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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第四章 ハルマトン・ダンジョン
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080-ジェナ

「あんたたちは逃げなさい! 私はアレの相手で手一杯よ!」


 チェレミーはそう叫ぶと、黒い魔物に向かって飛び込んでいった。

 体制を落とし、拳を振り上げている。あれは殴るつもりだ。


『ジェナアアアアアアアア!』

死ね死ね(ジェナジェナ)ってぇ、うっさいのよ!!」


 カウンターのように振るわれた魔物の攻撃をチェレミーは更に沈み込んで躱し、彼女は拳を魔物の腹に打ち込んだ。

 硬い甲殻といえど彼女たちの強化されたパワーは尋常なものではない筈。

 だが魔物は数歩分ほど吹っ飛んだものの、大きなダメージは見られない。


 それに対して、逆にチェレミーの方が手を押さえて、慌てたように大きく飛び退っていた。


「いっっったい! 何だったら効くのよ!」

『ジェナアアアア!』

「うわっ、このぉ!」


 怯んだ隙に振るわれた爪を躱して蹴り返しているが、やはりそれほど効いているようには見えない。

 しかしこのやたらと強い魔物のことは気になるものの、それよりも気になることをチェレミーは口にした。

 この魔物の鳴き声に意味があるかのようなことを言っていたのだ。


 その意味は「死ね(ジェナ)


 魔物が人間に対して言うとするなら納得できる意味の言葉だ。

 果たしてこれは偶然であるのか。それとも本当に分かっていて言っているのか?

 だがそうであるのなら、この魔物も俺のような存在である可能性がなくはない。


 一瞬だけそう考えたものの、俺はふと思い直した。

 しかしそうであるのなら、あの魔物の鳴き声は俺には「死ね」と聞こえているはずだ。

 つまりこれは偶然の一致であって、何ら意味のあることではないのだろう。


 それが分かると、俺は何となく安堵することができた。

 同じ境遇の者がいなくて安堵すると言うのも妙な話だが、あんな正気を失ったような輩と同じだとは、俺は思いたくはない。


「穴から出てきたぞ! 逃げろ!」

「逃げろってどっちに!」

「どうすればいいんだよ!?」


 悲鳴が上がり、魔物たちが大穴の縁からウジャウジャと這い出してくる。

 これだけ深い穴の側面は断崖絶壁になっている筈なのに、生物を襲うためだけに登ってきているのだ。


「迂回するしかないでしょ!」

「どっちにだよ!?」

「こっちに行くぞ!」

「ダメだ、あっちに逃げろ! 魔物が来るぞ!」


 逃げ道を塞がれた人々は混乱して、即座に動き出せるような状況にはない。

 数が多すぎるのだ。このような状況では、意思統一には少しばかり時間がかかるだろう。


「『くそっ、やるしかない!』」

「あっ、デルミス!」


 俺は時間を稼ぐために登ってきた魔物の内、一際大きな4本腕の熊のような魔物に対して走り込み、穴の方へ突き落とすように殴りつける。


「『何!?』」


 だが熊の魔物は俺の拳を複数の腕でガードして受け止めて、その場に踏ん張って見せたではないか。

 先程までの魔物であればこれで十分だった筈が、まるで聞いている様子がない。

 そして周囲生物が動きの止まった俺に対して、その腕や爪を横合いから振り上げてくる。


『『ガアアアアア!!』』

「『マズッ』」


 ガードと硬化が間に合ったから怪我はしなかったものの、俺はそれで吹き飛ばされて人々の方へ押し戻されてしまった。

 着地なんて綺麗な事は出来ないので、足だけでなく手も地面について、ザリザリと地面を滑って止まる。


「気をつけろ、新しいのは強いぞ!」

「デルミス、大丈夫か!?」


 その様子を見ていた誰かが注意を促して、バルダメリアさんが俺を心配してくれた。

 あの魔物たちは今までに出会ったどの魔物よりも強い。

 単純にタフでパワフルで、ダンジョンの地下1階や2階で出会った魔物とは明らかに違う。


「問題、ナい」

「本当か、良かった……くそ、あの野郎!」


 彼女は俺の様子を確認した後で激昂し、向かってくる魔物に対して剣を構えた。

 他の人々も同じように、既に剣を構えて待ち構えている。

 そして彼らと強力な魔物との戦いは直ぐに始まってしまい、あちこちで人や魔物の絶叫が上がり始めた。


「オラ、死ねぇ!」

『グキャアアアア!!』

「硬ぇ! 10階層くらいかよ!?」

「こっちは15階層だ。混じってやがる!」


 俺の目の前でも、町人たちが魔物と闘い始めていて、彼ら曰くこの魔物たちはダンジョンの深い所にいるものが出てきている様だ。

 深ければ深いほど強い。まるでゲームのような生態で、本当にふざけた話だとしか言いようがない。

 だがそれでも、それを不自然だと指摘して不満を垂れ流している暇など、今の俺には無いのだ。


 先程までの加減具合では通用しないなら、より強い『力』を込めなければならない。

 だがそれはどの程度なのか。

 おそらくは全力でなくても良いが、倍か、3倍は必要になるかも知れない。


 延々と湧いてくる相手にそんなエネルギーの使い方をしては、俺の方がもたないだろう。


「無理だ、強すぎる! 誰か代わってくれ!」

「町側から強い奴を集めろ!」

「そんな時間があるか! とにかく踏ん張れ!」

「無理だって、ひぎゃっ……!」


 しかしそんなえり好みをしている余裕すら、俺には存在しないのだ。

 強力な魔物が相手になると何人かがやられ始め、すると人手が足りなくなって余計にキツくなる。

 迷っている時間は無い。


「来るぞ、デルミス!」


 そして俺たちの方にも、あの四つ腕の熊のような魔物が迫ってきていた。

 殴ってきた俺に怒っているのか、奴は俺だけを見つめている。


『グアアアアアアアア!!』

「『ちぃ!』」

「あっ」


 バルダメリアさんに標的が向かないように俺は数歩分を飛び出して、それを見た熊が腕を振り上げる。


「デルミス!」

「『来い!』」

『グアァッ!』


 思考を加速して、熊の腕が当たる少し前に強化をする。

 先程までの3倍程度で、全力の半分ほどだろうか。

 そうしてぶち当たった腕には熊の爪もめり込まず、地面に足を食い込ませれば吹き飛ばされることもない。


 逆に熊の方は爪が硬すぎるものを切りつけたせいか、痛みに顔を歪めていた。

 何となく力加減と言うものが分かってきた気がする。

 この程度の相手なら、殺すだけなら2倍でも良さそうだ。

数の次は質。

っていっても中規模ダンジョンなんてこんなもんよぉ!って敵しか基本は出てきません。

神官の数が揃ってれば対処は簡単だったでしょうね。

ボス以外は。


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― 新着の感想 ―
[良い点] デルミスの戦闘が野性的でいい。 まともに訓練もしていない、仮にしていてもそれだけで華麗に戦うなんて、普通はできるものじゃないですからね。 フッ、なんて言いながら互いの頬に切傷を作るとかより…
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