062-1日にしてならず
「『んん?』」
「どうしました?」
「ア、イイエ、何モ」
「そうですか?」
気を散らすと、気配は直ぐに分からなくなってしまった。それくらいに希薄な量のエネルギーが空気中に漂っている。
量としてはあまりにも少なすぎて、今まで全く気付くことができなかったくらいだ。
まぁ量が量なので気付いていたとしてもあまり意味はなかっただろうが、何故こんなところに存在しているかは気になるところである。
普通に考えるなら、宇宙(?)から降り注いだエネルギーが空気中にそのまま存在していると言うことなのだろうが……。
「とにかく、最初はほんの少量でゆっくりであっても、まずは意識的に体外で魔力を動かすことに慣れなければいけません」
「は、い」
俺は魔力を感じ取ることが出来ないので、2人が感じている魔力とは異なるものだろう。
まぁ考えたところで情報が無い以上は答えなど出ないだろうし、気にするだけ無駄だ。
そんなことよりも、存在に気が付いたのであれば、これをどうにか活用できないものだろうか?
今の所は手の届かないところに一欠片のベーコンが転がっているようなものでしか無い。
「『(む……ぬぬ……)』」
とはいえ取り敢えず何かしら試してみないことには始まらないので、手からエネルギーを吸収できないか試してみるが、全く吸えている気がしない。
こんなにも近くにあるのに、何故だろうか?
空気中には確かにあるような気がするのであるが……。
「『お?』」
気になって、ふい、宙に手を伸ばしてみると、ほんの僅かにあの味を感じる。
僅かであっても、俺にとっては濃い極上のスープ。
その味を間違えることはないわけで、俺は今確かにエネルギーを吸い取った。
何故、今? 手を動かしたから?
つまり空気中にあるエネルギーは、自分から触れに行けば捕まえられるのだろうか。
しかしそれでは、腕を動かした分だけエネルギーを消耗するのだから、意味がないどころかマイナスになりかねないのでは?
「ではそれを踏まえて、これから半刻だけ瞑想をしましょう」
「え、半刻、ですか?」
「旅の途中ですからね。それに瞑想は寝る前や寝起きでもできますし、魔力を繰ること自体は歩きながらでもできます。慣れれば、ですけどね」
どうやらバルダメリアさんの方も一朝一夕ではいかないようであるし、俺たちの修行は前途多難であった。
せめて周囲のエネルギーに干渉できれば、何かしら活用方法がありそうな気がするのだがなぁ。
◇◇◇◇◇◇
「それでは、今回はこれで終わりです。目を開けて立っていただいて構いませんよ」
「はい、あ、ありがとうございます」
その日の修行はそれ以降特に進展もないまま、時間が過ぎて終了となった。
新しい発見はあったものの、今のところそれは、だからどうしたと言うレベルの話でしかない。
移動中などにちょっとずつ吸えると考えれば、活動エネルギーの補助くらいにはなりそうではあるが、常時それを意識するのは非常に大変そうだ。
「一応、移動中も魔力を意識して動かし続けてみてくださいね」
「はい」
「ただし足元には気をつけて。この修行中に転けて怪我をする人が結構多いんですよ」
とはいえバルダメリアさんはそのようなことをしなければならない訳で、俺だけが文句を言うわけにもいかない。
注意散漫になって怪我をしやすくなると言うのは気になる話だが、やった方が上達が早いのは確かだろう。
せめて俺にもそう言った分かりやすい目標があれば良いのだが、こればかりは仕方がない。
前例の情報が無いことは常に手探りで、答えを探していかなければならないのだから。
「では出発しましょう」
「ハイ」「はい」
そうしてバルダメリアさんも靴を履いて、荷物を担いだ俺たちは、また旅路を再開したのだった。
もちろん、それぞれが空気中にある力の源を探りながら。
◇◇◇◇◇◇
木々がほとんどなくなった頃、足の長い草が生い茂る中を歩いていると、突然視界が開けて周囲が見やすくなった。
何事かと思えば、そこにあったのは緑色の植物が栽培されている、区画として区切られた畑であった。
「オオ!」
「畑ですね。パモの収穫はまだまだ先ですよ」
遠くに民家が何軒も見えるので、この辺り一帯は本当に農耕地帯なのだなと感じさせる風景だ。
植っているのはパモという植物らしいが、野菜か穀物の名前だろうか?
どんな味がするのか気になるところだ。
「しかし、さっきまで通ってきたところも畑だと思うんですが、かなりの部分が放棄されて時間が経っているようですね」
「エ?」
「それだけこの地が荒れていると言うことです。ここまでこちらを伺っている方も何度か確認できましたしね」
「ナルホド?」
しかし神官アール曰く、本当はこの畑はもっと広いものであったらしい。
今まで通ってきたところというのは、ひょっとして妙に草が生い茂っているところのことだろうか?
だとするならかなりの範囲が放棄されていることになる。
それに俺は分からなかったが、アールが言うには何者かがこちらを見ていたらしい。
ひょっとして賊だろうか?
「神官様を襲う馬鹿はいねぇってこと」
「ナルホド」
そういえばバルダメリアさんも、神官を見つけて直ぐに逃げようとしていた。
この真っ白なアールの格好が職業を示しているのであれば、確かに襲われることなどありはしないだろう。
何せ遠くからでも一目でわかる色をしているのだから。
そんな真っ白で汚れとかはどうしていると思うが、その辺りは多分彼が何とかしているのだろう。
それにしても、そういった賊などは放っておいてもいいのだろうか?
彼は神職であって警察……騎士? では無いので、治安を維持する義務はないのかもしれないが。
いや、襲われたわけでもないので、その何者かというのが賊と決まったわけではないのか。
何にせよ、俺には分からないことであるので、彼が放っておくと決めたのならそうするしか無い。
「襲ってきたら殺すか捕まえるかをしなければいけませんが、今の情勢を考えると、捕まえて近くの村に引き渡しても、そのまま縛り首でしょうか? 来てほしくはないものですね」
アールがそんなことをぼやくのを聞きながら、俺は一面が緑色で染まっている畑を見ながら、ただ歩き続けていた。
修行するにしても、明確な目標がないと辛いものがありますよね。
デルミスくんの場合、それでも取り敢えず何かをやらざるを得ない事情があるので、それがモチベーションになってるのかな。
ちなみにカーニャは野に返しました。
自分でゲットできるようになるといいね、ミリーちゃん。
紐の魔法を使いこなせば、ペットの紐みたいにして懐くまで(強制的に)連れ歩けるぞ!




