063-千里の一歩目
歩く速度が速いからか、その日の夕方には次の村へと到着した。
そして神官アールが村人に何事もないか、魔物の情報はないかと聞いて周り、何事もなさそうだと分かると、その日はその村に泊まることになった。
村長が食事と宿を提供したいと申し出てくれたが、今回は何もしていないからとアールは辞退して、硬貨らしき銀っぽいコインを数枚払って、個人部屋を二部屋と食料を貰い受ける。
片方はアールの部屋で、もう片方は俺とバルダメリアさんの部屋だ。
宿には小さな個人部屋が数室しかなかったので、この形になった。
あとは適当に食事を済ませて、寝る前に瞑想と水で体を拭き、すぐに部屋に引っ込んでしまう。
ちなみに俺の分の食事はアールが捕まえてくれた野犬だった。
何事もない日。
まあそうそう毎日戦いなどあるものではないだろうが、それは多分アールがいるおかげなのだろう。
俺とバルダメリアさんだけだったら、昨日襲ってきた2人の様な連中がひっきりなしに襲って来ていたかも知れない。
「『毎日がこう静かだと良いんだけどな』」
すぐ側で眠るバルダメリアさんの顔を見ながら、俺はそう独りごちた。
ただそうは言っても、俺は食事だけでも毎回戦わなければいけないし、どこかでお金は稼ぐ必要はあっただろうから、アールの旅に同行していなければ何かしらのことは起きていただろう。
アールに出会ったことは今の所、そう悪い方向の話ではない様に思う。
「ん……」
と、バルダメリアさんが寝返りを打った拍子に、彼女の胸元からペンダントのトップがこぼれ落ちた。
ピンクの美しい宝石。アルルゥの髪の色とよく似た、妹分からの贈り物。
俺はそれを見ると、悲しい気持ちにさせられる。
アルルゥを守れなかった事もそうだが、それによってバルダメリアさんが俺から離れられなくなっている事が悲しい。
また冷静になって考えてみると、彼女の依存度合いは最初に考えていたよりも、とても重いものなのではないだろうかとも、俺は思い始めていた。
少なくとも彼女のそれは一時的なものだと、俺は思っていた。
しかし彼女の俺に対する依存のようなものは、まるで弱まる気配が無い。
それどころか、震えるほどに恐れているはずの神官に反抗するほどの力が、彼女を突き動かしている。
そしてそれは使命感や希望からでは無く、不安から来るものだ。
確か、強迫性障害といっただろうか?
ある種の不安から特定の行動を止められなくなってしまうのだとか。
それと同じであるかは分からないが、恐らく似たようなものだろう。
不安が原因だというのなら不安を取り除けば良いはずだが、俺にはその方法が全く分からない。
「『少なくとも、今は平和か』」
だがそう、少なくとも今は平和だ。
アールの説得が成功して、戦いから離れて眠っている今だけは。
しかしそれは薄氷の平和だ。
アールは魔導教会の現状を嘆いていたが、だからといって他の神官が弱いとは限らないし、その神官が殺されてしまうような存在がこの星にはいる。
上には上が居て、俺もバルダメリアさんも、そういった相手には手も足も出ないだろう。
「『くそっ、力があれば……』」
俺には力が足りない。
瞑想をしても、俺には何も進展が無かった。
バルダメリアさんには先がある。アールのように強くなる可能性が。
だが俺がした発見には、力を得るという先がない。
エネルギーがあることが分かっても、それを活用する能力が無いのだ。
これでは何を守る事もできないだろう。
もっと強く、俺には力が必要なのに。
このあどけなく眠る彼女を、アルルゥの慕った彼女を守るための力が……!
「『力が欲しい……力が、もっと強い力が……!』」
薄くはあっても、魂のエネルギーはそこら中にあるはず。
そのエネルギーを際限なく使えたら、俺は簡単には死ぬ事も無く、全力で暴れ続ける事もできるのに。
アールなどに屈する事も無く、彼女と俺の安全を確保して、静かに暮らす事だってできるかも知れないのに。
「『意思の、力』」
彼は意思と肉体の力で魔力を操ると言った。
精神を拡大し、空気中の魔力を操るのだと。
そんな事が可能であるのなら、意思の力でこのエネルギーを支配下におければ良いのに!
できなければ何時かまた、アルルゥのようにバルダメリアさんも失う事になるだろう。
それだけは嫌だ!
「『俺に力を、与えてくれ。力よ、俺に従ってくれ。頼むから、従ってくれよ……!』」
願う。強く願う。
ぎゅっと目をつぶり、手を点に向けて、無様に、しかし心から願う。
何か俺に、先を見せる力を与えてくれと。
「『……駄目なのか、くそぉ……!』」
しかしそう何事も上手くいく事は無い。
少しだけ新しい発見があっただけでも前身したと言えるのだ。
これ以上を望む事は欲張りというものだろう。
「『あ? ……いや、いや!』」
だが、そう思った矢先のことだ。
俺はほんの少しだけ、さっきと異なる事に気が付いていた。
それは周囲の魂のエネルギーが、ほんの少しだけ濃くなっている事にだ。
いや、濃くなっているのでは無い。集まっているのだ。圧縮されているのだ。
俺の肌に押しつけてくるように、寄ってきているのだ!
「『吸える……吸えた、吸えたぞ!』」
その証拠に俺は手を動かさずして、指先から魂のエネルギーを取り込む事ができた。
集まっているのはとてもゆっくりで、吸えたのも手を動かした時と同じ程度の量でしかない。
それでも動かずに俺は、エネルギーを集める事ができている。
「『意思の力、これが、意思の力だ! ああ!』」
俺の理解できない魔力などを扱うアールのように、そしてバルダメリアさんのように、俺は魂のエネルギーに干渉できているのだ!
訓練で精神を拡大できると彼らが言うのなら、俺にだってそれはできるだろう。
いずれはより多くのエネルギーを、より高速で集め、活用する事ができるはず。
「『見えた、先が! 力が!』」
そう思わなければやっていられないだけだが、俺はそれを信じたかった。
強くなれる。そう信じられることが、俺には必要だったのだから。
「ん……でぅみすぅ?」
「ア、スミマセン……」
叫んだ事でバルダメリアさんを起こしてしまったが、俺は喜んでいた。
この力にはまだ先がある。
彼女を守る事も、アールを超える事もきっと出来るようになる。
時間がかかろうと、何時か必ず。
だから頼むから、それまでは俺の力の及ばない脅威は訪れないで居てくれよ。
———To Be Continued.
ご都合主義と笑わば笑え。
設定的にはミリーちゃんやアールが魔力を扱うサイキックで、デルミスくんは魂のエネルギーを扱うサイキックなのです。
一歩進んで、第三章終わり!




