053-遠き平和と美味しい食事
「ささ、どうぞお召し上がりください」
招待された他より大きめの木造家屋で、俺たちは板張りの床で藁で編まれた敷物の上に座って、食事を出されていた。
俺は例によって足を拭く布を貰い、綺麗にしてから板の間に上がっている。
その際に少しだけ言葉を交わしたので、言葉が不自由なことに対して村長には眉をひそめられたが、それも致し方ない。
俺も靴が履ければ良いのだが、持っているのは服だけであるし、何より靴を履いても強化して行動すると破損してしまうだろうから、履くことが出来ないのだ。
バルダメリアさんのように魔力が使えたら、服もまとめて強化して行動できるのだが、俺にはそれが出来ないのでどうしようも無い。
神官の青年も俺に魔力を感じないと言っていたし、この先も魔力を扱うことは絶望的だ。
「はい。大地の恵みと、村の方々の善意に、魔の力が祝福を齎さんことを」
「「魔の祝福があらんことを」」
ともあれ、今は出された食事を楽しむことに集中しよう。
俺以外の全員がしているように、五指を合わせて頭を下げて祈りのポーズを取る。
食前の祈りがあるとは初めて知ったが、神官と一緒だからこれをやるのだろうか?
「ははは、あなたは少し祈りが下手なようですね。後で教えて差し上げましょう」
「おお、神官様から直接教えていただけるとは、何とも羨ましいですな」
「で、デルミスには、アタシが教えます」
「そう遠慮なさらず。これから共に旅をするのですからね」
しかし俺のぎこちなさは見て分かるレベルであったようで、話のネタにされてしまった。
バルダメリアさんも口を出しているが、彼女の口調はいつになく硬い。
彼女はどうも、神官に怯えつつも、敵意が萎えているわけでは無いらしい。
こういうときに言葉が流ちょうであれば、フォローも出来るのだが。
今のところ、それは神官の青年のアドリブ力を当てにするしかなさそうだ。
◇◇◇◇◇◇
それから少しばかり食事を食べながら、神官と村長が談笑をしていた、その最中のこと。
村長が手を止めて、神官に何事かを切り出してきた。
「……時に神官様」
「はい?」
「この村も出来てからしばらく経ち、規模も大きくなってきました」
「そのようですね」
「はい。ですから、そろそろこの村にも、教会を建てたいと思うのです」
「ほう、それは良いことですね!」
村長の相談事は、村に教会を設置することであるらしい。
彼曰く、出来て間もない村には教会が無いらしい。
ということは、人の少ないところには神官が少ないと言うことだ。
当たり前と言えば当たり前だが、少しだけ良いことを聞いた気がする。
「つきましては、教会の建築に関して詳しい人物と、教えを説いていただける神官の方を紹介していただきたいのです」
「ええ、ええ。教会が出来れば、この村を中心として魔の導きが広がるでしょうからね!」
「おお、では?」
「勿論良いですとも。この地に教会が出来るのが待ちきれません!」
「いやまったく。その通りですな。ははは」
神官の青年はテンション高く、村長の提案を快諾した。
対して、村長の方は不思議と落ち着いた様子だ。
この差は何なのだろうか? と俺が不思議に思っていると、青年がスッと居住まいをただして口を開いた。
「はい。そしてそうなれば、この辺りの不埒物も手が出せなくなるでしょう」
「そっ……」
「良いことではありませんか。教会が出来れば魔導が広がり、人の領域がまた一つ大きくなる。村は安全になり、より大きく発展するでしょう」
彼の口調は極めて冷静で、酷く冷淡であった。
「ですが分かっていますね? 教会を建てるということは、魔導の道に貢献するということ。魔物との戦いに才あるものを差し出すということです」
「……承知しております。村人全員で決めた事ですので」
「結構」
俺たちを攻撃してきた時を思い起こさせるような、冷たさ。
その恐ろしさを思い出したのか、隣に座っていたバルダメリアさんが、俺の腕をぎゅっと握りしめてきた。
事情は知らないが、村長が治安の維持に魔導教会を利用しようとした、と言う事だろうか?
ただ、それにはどうも、大きなデメリットがあるらしい。
それを飲んででも魔導教会の力を必要とする辺り、よほど困っているようだ。
「では、それについては後で知らせを飛ばしておきましょうか。楽しみですねぇ、綺麗な教会が建つと良いのですが!」
神官の青年は話が終わると、またコロリとテンションが変わって、楽しげに食事を再開する。
「そう、ですな、ははは……」
この文化圏の神官とは、皆このように恐ろしげな人物なのだろうか?
バルダメリアさんの様子を見る限り、神官は尊敬はされているが、それは畏敬という種類のものであるようにも見える。
まぁ考えてみれば、魔導教会とは魔法という力で魔物と戦っている、ゴリゴリの武闘派集団だ。
そのような集団が、平和的思想を説いて回るような存在である訳がないではないか。
しかしそんな武闘派集団がこの文化圏最大の宗教で、こうして尊敬され、必要とされている。
今更ながら、この星は俺が思っていたよりも、かなり危険な環境にあるのでは無かろうか。
戦いなど無くなって、もっと平和になれば良いのに。
「ズズ……美味シい」
匙でスープをすくって啜りながら、俺はそんな事を考えていた。
勿論、力を使って味覚を付与しながらだ。
普段の食事より格段に味は劣るが、それでも物質的な暖かさのある食事というのは活力を与えてくれる。
こうした文化的な行為こそが知的生命体の営み。
ただ同時に、欲によって争う事も知的生命体の営みの一つだ。
争いはなくなって欲しいが、それは多分不可能な事なのだろうなぁ。
「ズズ……」
などと不毛な事を考えながら、俺はまた匙を口に運んでいた。
悲報、主人公はずっと素足だった。
分かりにくかったら描写不足で申し訳ない……。
しかしこの宗教怖いなぁ。
常時聖戦してる様なもんですね、この星の人類。
生存競争ー!




