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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第四章 ハルマトン・ダンジョン
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076-ミリーとデルミスの嫌いなもの

 アタシは修行をつけてもらっているけど、それじゃあ彼らの領域には決して届かないと思う。

 それでも何もしないよりは全然マシだけど。


「それにしても、神官様がデルミスに魔物を殺せって言った時はどうなるかと思ったぜ。お前、そういうの平気ならそう言っとけよな。焦ったじゃねぇか」

「アー、ハイ」


 アタシの愚痴に、デルミスは気まずそうに返事をする。

 ダンジョンの中でのことだ。あの腕のデカい魔物をデルミスが躊躇いなく吹き飛ばしたのは、アタシにとってとても意外なことだった。

 彼は青い血を持った魔物だが、妙に優しくて気が利いて、やたらと人間臭い奴だ。


 それでも魔物には違いないから、同族殺しをさせるのは酷なんじゃないかとアタシは思っていたのだから。

 でもそれはアタシが勝手に思っていたことであって、デルミスは気にしてなんかいなかった。

 彼は魔物ではあるが、魔物とは仲間でも何でもないらしい。


 神官様が言っていた様な、魔物は魔物を殺さないという話には、デルミスは含まれないんだ。


「考えてみたら、お前が何を嫌がるとか知らねぇんだなぁ、アタシ」


 一緒にいて、守ってやるなんて言いつつ、アタシはデルミスが何を好んで、何が嫌いなのかも知らない。

 ただいなくなってもらっては困るから弟分にしているだけ。

 これではいつか、コイツが耐えきれないことがあって、アタシから離れていってしまうかも知れない。


 そう思った瞬間、美味しかったメリコールが少しだけ、味気なく感じた気がした。


「なあ、お前が嫌がることって何なんだよ。知っとかなきゃ駄目だろ」


 そうだ。だからアタシは彼の琴線を知らなきゃいけない。

 一緒にいるためには、危険から守るだけではなく、人間関係だって重要なんだ。

 アタシは盗賊団でみんなで生活して、それを嫌と言うほど知った。


 人には許せることと、許せないことがある。

 デルミスは言葉が不自由であまり深い会話をしないから、そう言うことが全然分からないのだ。

 ただ、アルルゥのように彼も優しいと言うことだけは、ハッキリとしているのだけれど。


「ン、アー」


 アタシの質問にデルミスはまた困った様に声を上げて、ガラガラと自分の荷物を漁り始めた。

 デルミスが取り出したのは、彼が初めから持っていた単語の書かれた木の板だ。

 そう言えば、なぜそんなものを持っているのかも聞きそびれている。


 少しは仲良くなったと思うし、そろそろコレのことも聞いた方がいいのだろうか?

 けれど一度聞きそびれると、質問するのはちょっと難しいか。


「死ヌは、イヤデす」

「いやお前、そりゃそうだろうけどさ」


 誰だって死にたくなんてない。

 だからアタシは彼を守るのであって、死ぬことが怖くないならデルミスと一緒にいる意味がなくなる。


「怪我スルも、イヤデす」

「いや、だから」

「ワタシも、アナタも」


 デルミスはそう言って、自分とアタシを示す様に手でジェスチャーをした。


「は、アタシも?」

「ハイ」


 アタシのことも心配してくれている。

 それは有り難い事だけど、無理ってものだ。

 身体を張って戦って、コイツを守ってやらないといけないのだから。


「そりゃ嬉しいけどよ、そういう生意気な事はアタシより………………とりあえず会話が上手くなってから言えよな」


 アタシより強くなってから、と言おうと思ったけど、それは無理だった。

 だってデルミスはアタシより強いのだから。

 彼は強いのに、アタシに守られてくれている。


 なんだか立場があべこべだ。

 守っているはずなのに守られていて、一緒に居てくれる。


「それまではアタシが教えてやるからさ、離れるんじゃねぇぞ」


 これじゃあアタシの方が……いや、考えるのを止めよう。

 デルミスはアタシが一緒に居て、守ってやらなきゃ駄目なんだ。ずっと。

 それで良い。それじゃなきゃ駄目だ。


「ハイ。……ア」

「ん?」


 彼はアタシの方に手をやろうとして、ピタリと止めた。

 きっとまたアタシの事を撫でようとしたのだ。

 デルミスは時たまそうやってアタシの事を子供のように撫でる事があって、何度もしてくるものだからアタシもそれを覚えてしまった。


 けれど今日は、不思議と彼は撫でるのを止めた。

 何故かと思ったけど、あたしの手にはフォークが握られていて、メリコールを食べている途中だったからだ。

 食事中に頭を撫でたりするのは、多分ちょっと危ない。


 けれどいつもは恥ずかしいし腹立たしいその行為がないのは、それはそれで変な気分だった。


「……ん」

「ン、終ワリ?」


 だからアタシはフォークを置いてデルミスのアクションを待ったけれど、彼は小首をかしげるばかりで何もしてこない。

 それどころか彼の視線はメリコールを見ていて、食べたそうにしていた。

 けどアタシから撫でろなんて、そんな事を言える訳が無い。


「ん!」

「??」


 でもやっぱりデルミスは察してはくれなくて、何もしてこないし、視線はアタシとメリコールを行ったり来たりしている。

 アタシを撫でるのと、メリコールだったら、メリコールの方が重要だって言うのか!?


「〜〜〜〜もう良い!」

「アッ」


 なんだかアタシはとても恥ずかしく、そして腹立たしくなって、残ったメリコールを掴んでガツガツと齧り付いた。


「はぐっ、むぐ、あぐっ!」

「アッ、アア……」

「んぐ……これは、アタシんだ! もう水浴びしてくるからな、ここに居ろよ!」


 そうして寝る前に汗を流すために部屋を飛び出して、宿の外の井戸で水をバシャンと頭からかぶった。

 水浴び用のスペースまで持っていく事もせず、そこで服を脱ぐ事もしなかったせいで、全身濡れ鼠だ。

 とにかく今は、頭を冷やしたい気分だったんだ。


 まぁどうせ、服も後で洗うのだから、濡れたって関係ない。


「うう、くそ、何であんな……あっ、着替え持ってくるの忘れた」


 けれどそのためには替えの服が必要で、それはデルミスの居る部屋にある。

 なのでアタシは結局、濡れたままで部屋にとぼとぼと戻る事になったのだ。


「バルダメリアサン!?」

「に、荷物、くれ」


 デルミスにはとても驚かれたし、アタシも気まずくてそれ以外は言えなかった。

 それから、その後で宿の主人に怒られたので、もうこんなことはするまいと、アタシは内心で誓ったのだった。

言葉にしないと伝わらないんだなぁ、テレパシストじゃないからね。


それにしてもミリーちゃんの貴族的な側面をもうちっと書きたいとか思うんだけど、なかなか機会がないですね。

まぁ盗賊になってから数年は経ってるし、言葉遣いもすっかり定着しちゃってるから、しょうがない部分も多いんですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い雰囲気からの濡れ場(本当)で草。 [一言] なんか主人公が仮面ラ〇ダーアマゾン(旧版)に思えてきました。先の戦闘でライ〇ーキックするし片言だし。どこか殺伐としてる雰囲気は新版のア〇ゾン…
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