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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第三章 修行僧
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060-魔法名とは

「神官様、お願いがあります」


 俺が神官アールに魔導教会について聞こうとする、その直前の事だった。

 今までカーニャという小動物を可愛がっていたはずのバルダメリアさんが、アールに声をかけたのは。

 彼女は両手でカーニャを掴んで、険しい顔でアールを見ている。


「おや、何でしょう」

「あ、アタシに、修行の方法を教えていただけませんか?」

「なんと!!!」


 バルダメリアさんの要求に対して、神官アールは大きく喜色の強い声を発した。

 人は誰でも、自分の趣味に理解を示されれば嬉しくなるものだ。

 それがオタクと言うほどにのめり込んでいるものであれば、その喜びは一際に大きいものだろう。


「きょ、興味がおありなのですね! ではまず、水並べと石固めを……あ、いや、その前に光運びで実力を見なければなりませんが、ああいや、まずはどこで何の魔法を学んだかのお話を……しかし取り敢えずやってみれば実力はわかるのでは? いや基礎は重要ですから取り敢えず……」

「え、あ、え?」


 彼はフライパンを火にかけていることも忘れていそうな勢いで饒舌に喋り始めた。

 普段話を聞いてもらえないオタクに趣味の話を振った感じだ。

 魔導教会は修行などは盛んにやっていそうだと思っていたが、そうでもないのだろうか?


 しかし、その前に……。


「アノ」

「何にしようか迷ってしまいますね! ああ、瞑想と組み合わせるのもいいかもしれません。30年あれば最強の魔法使いにして差し上げますよ!」

「アノ」

「ではまず、そうですね。やはり魔法をどの程度学んだかのお話を───」


 パァン! と強く手を鳴らして、2人の注意を引いた。

 このままでは彼の話は全く終わりそうにないし、やはり彼は自分が今何をやっているのかを失念しているようだ。


「あ……すみません、今はちょっと」

「ソレ」

「え?」

「あ」


 それが証拠に、彼の手に握られたフライパンに乗った食材は、少しではあるが焦げつき始めていたのだから。


「ああ、いけません。台無しにするところでした。お話の続きは食事をいただきながらにしましょうか」


 彼はそう言うと、手早く火を消してフライパンの中身を食器に盛り付け始めた。

 これは彼に何かを聞ける状況ではなさそうだ。

 まぁ何度でもチャンスはあるだろうし、バルダメリアさんの修行が終わってからでも聞けばいいだろう。



 ◇◇◇◇◇◇



 食事をいただきながらなどと言ったはずが、神官アールは作り終えた食事を盛り付けて祈った後、大急ぎで食事を掻き込んでしまった。

 食べている時間すら惜しいといった勢いだ。

 バルダメリアさんもそれに倣ったのか、いつもよりも早く昼食を食べ終えてしまう。


「ああそうだ、修行の前に、まずはこの食器を洗ってみましょうか」

「洗う?」

「そうです、このように」


 そして彼は食べ終えたばかりの木の食器を手に持つと、それを宙に浮かべ、さらに突然生じた水の玉に没入させて見せた。

 こうして見ると、魔法というのはまるで超能力のようだ。

 特に彼は無言で行使するものだから、余計に物語に出てくるような魔法とは違って見える。


 しかしこれを修業で身につけられるというのなら、それは純然たる技術であるのだろう。


「アタシ、その魔法を使えません」

「おや、そうですか?」

「何て魔法で、どうやって使うんでしょうか?」

「何て、と申されましても、水を発生させる魔法としか……」


 対してバルダメリアさんやアルルゥなどは、魔法名を口にして魔法を行使している。

 肉体の強化には名前がないようだが、その違いは何だろうか?

 魔力を使用できない人間がいるということは、肉体機能として魔力を使って肉体強化をできる仕組みが筋肉などにあるとは考えにくい。


 となるとやはり、認識と意思によって発現する何かであるとは思うが……。

 この手の話は聞いているだけでも面白い物だ。


「魔法名がないんですか?」

「魔法名? ああ、あの呪言ですか! 私はあれは好かないんですよね」

「は、え、呪言!?」


 彼は魔法名を呪言と言った。

 呪いとは穏やかではない名称をしている。

 呪いには相手を不幸にするもの以外にも、まじないという人を助ける意味もある。


 しかし俺が呪言と聞いてまず思い浮かべるのは前者だ。

 であれば、この場合も前者であるだろう。


「ええ、あれは(のろ)いなのですよ。意思と言葉を切っ掛けにして、自分の肉体に特定の魔法を発現するように魔力行使を強引に行わせる。師から弟子へと連綿と受け継がれている呪いです」

「んなバカな……」

「『なんじゃそりゃ……』」


 バルダメリアさんは口を閉じるのも忘れるほどに呆然として驚いているし、俺も驚いた。

 そりゃあそうだろう。今アールが語った話は、かなり乱暴な話だ。

 人間が自分で精密動作をするのが難しいから、勝手に動くようにスクリプトを人間の体で走らせたようなものである。


 可能であるのなら極めて有効な方法だとは思うが、やっている本人がその自覚がないということは、彼女はその知識を持っていないということだ。

 つまり本人に同意もなくそんなことをさせているということであり、そんな教え方をするのがこの文化圏でのスタンダードなのか?

 人権はどうした、と言いたいところだが、この文化圏でその概念が発達している保証はないのだからしょうがない。


「魔力の扱いを覚えなくても魔法が使えるというのは良いんですが、まっっっっったく調整が利かないのです。必要だったというのは理解しますが、あれでは強い魔法使いにもなりませんし、魔導の何たるかも理解できないでしょう」

「そんな……」


 まぁバルダメリアさんは貴族の子女であったというし、またディンガードは護身魔法などと言っていたから、もしかすると彼女が学んでいた魔法は最低限であったのかもしれない。

 であれば、色々と知らないことが多くても仕方がないだろう。


「ですが嘆かわしいことに、最近は神官でもこれに頼るものが増えているのですよね。『天の裁き(ガランメルシア)』さえ使えれば良いなどと言って、それだから死傷者が増えるのだと思うのですが」


 しかし一方で神官アールもため息をついており、またその言葉の内容からは魔導教会の内情が彼の理想とは異なっていることが窺える。

 というかもしかして、彼は神官の中ではかなり強い方なのではないだろうか?

ヒロイン強化フラグ。

これが成れば、デルミスくんなど足元にも及ばない……かも知れない。


魔法の名前を口にすることで魔法が使えるってどういうことだろう? って考えてたらこの設定に至りました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり問題や代償、習得の難度や期間とかがあったほうがリアルで情景を思い浮かべることができます。 なろうでよくあるチートで即ポンッと出来ましたは、何というか当人がその分野を本当に理解してるの…
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