056-アーリスマディオの目的
次の日の朝、俺たちは村長から朝食を提供された後、村長と一緒に村の入り口と思われるところに立っていた。
村と外を繋ぐ道と思われるところは草が禿げており、轍がくっきりと見て取れる。
この星にも馬の様な生物がいるのだろうか?
「ああ、来ましたね」
ところで何故俺たちがこんなところで立っているのかというと、それは神官アールが何かの連絡を待たなければならなかったかららしい。
彼が空を見上げて握ったボールの様なものを掲げると、そこに向けて光が飛んできた。
光はボールに直撃すると、吸い込まれて消えてしまう。
結構な速度で飛んできていたが、受け止める時に動かなかったあたり、物理的な衝撃などはないらしい。
「ふむふむ。大丈夫そうですね。村長さん、10日以内にはこちらへ人を寄越すそうですよ」
「おお!」
受け止めただけで何らかの情報を読み取ったのか、アールが村長に伝言を伝えている。
おそらく昨日の件だろう。
知らせを飛ばすとは言っていたが、昨日の今日で決定して通達までするとは、なかなかにフットワークの軽い組織であるらしい。
それに通信手段が高速であるというのも素晴らしい。
どの程度の距離から飛んできたのかは分からないが、手紙などよりはよほど高速だろう。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、これも神の信徒の勤めですから。あなた方の村がよく繁栄することを願っていますよ」
「ははー」
一通りのやり取りを終えると、彼はくるりとこちらに向き直った。
「それではお二人とも、そろそろ出発しましょうか」
「ハイ」
「お、おう」
あっさり気味に思えなくもないが、彼は修行の旅をしていると言っていたし、そんなものなのだろう。
ここに特別な目的があったり、村人の中に特別親しい人間がいたりするわけではないのだ。
「もう行ってしまわれるのですね。本当にお世話になりました」
「村長さんも、どうぞ息災でいらして下さいね。村の未来に魔の導きが在らんことを」
それでもしっかりと祈りのポーズと祝福と思われる文言を残して、俺たちは村を旅立った。
ただし馬車などと言った乗り物は無く、徒歩で。
◇◇◇◇◇◇
轍の跡を追いながら、神官アールを先頭にして、俺たち2人はその後に付き従う様に歩いていく。
意外と歩く速度が速いが、俺はついていけているし、バルダメリアさんも特に問題はなさそうだ。
「神官様、どこへ向かっているのかお聞きしてもいいでしょうか?」
彼女は最初から無言でついていくのも暇だったのか、アールに目的地を聞いていた。
確かに俺たちが知っているのはこれが修行の旅だということだけで、どこをどう旅するのかも知らない。
「そうですねぇ、これと言って目的地があるわけではないのですが……私の目的はこの辺りの人々を助けて回ることですので。数年前に戦争があったのは知っていますか?」
「……はい」
しかしアールから返ってきた答えは明確なものではなく、付け足された質問も俺の知らない内容だ。
バルダメリアさんが知っている様なので、もしかすると彼女の両親が死んだという戦争だろうか?
確か、王国軍が来るとか言っていた様な気がする。
「そうですか。まぁしかしデルミスさんもいることですし、一応説明しておきましょう。北西のカールマリア聖国と南東のビドラニア王国の間で起きた戦争なんですが、それによってカールマリアが滅亡して領土が王国に併合されましてね」
何でもないことの様に口にされるその情報を聞いている最中、俺の片腕がぎゅっと握られる。
当然ではあるが、バルダメリアさんにとっては辛い話だろう。
止めさせるべきか?
だがこの話は彼の目的に関わる話であるはずだし、俺としても聞いておきたい。
長引く様なら考えなければいけないが……。
「それ自体はよくある話なのですが、問題はその先。王国の領地経営がどうも上手く行っていない様なのです。ビドラニアは他の国とも睨み合っていますから、治安を維持するだけの兵力を割けていないのですね」
「ナルホド」
つまりこの辺り一帯は現在、かなりの無法地帯化している可能性があるということだ。
敗北したカールマリア聖国の敗残兵が賊になっていることも考えられるし、そうでなくても無法者を取り締まれないのなら、暴力が横行する世界になっていることだろう。
だからこそ、さっきの村は教会を建てるという選択をしたのだ。
「……分かるのですか?」
訝しげな神官アールの声に俺が「ハイ」と返事をすると、彼は「そうですか」と返してくる。
「不思議な方ですね。本当に魔物なのかと疑いたくなりますが……とにかく、王国の力不足で困っている方々を助けて回ろうと、私は修行の旅を始めたのです。ですから、これと言った目的地は無いのですよ」
「ナルホド……ナルホド?」
彼の目的に俺は納得しかけたが、それが少しおかしなことに気がついた。
困っている人を助けようというボランティア精神は良いことだと思う。
しかし、その際に修行をする必要はないのでは?
いやまぁ、してはいけないということはないし、彼の力を考えれば人助けの旅をしてくれるというだけで住民にとってはありがたいことだろうが。
それに彼は視界を塞いでいても、運動能力は全く落ちていない様に見える。
「強いて言えば、闇巡り自体が目的であると言えるでしょうか。この修行はたくさんの人に直接手を差し伸べられますから、数ある修行法の中でも私はこれが一番好きなのです。もう5度目になりますが、何度やっても飽きることがない」
「え、5度……?」
それも当然のことで、彼は今回の様な修行を、もう4度はこなしているらしい。
しかし確か、闇巡りは3年かかると言っていなかっただろうか?
3年が4度で12年はかかるはずだが、それだけをやっていたはずもないので、もっと時間はかかるはずだ。
彼は若く見えるが、一体何歳なのだろうか?
いや、一度完了した修行に毎回3年かけているとも限らないが。
それによく考えれば、この文化圏の1年が365日でない可能性もある。
「そうです、もう10年以上はやっていますね。あなたもどうです? 魔力の扱いが飛躍的に上手くなりますよ!」
取り敢えず確かであるのは、このアーリスマディオという神官は、間違いなく修行オタクであろうということだけだ。
趣味と実益が完全に同居している!




