057-修行オタクって凄い
それから俺たちは、歩きながらあれこれと会話していた。
と言っても俺の会話訓練が主で、特に神官アールとバルダメリアさんが会話をすることは殆どない。
どうも彼女から避けているらしく、あまり会話にならないのだ。
ただ魔法の知識に関しては興味がある様で、彼が嬉々として語る修行法を聞いては時折呟いていた。
まぁ主に聞いていた俺の方は半分も理解できなかったのだが。
滝行は水を弾くように魔力を操るとか、石積みは石と石の間を接着するとか、水並べは指の先に水の玉を並べては消すだとか、言葉の上では何となく理解できるが、その理屈までを言われるとさっぱりだ。
「己の内なる魔力を使用することは基本ではありますが、それでは速度が失われる。つまり魔力を取り込むのではなく、精神を拡大して周囲の魔力を染め上げ、支配下に置くことが肝要なのです」
「分カラナい」
それに魔力を支配下に置くと言われても、魔力自体を感じないのだからどうしようもない。
バルダメリアさんなら、もしかして理解できるのだろうか?
と思ったのだが、彼女も話を聞きながらしきりに首を傾げているので、どうも理解し難いようだ。
「そうですか。魔力がちょっとでもあれば分かると思うのですが……バルダメリアさんはどうです?」
「アタシもあんまり……」
「ふーむ。では少しやって見せましょう」
そう言って神官アールが手の平を下に向けると、茶色い地面から白い砂の様なものがサラサラと湧いて浮かび上がり、彼の手の平の前で3cm角くらいの美しく磨き抜かれた様な立方体を作り上げる。
かと思えば彼は更に手の平を上に向けて、その立方体を俺たちに見え易いように浮かべて見せた。
「凄い……」
「エッ?」
バルダメリアさんが立方体を食い入る様に見つめている。
確かに凄いは凄いが、その様に驚愕するほどのことなのだろうか?
魔法とは光の紐を出したり植物を自在に操ったりすることが出来るものという理解なので、今更キューブを1つ作られても、俺にはその凄さが分からない。
おそらくは出来栄えや作成速度の話だとは思うが、どの程度どう凄いのかと言う話になると、理解が難しい。
「これを更に、こうします」
神官アールがそう言うと、立方体の周囲に6本の小さな光の槍が、6面に刃先をぴたりと付ける形で生み出された。
俺と戦った時に宙に並べたあの槍だ。
この槍も何の支えもなく宙に静止していたかと思えば、6本の槍が急激に回転を始める。
そして細く甲高い音を立てながら、槍は石の表面を猛スピード動き回り、小さな立方体を高速で削り始めた。
複雑に動き回りながらも、槍は一度もぶつからない。
あっという間に石は小さくなっていき、数十秒もしない内に削り切られてしまって、6本の槍は中央で刃先をぴたりと合わせて停止した。
もう石は影も形も無くなく、ただアールの手の平に白い削りカスが積もっているだけだ。
「とまぁ、周囲の魔力を掌握すればこんなことも可能な訳です。見えない部分でも自在に魔法を操り、更に魔力の負担も少なく出来る。一挙両得とはこのことですね」
流石にこれは俺にも凄さが分かる。
6本の槍は全く異なる動きをしていたし、彼の言うとおり6面体の奥の面は見えない筈だ。
彼はそれ以前に目を塞いでいるというのは置いておいて、つまり彼は見もせずに機械のような精密さで魔法を操る事が出来るという事になる。
一体どれだけの研鑽を積めばそんな事が可能になるのか。
それとも魔法の素養があれば、意外と簡単に彼のような超人じみた事が出来るようになるのだろうか?
「ちなみに、これは石削りという修行法です。何処ででも出来るのでお勧めなんですが、先ほど述べた技能を習得していなければ、やる意味が薄くなってしまうというのが問題と言えば問題でしょうか」
「はぁ……」
いや、バルダメリアさんは言葉も無い様子であるし、そんな事は無いだろう。
修行オタク恐るべしと言ったところか。
ともあれ、彼の実力については十二分に理解する事が出来た。
やはり彼に反抗するのは無謀だ。
このまま彼と仲良くなって、見逃して貰う方針を継続しよう。
幸いにして彼はとても善良な人間である様なので、きっと上手くいくだろう。
「どうです、お二人とも修行してみませんか? 今なら私がちゃんと教えてあげますから!」
しかし旅の間、ずっとこの修行トークを聞き続けなければいけないのだろうか?
それだけは少しばかり憂鬱であった。
◇◇◇◇◇◇
暫く歩いていると、周囲を囲む木々がどんどん少なくなってきている様に感じる。
森と言えるほど大規模な木々の密集地はもうあまりなさそうだ。
その代わりに草原が増えてきていて、街の横はとても歩きにくそうになっている。
そう言えばこの辺りは農耕地帯だとバルダメリアさんは言っていたが、今のところはそれらしい光景ではない。
もう少し先なのだろうか?
「そろそろお腹が減りましたね。昼食にしましょうか」
「ハイ」
「はい」
そんな道中で、草原が少しひらけている場所があり、そこで神官アールが俺たちを引き留めた。
食事にするらしい。
であるなら俺も獲物を狩ろうか、昨晩と今朝は食事をしていないに等しいし……と考えて、ようやく俺は深刻な問題に気がついた。
「あ……デルミス、食べるものが無いんじゃねぇか?」
「ア!」
ここには濃密に周囲を囲む木々も、その中を棲家にする動物たちもいない。
周囲を見渡しても、まばらな木々には岩虫の1匹も張り付いていないのだ。
俺が食べられる獲物が、何にも見当たらないのである。
「食事なら提供しますよ? 村でベーコンと旬の野草をいただきましたからね。炒め合わせて美味しく食べましょう」
「あ、いや、デルミスは……」
神官に俺のことを話して良いのか、バルダメリアさんは迷ったらしい。
やはり彼女の中ではまだ、彼は恐ろしい神官である様だ。
彼女が俺の方にチラリと視線を寄越したので、俺は頷いて自分から言うことにした。
「ソレは、食ベラれナい」
彼ならきっと、人間3Dプリンターになれる。
しかしこの章はずっとアーリスマディオの話ばっかりしてるなぁ。
こいつを女キャラとして出しておけば、立派なヒロインになったものを……うごごご。
ありきたりに反抗していくスタイル!




