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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第四章 ハルマトン・ダンジョン
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081-アイデンティティ

「この野郎、死ねよ!」

『ギャッ……!!』


 俺がクマを受け止めている隙に、バルダメリアさんが魔力光の輝く剣を2度振るった。

 まずズバンと熊の右腕を2本まとめて切り飛ばし、もう一太刀で頭を落とす。

 綺麗な殺傷だった。


 熊の強さについては驚かなかったが、俺はむしろ、そちらの結果の方に驚かされる。

 その攻撃力は俺の3倍と同じくらいで、つまり彼女は俺の全力の半分程度は力があるのだ。


「無茶すんな馬鹿野郎!」

「ゴ、ゴメンなサい」

「そういうことするなら盾でも持てよな、ったく……ほら、次が来るぞ!」


 そう言うと、バルダメリアさんは次の魔物に対して切り掛かっていってしまった。

 盾とは、確かに考えたこともなかった。

 考えてみれば当たり前の話で、身を守る方法が欲しいのなら盾を持てば良いのだ。


 と一瞬なるほどと思ったが、俺自身が硬化できるのにそんな必要があるのだろうか?

 それに魔力がある世界でそんなものを持ったところで役に立つかどうかは微妙だろう。

 検討してみる価値はありそうだが……何にせよ、今はそんなことを考えている暇はない。


 もう次の魔物がわんさと迫ってきているのだから。


「行くぞ、気張れよ!」

「オオ!」


 バルダメリアさんの掛け声に叫ぶことで返事をして、俺は次の魔物へと殴りかかっていった。

 そうしなければ、後ろにいる戦えない人たちが犠牲になることは間違いがないのだから。



 ◇◇◇◇◇◇



 それから、何匹の魔物を殺しただろうか。

 数匹殴ったところで効率の悪さに気がついて、途中からは手を鋭くして首を指先で掻っ切るか、心臓あたりを突き刺すことに集中していた。

 思考だけは加速したまま、体の動かし方を少しずつ、瞬間的にだけ『力』を込めるように試みて、とにかく小力化を図る。


 俺は疲れないからそうするだけで長く戦い続けられるし、そうしなければいつ終わるとも分からない戦いになど参加し続けられたものではない。

 何故なら俺にとって空腹は非常に危険で、既にどれだけエネルギーを消費したかも分からなくなっているのだから。

 空腹感を感じたら、バルダメリアさんを連れて直ぐにでもここを逃げ出さなければならない。


 そう思って周囲に目を巡らせると、戦っている人数は何人か減っていて、ほとんど全員が肩で息をしていた。


「はぁ、はぁ。くそっ、いつになったら、終わるんだ」


 俺が疲れなくとも、バルダメリアさんや町人は疲れてきている。

 俺がエネルギーを消耗するように、彼らも体力や魔力を消耗しているのだ。

 そしてそれによって動きが鈍れば、魔物の群れに抵抗しきれなくなる。


 しかしバルダメリアさんだけは魔物に囲まれないように気を配っているが、それ以外の人間を守れるほどの強さは、今の俺にはない。

 せめて後ろに魔物を通さないようにするのが精一杯だ。

 他の戦っている人たちも似たようなものだろう。


 だがそれでも、大穴から出てくる魔物はよじ登ってくるせいか急激には増えないため、ギリギリ戦えている。

 それもいつまで持つかと言う段階ではあるし、町側がどうなっているかも分からないのだが……。


「ぎっ、ああ!」


 そんな最中に、誰かの悲鳴が聞こえたとともに、何かがこちらの方に飛んでくるのが目に入った。

 反射的に思考を加速して、その物体を捉えると、それはまたもチェレミーであった。

 俺は彼女の落下してくる前に目の前の魔物を刺し殺すと、そのまま他の魔物に投げつけて自分をフリーにした。


 すると丁度、チェレミーが降ってきてなんとかキャッチに成功する。


「あぐっ、うう、この!」

「何だ! って、神官様!? 大丈夫ですか!」


 俺の直ぐそばにいたバルダメリアさんが真っ先に気づいて、彼女のことを心配して声をかけた。

 それも当然だ。何せ俺が捕まえている小さな彼女は、手や足も血が滲んでいて、とても痛々しい姿をしていたのだから。

 大きな怪我はないように見えるものの、小さな切り傷がいくつかと、拳の殴る部分がズル剥けになっている。


 おそらくは有効な手段がないままに、あの全身甲殻の魔物を殴り続けたのだろう。

 この年頃で何と言う戦いをするのか。

 いくら神官だからと言って、子供がここまでしなければいけないなどと酷すぎるではないか。


『ジェナアアアアアア!』


 彼女を吹き飛ばしたであろう、あの黒い魔物が吠えている。

 子供を傷つける奴はクズだ。

 昔から……誰から教わったかは定かではないが、分別がつくようになってからは、俺はそう考えるようになっていた。


 だからあの魔物は許しては置けないし、俺は彼女を守らなければならない。

 と言っても、あの黒い魔物は群の向こう側で見えないので、とりあえずはチェレミーを休ませなければならないだろう。


「あんたたち、なんにで逃げないのよ……さっさと、ってこら、ちょっと?」

「デルミス?」

「離して、って、離せってば」


 チェレミーは尚も戦いに行こうとするが、そう簡単に行かせるような俺ではない。

 それに彼女も、魔力を強く使ってまでは抵抗していないのだ。

 疲れているのかもしれないし、あるいは俺を気遣ってのことかもしれないが。


 何にせよ、彼女にこれ以上無理をさせるわけにはいかないだろう。


「バルダメリアサン、アー……」

「何だ、デルミス?」

「マ、マ……」

「ま?」


 守る、とは何と言うのだったか?

 ええい、この忙しいときに!


「彼女ヲ、アー『くそっ』」

「ちょっと!?」


 チェレミーを魔物とは逆方向に回して、振り向きざまに襲ってくる魔物に裏拳を喰らわせる。

 言葉がわからなければ行動で示す。

 結局は今の俺にとって一番確実なのは、この方法以外には無いのだ。


「守る? 神官様も守るのか!?」

「ソう! 守ル!」


 そして行動があれば、理解は後からついてくる。

 少なくとも、バルダメリアさんは理解してくれた。

 だから多少考え方が古かろうが関係ない。


 これまでもこれからも、子供を守ることは、俺にとってのアイデンティティで絶対正義で、確実な正解なのだ。

戦う理由って大事だよね。

長く戦ってると理由を忘れてしまったりするけど、初志は重要なのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] つたない意思疎通からこそ真剣味が伝わることもある。長々とおきれいなセリフを並べるより、ずっと気持ちが伝わってきます
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