079-退路に来たる
数人の大人たちが戦っているラインの、その少し外側に着地して、人々にに襲い掛かろうとしていた魔物を力任せに殴りつける。
そして大人たちのとこへ駆け寄ってバルダメリアさんを下ろすと、俺は魔物たちの方へと向き直って拳を構えた。
「ひっ……って人間か!?」
「貴族様!? こんな所に、危のうございます!」
「いいから、子供達を連れて町の外へ行け! あっちだ!」
「町の外!? しかし……」
「ダンジョンから湧いて出てるんだよ! 神官様の言葉でもある! 今は逃げろ!」
「は、はい! 行くぞ!」
「お、おう!」
よく見れば戦っていたのは男だけではなく、女性もいるようだ。
彼ら彼女らは剣や服を返り血で真っ青に染めてはいるものの、全員怪我もなく無事らしい。
大人たちはバルダメリアさんの指示に従って、子供を促して移動を始めるようだ。
俺は迫ってくる魔物を片端から殴り飛ばしながら、それを視界の隅で捉えていた。
「ウオオオオオ!!」
しかし奮闘すべく大声を上げて戦ってはいるものの、魔物はまるでキリがない。
それに殴ってもほとんどエネルギーは奪えないので、ガリガリとストックが削れていっているだろう。
空気中から得られる量も微々たる物であるから、節約しながら戦ったとしても、あとどれだけ戦えるかも俺には分からなかった。
「行くぞ、デルミス! 魔物をぶっ殺して退路を作れ! ハァッ!!」
「ハイ!」
しかしここにいるのは俺だけではなく、いつの間にかバルダメリアさんも前線に加わっていて、隣で剣を振るっていた。
いや、彼女だけでなく、元々戦っていた大人も戦っている。
俺を含めて五人程度だが、それでも魔物の群れを掻き分けて移動するだけなら何とかなりそうだ。
「おい、こっちだ!」
「生きてる奴は集まれ!」
「怪我人がいるの!」
「た、助かった……」
「戦える奴は戦え! 戦えない奴を守れ! 孤立しないように気をつけろ! このまま町の外まで逃げるぞ!」
「「「応!」」」
そうして移動している内に生存者が続々と集まってきて、それをバルダメリアさんが纏め上げ、一塊となって移動していく。
だが戦力は多くなっているはずなのに、戦いは全く楽にならないどころか、激しさを増している。
それほど距離は無いはずなのに、なかなか町の外までたどり着かないのが良い証拠だ。
戦力と一緒に守る対象も増えていると言うのも原因の一つではあるのだろうが、歩は遅々として進まない。
とはいえ、一歩ずつでも進んでいけばその内終わりはやってくるものだ。
俺たちはやっとの思いで市場を抜けて、バッケル(馬車を引いていた生き物)の繋がれていただろう小屋にたどり着いた。
つまりここは町の一番外側に近い場所で、実質的には町からの脱出に成功したと言うことだ。
それが証拠に、ここから先の道や畑には地面には穴が開いていない。
後は後ろから来る魔物を迎撃しながら、できるだけ町から離れるだけだ。
「やったぞ!」
「生きてる! 生きてるわ!」
「いや、まだだ! 下から何か来る!」
バルダメリアさんがそう叫ぶと、地面がまた激しく揺れた。
何人かが立っていられずに倒れ込んでいる中で、直後に地面を突き破って何かが中空に飛び出してくる。
すわ敵か!? と思ったが、それは白く、そして子供のように小さな人型だ。
まさかと思考を加速して姿を確認してみれば、その人物はチェレミーであった。
「いぃやあああああああ……っとぉ!」
拳を天に突き上げて飛び出したチェレミーは直ぐに地面に落ちてくると、両足をそろえてスタリと着地する。
「はぁ、はぁ……やった、外ね!」
彼女は肩で息をしていて、真っ白かった服装もかなりの部分が青い返り血で汚れている。
それに所々怪我もしているらしく、膝などに血がにじんでいて、満身創痍と言った様相だ。
「チェレミー様? いや、これって……」
「ってあんた達!? ヤバっ、逃げなさい!」
「エッ?」
「神官様?」
チェレミーの警告に人々が首を傾げていると、ボロリとチェレミーの向こう側の地面が崩れた。
「くっそう、諦めなさいよね!」
彼女はそう言ってこちらに跳んで来ると、俺たちを庇うように前に立つ。
そしてその視線の先では、またダンジョンの穴がボロボロと出来上がっていく。
「ま、また魔物が来るぞ! 武器を構えろ!」
「良いから早く逃げなさいってば! アレはそんなものじゃないのよ……!」
チェレミーが呻くように言う間も穴は広がり続け、今まで見たことがないほどに広がっていく。
「お、おい……」
「下がれ下がれ! 穴が迫ってくるぞ!」
「何で、まだ来るの!?」
「おい、こっちにはまだ魔物が来てるんだぞ!」
広がって、広がって、広がって。
俺たちを町の方へと押し返すほどに広がり続け、逃がさないとでも言うように巨大な穴が出来上がった。
正確な大きさが分からないほどに大きく、俺1人でも飛び越えられるか怪しいほどだ、
このままでは街から逃げることはままならないだろう。
そう思った時、穴の中央から何か黒いものが物凄い速さで飛び出して来るのが目に入った。
魔物なのだろうが、そいつは放物線を描いてこちらの近くまで飛んでくると、ズン、という重い音を立てて着地する。
『ジェナアアアアアアアア!!』
頭の先から足のつま先まで真っ黒な甲殻に覆われた、人型の魔物だった。
妙な鳴き声をしているが、その凶暴さには何の変わりもないらしい。
血走った目と野蛮な動作がそれを物語っている。
見た目以外はダンジョンに出てくる亡者と何ら変わりない。
「『天の裁き』!」
黒い魔物が威嚇している間に、チェレミーが白いビームの魔法を先制して撃ち込んだ。
アレをまともに受けてはひとたまりもないだろう。そう思ったのだが、ビームが当たったと思った瞬間から耳鳴りのような音が鳴り響き、ビームは当たった端から霧散するように消滅して行く。
「何で、何で効かないのよ!? 『天の裁き』なのよ!?」
チェレミーは納得がいかないように一歩退いたが、俺はこの現象には覚えがある。
アールが見せてくれたあの石。悪夢の石だ。
よく見れば黒い魔物の甲殻はオイルのような虹色の光沢を纏っていて、あの石と同じ材質であることが分かる。
つまりこの魔物は、貴重であるらしい対魔法鉱石で全身を覆った、魔法使いの天敵であるのだ。
来ちゃった♡ 逃さんぞー?
やべー物質が出てきたんだから、それを使ったやべー奴が出てくるのは当然だよなぁ!




