078-氾濫
穴の奥に見えていた魔物達が一斉に這い上がってこようとした瞬間に、アールは白い極太ビームで薙ぎ払って、魔物の群れを一掃する。
外からは悲鳴が複数聞こえてきて、それは異常事態がここだけのことではないのだと告げていた。
「こんな……どうなっているんだ、これは!?」
「氾濫ですよ! ドートシール、神官を指揮して街の人間を守りなさい!」
「氾濫!? 何だそれは! というか町に神官は……」
「説明している時間が惜しい! お二人も街から出なさい、いいですね!?」
アールはそう言い捨てると、宿の戸を開けることなく蹴り破って、そのまま外へと飛び出していってしまった。
よく分からないが、恐ろしいことが起きているのは間違いがないらしい。
今の現象に氾濫という言葉がそのまま当てはまるのであれば、ダンジョンの中から魔物が地面を突き破って出てくるのだろうとは予想がつくが、それがどの程度のものなのかまでは想像がつかない。
ただ、あのアールが明らかに焦って行動するとなると、相当な規模ではありそうだが。
「バルダメリアサン!」
「あ、ああ。何だかヤバそうだし、アタシらも行くぞ。来いデルミス!」
「ハイ!」
「あ、おい!?」
バルダメリアさんが俺の腕を掴んで走り出すのに合わせて、俺も走り出して宿を飛び出した。
ドートシールという人物は置き去りだが、この際は仕方がないだろう。
おそらくは一刻も早く逃げなければいけないという事態で、他人の、それも魔導教会の人物を気にかけてなどいられない。
『『『ギャアアアアアアアア!!』』』
「うおっ!?」
「ハッ?」
だが飛び出してみれば、宿の外は地獄の一歩手前という様な状況だった。
地面の至る所に穴が空き、穴からは魔物が次から次へと飛び出してきている。
その魔物は当然の様に町人を襲っていて、何人もの人が血溜まりに倒れ伏していた。
「何体、いるんですか!!」
上から声がしたので見上げてみれば、アールが屋根の上から白い光線を何本も放って魔物を片端から貫いている。
しかし彼1人では明らかに数が足りていない。
同時に2匹3匹を貫いたところで、無数にある地面の穴からはそれ以上の数が常時湧き出しているのだから。
「生きている人は街の外へ逃げなさい!」
あちこちから上がる悲鳴が止まらない。
中には魔力光を纏い、武器を持って戦っている町人もいるが、絶対数が違いすぎて戦いになるかも怪しい。
俺たちもここにいては危険だ。
「んなこと言っても……来るぞ!」
『ヴァアアアアアッ!』
周囲を見ていて俺が確認していなかった方向から、魔物が咆哮を上げて突撃してきていた。
ダンジョンで見た亡者のような魔物だ。
「ふっ!」
バルダメリアさんは俺の腕を手放して踏み込み、剣を抜きざまに亡者の首を一閃する。
すると亡者の首は簡単に飛んで、身体の方も首に加えられた衝撃で止まり、そのまま青い血を吹き出して仰向けに倒れた。
肌は赤黒いのに、血は青いとは不思議なことこの上ないが、そんな事を気にしている場合では無いのだ。
『ゴルァアアアアア!』
「ハッ!」
『オゴッ』
俺も別の方向から来たゴリラに対して省エネで抜き手を放ち、胸の中央を貫いて止める。
魂のエネルギーは少ないが、それでも無いよりはマシなので一気に吸ってしまうと、ゴリラは直ぐに動かなくなった。
なるほどエネルギーが少ないというのは悪いことばかりだと思っていたが、仕留める分には短時間に済むので楽らしい。
こうなるともう死んだようなものなので腕を引き抜くと、そのままゴリラは倒れ伏す。
しかし脅威となる魔物はこの2匹だけではない。
そこら中から湧き出してきて、数はどんどん増える一方だ。
このままでは逃げることもままならないだろう。
「多すぎ! るだろ! これは!」
「『何だ、この数は! くそっ!』」
案の定俺たちはあっという間に囲まれてしまい、戦うことを余儀なくされる。
エネルギーを奪っている余裕など一切無いくらいの量が迫ってきそうで、数匹は殴り飛ばしたが、このままではもう幾ばくもしない内に押し潰されるだろう。
「ゴメンナサイ!」
「うわっ、デルミス!?」
「行ク!」
戦い続けることが不可能だと判断した俺は、バルダメリアさんの腰を抱え上げて、見る限り一番高そうな屋根の上に飛び上がった。
そこから周囲を見渡してみれば、町には魔物が溢れ、傾いている家が幾つもあることが分かる。
ダンジョンの穴は無差別に開いたものであるらしい。
と、その時のことだ。
町の一角から、突如として行く本もの白い光が迸った。
その辺りはおそらくダンジョンの入り口があるところで、あれはアールの使う魔法と同一のものだろう。
ダンジョンに潜っていた神官たちが帰ってきたのだ。
「デルミス、あっちだ!」
「ハイ!」
しかしバルダメリアさんはその光とは全く別の方角を指して、俺を誘導した。
そちらは10軒飛び越えれば、すぐに町の外だ。
俺は彼女の誘導に従って跳ぼうとして、視界の隅に戦っている人々を捉えた。
『あれは……』
数人の大人たちだ。
彼らはただ戦っているだけではなく、子供を背後に守りながら戦っていたのだ。
考えてみれば当たり前の話で、人が住む場所には大人だけでなく、子供もいる。
そして魔物が襲う対象は、魔物以外には見たところ分け隔てがない。
このままにしておけば、彼らは危ないかもしれない。
チラリと神官たちやアールの方を確認してみたが、神官の距離は遠く、アールは他の人々を助けていて余裕がなさそうだ。
「どうしたデルミス!?」
『……くっ』
行くべきか、行かざるべきか。俺はその判断に迷った。
もしかすると彼らはとても強く、俺の助けなど必要ないかも知れない。
だが、そうではなかったら?
いや、仮にそうだったとしても、手も貸さずに自分だけ逃げることが正しいのか。
子供を見捨てて?
しかし俺は今バルダメリアさんを抱えていて、今穴場に行く事は彼女を危険に晒すことでもある。
「何を……あれか!」
バルダメリアさんも俺の視線の先に気付いたらしく、彼女も数瞬迷ったように溜めたが、その後に彼女は叫んだ。
「……くっ、行けよ、デルミス!」
「エ?」
「守りたいんだろ!? だったら行って、子供を守れ!」
「ア、ハイ!」
俺は彼女の声に背を押されて、迷っていたところから跳躍する。
子供たちを守る、大人たちの戦場へと。
この辺りの展開フワッとしか考えてなくて、めちゃくちゃ書くの時間かかりました……。
ヤバいですね!
ちなみに筆者は選択を迫られた時迷ってしまって、その間に他の人が助けに行ってくれた経験があります。
めっちゃ悔いるよね。
誤字報告ありがとうございます!




