052-神官青年の性格
「魔力を全く感じないのにその能力。とても、興味が湧きます」
目隠しをしているはずなのに、やはり俺を見ていると言うことが分かる。
それが何故なのかは分からないが、彼が俺に興味を持ってあるのは確かである様だ。
「神官様?」
「ですがまぁ、それは後にしましょうか。私はお腹が空きました。昼食にしますから、付いてきてください。……ああそれと、この獣は私が持っていきますね」
「あっ」
しかし彼は俺から視線を外すと、さっさと村の方へと歩き始める。
しかも途中で、俺たちが持ってきたイノシシを拾って。
何と言うか、随分と自由な人物だ。
彼が何を考えているのかいまいち分からないが、聞く時間はこれからいくらでもあるとか、そういうことだろうか?
何にせよ、彼は俺たちを逃す気はなさそうなので、俺たちはついていく以外に選択肢はないだろう。
「バルダメリア、サン。行キまショウ」
「……おう」
腕にしがみついているバルダメリアさんを促すと、彼女は不満そうに剣を剣帯に固定して、俺の腕を引っ張り始めた。
彼女はその最中、チラリと振り返って、俺を見上げる。
その表情は先ほどまでと違い、眉間にしわを寄せて眉尻が下がった、不安そうな表情だ。
「何、デスか?」
「……アタシが守るからな」
彼女はそれだけを言うと、俺の腕を両手で持ち直して、神官の後を追い始めた。
彼女の不安は分かる。あの神官がその気になれば、俺は碌に抵抗も出来ずに殺される可能性が高いだろう。
正直言って、俺も不安だ。
それに俺が殺される時には、彼女も先ほどのように一緒に抵抗してくれるに違いない。それ自体は嬉しいことだ。
だがそうなれば、彼女もまとめて殺されてしまうかも知れない。
つまり俺は、間違ってもあの神官の青年に敵対されるわけにはいかないのだ。
「ハイ」
だから俺は、今一度気を引き締め直して、彼の説得に当たらなければならない。
絶対に、失敗は許されないのだから。
◇◇◇◇◇◇
村の中に入って少し歩くと、たくさんの村人が集まっているところに出会した。
彼らは村の広場のようなところに集まっているようだが、何か行事でもあるのだろうか?
しかしその割には、皆一様に不安げな表情をしている。
そして俺たちがある程度近づくと、そこから何人かがこちらに向かって駆け寄ってきた。
「神官様、もう大丈夫なんですか!?」
「地面が凄く揺れたんですが、魔物はやっつけたんですか!?」
口々にその様な心配を口にするということは、彼らはこの神官の青年が、迫り来る俺という魔物から避難させた結果、ここに集まっていたのだろう。
この神官はどうやら、遠距離からでも魔物の存在を感知できるらしい。
もしもそれが魔導教会の共通した能力であるのなら、俺は彼らに知られずに近くを通ることはできないということだ。
これは厄介なことになった。
「ええ、もう大丈夫ですよ。脅威は無くなりました」
「おお、有難うございます!」
「神官様には何とお礼を言っていいか……」
「いえいえ、これも神の信徒の勤めなれば」
慇懃に会話して両手の五指を合わせる神官に、村人たちが頭を下げて礼を言う。
しかしその一方で、彼らはチラチラと俺とバルダメリアさんを見てきた。
何やら怪しまれているようだが、それも当然だろう。
神官やっていたのは人探しではなく魔物退治であるはずなのに、戻ってきたと思ったら人を、しかもこんな怪しげな見た目の男を連れて帰ってきたのだから。
しかもこの村は見る限り全員が黄色人種で亜麻色の髪。つまり単一民族で構成された集落である。
そう言った集団は往往にして、他人種に対して排他的になるものだ。
「ところで神官様、彼らは……?」
「ああ、そうでした! 彼らは魔物を探しに行った時に見つけたのです。危険な者たちではありませんでしたので、私が保護しました」
「おお、なるほど」
「でもそれって、そいつらが魔物を連れてきたってことじゃ……」
「ええ? それって……」
「これこれ、いけませんよ。彼らも必死だったのです。困ったものは助け合わなくては。彼らはこんな獣も狩ってきてくれたことですし、ね?」
神官は白々しくそう言うと、足元に降ろしていたイノシシを村人たちに手渡してしまった。
村人たちも現金なもので、肉がもらえると分かると、露骨に表情が喜色に変わる。
「神官様がそう言うなら……」
「まぁ、みんな無事だったわけだし、ねぇ?」
「そうでしょう? そんなことよりも、私はお腹が空いたのですが、どこか食事をいただけるところはありませんか?」
「あ、それなら村長がせめて食事をお出ししたいと言っていましたよ!」
「本当ですか? ええでは、早速伺わせてもらいましょう。村長はどちらに?」
しかしそんな村人たちよりも、この神官の方がよほどいい性格をしているようだ。
彼は何一つ嘘を言っていないが、誠実に説明もしていない。
俺は(彼にとって)危険ではなかった。(彼のせいで)俺たちは必死だった。
そして(自分が守り切れると分かったから)脅威はなくなった。
それは本当のことだが、村人が思う様な意味ではなかっただろう。
食事をさりげなく要求したこともそうだが、彼は全て理解して言っていると思われる。
この青年は思ったよりも遥かに強かで、我が非常に強いようだ。
「神官様、私が村長でございます」
「あなたが!」
村人たちの間から初老の人物が歩み出て、神官に祈りのポーズをしながら頭を下げる。
「はい。村の者が言った通り、食事に招待したいと……」
「そうですか、それは有難い。魔の導きに感謝しましょう」
「おお、来ていただけるのですね! では早速、ご案内いたします」
「分かりました。では2人とも、参りましょうか」
「え?」
「どうしました?」
「あ、ああいえ、何でもございません……」
村長は当然俺たちを招待する気はなかっただろうが、どう見ても立場が上の神官にそうして当然の様に振る舞われては、反対など出来まい。
まぁ、この青年なら反対されたところでゴリ押しするか、自分も辞退してさっさとどこかへ行ってしまうだろうが。
これは少々、説得には難儀するかもしれない。俺はそう考えながら、バルダメリアさんと一緒に2人の後をついて行った。
権力者ムーヴ。貴族みたいだぁ。
歴史、魔法パワー、権力。三拍子揃った魔導教会に敵はいないぜガハハ!
とおもーじゃん?
でもドミ村長は被害をいっぱい出してるって言ってたんだよなぁ。




