067-ドートシールの魔導
「フン。まぁそんなことよりもだ。どうせダンジョン目当てでこの町に来たのだろう。私の任務もそれでな、手伝え」
「私の方が階位が上なんですけどねぇ」
この女は教会の階位を何だと思っているのか。
いかに私が興味を持っていないとはいえ、蔑ろにしていいものではないと言うのに。
「お前はそんなことを気にするような奴では無いし、どうせ告げ口もしないだろう」
まぁ彼女の言う通り、私はそれによって彼女を責め立てるつもりはないが。
だからと言ってそれを当然と思ってもらっては困るのだが……。
「それでも嫌なことはありますよ」
「では正式に要請しよう。第3上級階位アーリスマディオ様に、ハルマトンのダンジョンの調査と、その攻略に手を貸していただきたい」
「そう言われると、断れないのですけどね」
全くもって厄介な話だ。
私には権力が与えられているが、その代わりにこうした要請にはそれなりに手を貸さなければならないことになっている。
通常の魔導教会に関することであれば人々のためになるので喜んで手を貸そうと言うものでも、この女が関わるとなると途端に胡散臭くなるのだ。
「具体的には何をさせようと言うのですか?」
「そう警戒しないでくれ。難しいことじゃない。ただダンジョンに潜った時に情報を共有してくれたらそれでいい」
「それだけですか?」
しかしドートシールからの要請は拍子抜けするような内容だった。
てっきりもっと無茶振りをされるものとばかり思っていたのだが、彼女にしては随分とおとなしいことを言うものだ。
「それだけって、修行で目を塞いでいるような神官に戦列に加われと言うような人間では無いぞ、私は」
「そうですか」
そう言えば私は今、修行の真っ最中なのだった。
魔導教会には「邪悪な魔物討つべし」という教義があるが、「修行中は極力気を使ってあげましょう」という教義もある。
その二つがぶつかって結構な議論になることがよくあり、しかし彼女は前者を優先するタイプだったはずだ。
それが何を考えているのか、今回は後者を優先してくれるのだと言う。
本当に何を考えているのやら。どうせ碌なことではあるまいが。
「そういうことなら了解しました。誠意努力しましょう。ところで話は変わりますが、チェレミーはちゃんと教育しているのですか?」
さておき、私は彼女に気になっていることを一つ問いたださなければならない。
彼女は第4階位にもなっているのに、弟子の育成がまともでないというのは見過ごせない話だ。
「チェレミー? ああ、しているが、それがどうかしたのか」
「どうかしたのか、ではありませんよ。何故彼女にきちんとした修行をつけないのですか」
確かに彼女は教会の神官として、魔物に立ち向かう意思は持っている。
しかし魔法の力量がそれに全く伴っていない。
修行をしっかりとしていない証だ。
ドートシールの力量ははっきり言って平凡なものであるが、それでも適当な修行を選択して課題として申しつけることはできるはず。
魔導教会の修行は長い歴史の中で積み重ねられ、何をやってもそれなりに成果が出るくらいには効率化されているのだから。
「彼女はまだ13だぞ。それほど急ぐ必要はないだろう?」
「ありますよ。それに彼女には素質があるのに、それを無駄にしているでしょう。あれでは早晩死んでしまいます」
魔物と戦うことは神官の責務ではある。
しかしだからと言って、それ以外を疎かにするようでは、その戦いで生き残ることが出来なくなってしまうだろう。
それでは意味がないのだ。私たちは人を救い、魔導を広げ続けなければならないのだから。
「心配しすぎだ。チェレミーには才能があるし、ここは中規模のダンジョンでしかないんだからな」
「規模は魔物の強さの証明ではありません」
「だが予測には役立つ。多少強かろうと、私の部下たちが簡単に負けるはずがないだろう」
彼女の言っていることは正論で、確率の高いやり方だ。
しかしやはり絶対ではない。
歴史の中では小規模のダンジョンから強大な魔物が出現した例も、僅かにだが確かに存在するのだから。
「そんなことでは死人ばかりが増えることになりますよ」
「考えすぎだ。それにたとえ私より階位が上であろうと、私の教育方針に口を出す資格はない筈だろう。チェレミーのことは私が決める」
「……そうですね」
確かに「弟子は師に習うもの」という教えもある。
そうでなくては導きが滅茶苦茶になって、成長が遅れてしまうのだと。
だがそれと同じくらい、師が悪ければ弟子は成長することができないのも常識と言える。
しかし彼女は第4位階。それだけ彼女の教える魔導が実績を残し、評価されているという事なのだろう。
何故ドートシールの方針で実績が残せるのかは分からないが、彼女がやっていることは結果だけを見れば正しいのだ。
「分かりました。これ以上口出しするのはやめておきましょう。もう用はありませんね? 私は行きます」
「どうぞ、第3上位階位殿。協力をよろしく」
「分かっていますよ」
私はそれだけ言い捨てると、彼女の部屋を後にした。
イライラする。あの女の魔導は私のそれとは相容れないものだ。
ただ魔物を殺すためだけに魔法を使い、修練そのものを重視しない。
これだから討滅派という連中は好きになれないのだ。
神がもたらした魔法を何と心得るのか。
あんな神官が第4位階? 教会の第1位階の方々は何を考えているのか、私には全く理解できない。
「まったく、いったい教会はどうなってしまっているんでしょうかね……」
討滅派という連中の魔導に対する汚染は、私が思っているよりも深刻ではないのだろうか?
私はそんなことを考えながら、一刻も早く教会から離れるべく、宿へと歩みを早めるのだった。
アーリスマディオくんが主人公みたいだぁ。
まぁ彼は彼で思想が偏ってはいるんですけどね。
しっかし、主人公そっちのけで話をされると筆を進めるのが大変なんだが?




