はそれでも尚嫌な予感がして、奴に向かって飛び出すことは止めなかった。
「はぁっ!!」
魔物が着地の隙を晒している間に、巨大な『氷の大爪』が振り下ろされる。
直撃だ。当たった瞬間に接触部を中心にして魔法光が球状に消え失せ、しかし巨大な氷塊としての現象が黒い魔物を地面に叩き潰した。
地面が揺れるほどの衝撃。
しかしそれでも尚、氷塊には亀裂が入る。
『ジェナアアアアアアアア!!!』
「嘘っ!?」
次の瞬間、刃は真っ二つに割れ砕け、魔物が手と足の4本で地を蹴り、氷の下から滑るように飛び出してきた。
俊敏な獣の様に、一直線にチェレミーに向け、爪を振り上げて。
「ひっ」
『ジェ───』
「『フッ』」
そしてその爪が届く前に、俺の固く握りしめた全力の拳が、その脇腹を横合いから殴り飛ばした。
チェレミーはもっとさっくり登場するだけのキャラの予定だったんですが、結構キャラが立ってて活躍させた方が面白くなるんですよね。
頑張る女の子って感じ。良いじゃない!
誤字報告ありがとうございます!




