058-食事における魂の構造
「デルミス?」
「そうなのですか? しかし昨晩も今朝も同じ様なものを食べていた様に思うのですが」
俺が彼の言う普通の食事を食べられないことを告げると、バルダメリアさんは驚いて、神官アールは不思議そうに首を傾げた。
気を遣ってくれるバルダメリアさんには悪いが、どうせこの旅の間隠し続けることは不可能だろうし、それならば理解を得て魂のエネルギーを多く保っておいた方がいいだろう。
しかしどう話したものか、取り敢えず死んでいてはダメだと言わなければ。
確か木の板にあったはず……。
「『えーと……』」
「デルミスは、その、生きてる獣とか虫とかじゃないと、食べたことにならないみたいなんです」
俺が荷物を開けてモタモタとしていると、バルダメリアさんが話始めてしまった。
彼女は俺が言いたいことを的確に言ってくれたので、とても助かる。
「生きている……ではこれではいけませんか。となると……ああ、見つけました」
神官アールが徐にどちらともない方向へ手を伸ばすと、そこからレーザーの様なものが伸びて、草むらの中に突っ込んでいった。
そして彼がそれを掴んでグイと引っ張ると、レーザーはたわんで紐のようになり、何かがこちらへ釣り上げられるように飛んでくるのが見える。
彼はそれを片手で受け止めると、掴んだままこちらに見せてきた。
「はいっ、ではこれならどうです?」
『キュー!』
「『うーん』」
「あっ、カーニャ……」
『捕縛せよ』で縛られたフェレットのような生き物だ。
こいつはカーニャというのか?
いやそれよりも、あの魔法にはそんな応用も利くのかと驚きながら、俺はそれを受け取ってみる。
指先を針のように変化させて、その背中をちょっと刺してみたが、どうにも魂のエネルギーを感じられない。
この獣では少々小さすぎたようだ。
殺さなくて済むのなら、殺す必要もないだろう。
「ン」
「えっ、あ、ありがとう。可愛い……」
俺がそのフェレットを物欲しそうにしているバルダメリアさんに渡すと、彼女は顔を綻ばせて喜んでいる。
彼女は普段はチンピラのように振る舞っているが、可愛いものがとても好きだ。
そういった物に接する時の彼女は何というか、とても上品な仕草になる。貴族という育ちのせいだろうか?
そういえば最初に出会った時も、花を見て笑っていたなぁ。
などと食事とは関係のないことを思い出しながら、俺はアールの方へ向き直った。
「少シ、小サい」
「ふむ」
俺が獲物の大きさに言及すると、彼はまた別の方に手を伸ばして、『捕縛せよ』と思しき魔法を射出する。
そしてまた引っ張り上げると、大型犬かと思うようなサイズのものが飛んできて、それをまた彼は片手でキャッチした。
「では、こちらならどうですか?」
『ガウガウ!』
今度は硬そうな毛で覆われたデカい狼のような獣で、アールは身動きも取れなさそうなその首根っこを掴んで、ぶらりと俺に向けて差し出してくる。
このサイズなら、確実に大丈夫だろう。
しかし魔力光も纏っていないのに、恐ろしい膂力だ。
もしかして隠す方法でもあるのだろうか?
「アリがトう」
「いえいえ、保護者ですからね」
俺はその獣を受け取って地面に下ろすと、指を鋭くしてその背中を掴むようにして食い込ませた。
ああ、魂のエネルギーが流れ込んでくる。
食べ慣れても飽きのこない、不思議な極上のスープ。
美味い、美味すぎる。
『ギャイン!?』
「『んー!』」
「ふむ……吸血ではなさそうですね。魔力でもない。となると、精神を食らうタイプでしょうか?」
魔物には色々な種類がいるらしいが、アールは魔物と戦う神官であるから、それをよく知っているだろう。
その中にはもしかすると、俺と同じような生態の魔物もいるのかも知れない。
彼は俺の食事風景を見ながら、それを推察しようとしているようだ。
「チガウ」
「そうなんですか?」
しかし残念ながら、俺が食べるのは、おそらくは精神ではない。
何故なら俺は魂のエネルギーを消耗しても、気力が萎えたりすることはないからだ。
食われている方はそのように感じる可能性も無くはないが、俺は明確に異なるものだと思っている。
とはいえ俺も、魂のエネルギーが何であるのかは、いまいち分かっていないのだが。
失われても死ぬかどうかすら分からないのだが……そうだ、良い機会なのでこの獣で観察をしてみよう。
実験隊になるこの狼(?)くんには哀れではあるが、俺のために死んでくれることに感謝はしておく。
「『ご馳走様』」
『ギュゥ……』
エネルギーを全て吸い上げられた狼っぽい獣は苦たりとして、息も弱々しくなっている。
しかし指を刺したままにしていると、何かまだ残っているものがあるような、不思議な感覚を覚える。
それは石のように固く、一方で薄いガラスのように儚い。
二つのものがある?
「『んん?』」
「どうしました?」
エネルギーが空っぽになって少しすると、儚げな方の感覚が消た。
残っているのは石のような感覚だが、そちらはガラスの方の感覚が消えたと同時に、一気に脆くなってしまったように感じる。
「『呼吸が止まった……』」
そして狼の呼吸までも止まってしまったが、まだ石の方は健在だ。
これからこの石はどうなるのだろうか?
「死にましたね。食事は終わりでしょうか?」
「待ッテ」
「はい?」
俺は観察を続けることにして、指を刺したままにする。
石はだんだんと脆くなり続けているような感覚を覚えるが、まだまだ欠けても壊れてもいない。
そうして長く時間が過ぎていき、10分ほど経った時だろうか?
「『あっ』」
ボロリと石のような感覚が欠けて、そのまま石は砕けて消えてしまった。
「死ンだ」
「もう結構前に死んでいたと思いますが……」
「チガウ」
「ふむ?」
俺はアールの言葉を否定した。
死んだのは今だ。
今の石が何だったのかは分からないが、推察するなら魂の核のようなものだろうか?
ガラスのような、恐らく膜が消えて、核は脆くなって砕けてしまった。
魂のエネルギーがなくなった生き物は、そうして死んでしまうらしい。
これは貴重な情報だろう。俺が食事によって吸い尽くせば、相手は明確に死んでしまうと言うことが分かったのだから。
あとは個体差とか、魂のエネルギーが回復するかとが分かれば良いのだが、今この場での実験は不可能なので、それは今後の課題だ。
今は取り敢えず、実験体と食事になってくれた狼に対して手を合わせて、黙祷を捧げよう。
そういえばバルダメリアさんもパンチ1発分のエネルギーが奪取されているんですよね。
ちょっとくらいなら平気ってことも判明している。




