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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第三章 修行僧
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050-信仰の試練

 バルダメリアさんは両手の五指を合わせて(こうべ)を垂れ、震えながら叫んでいた。


「デルミスは違うんです! 人に仇なす男じゃないんです! だから、だから許してください!」

「ふむ?」


 よほど恐ろしいのか、あの強気のバルダメリアさんが、ただただ祈って懇願している。

 神官の男は流石に人間である彼女の言葉には耳を貸したのか、魔法攻撃をやめて、更に首を傾げた。


「しかし魔物でしょう?」

「でも、いい人なんです! アタシの弟分で、アタシが守らなきゃいけないんです!」

「守る? では、その魔物は人を殺めたことはないのですか?」

「それはっ……!」


 俺はこの世界に来て、いやこの世界に来る前から通して、人を殺したのはたった1人だ。

 ディンガードという、人間としてあまりにも品性下劣な男だった。

 だが相手が誰だろうと、俺が人を殺したことに変わりはなく、バルダメリアさんもそれを知っている。


 そして今この場において、彼女がそれに思い当たり、一瞬でも言葉を止めてしまったのは、あまりにも雄弁であった。


「あるのですね。では、やはり殺さなければ」

「クッ」


 スッ、と神官の手が上がり、また俺へと向けられる。

 俺はそれに対して、また避けるために『力』を頭に集め始める。

 どうすればいい。一か八か、壁に突撃してそのまま逃げてみるか。


 だがそれでは、バルダメリアさんを連れて行くことはできない。

 あの神官の様子では彼女を殺すことはないだろうが、しかし彼女の精神の安定も心配であるし、彼女が盗賊であることがバレた場合のことが不安だ。

 殺るしかないのか?


「待って! 違うんです、デルミスが殺したのは、アタシを!」

「問答無用です。では───」

「話を聞いて下さい、お願いだから!」

「……」

「聞けって言ってるだろ!!!」


 俺が物騒なことを考えて構えていると、バルダメリアさんが俺と神官の男の間に走り込んできた。

 その震える手には剣を構え、明らかに神官と敵対姿勢をとっている。

 これでは、彼女に危害が及んでしまうのではないか。


「駄目ダ!」

「デルミスは黙ってろ! アタシが何とかするから!」

「理解できませんね」


 神官の男が、右腕を外側へと開き、内側へと振る。

 あれは───不味い。

 その瞬間、俺が嫌な予感がして仰け反ると、眼前を左から右へ、極太の白光が通過した。


 その光に、避け損ねた左腕の手首から上腕の半ばまでが飲み込まれ、蒸発するように消え去るのを見ながら、俺はそのまま仰向けに地面に倒れ込んだ。


「『グゥッ、アッ』」


 最早、半分慣れたと言ってもいい様な痛みを感じる。

 三日前には右腕で、今日は左腕だ。

 あの晩、アルルゥも魔法を使う時、腕を指揮のように振っていた。


 彼女の手の先に魔法が生まれ、自在に敵を襲っていたあの光景。

 あれを見ていなければ、今ので俺は死んでいただろう。

 それにやはり、多少の『力』ではあの魔法は防げないことが分かった。


 全力であっても防げるのかは分からないが、常時全力であることが不可能である以上、あのような不意打ちを喰らっては防ぐことは不可能だ。


「デルミス!?」

「何故そこまで庇うのですか。魔物は人類の敵。寝物語で聞いたでしょう」

「あ、あぁ、クソォ……! アタシが、アタシの弟分を守って、何がおかしいんだよ!」


 倒れた俺を見たバルダメリアさんは絶叫を上げ、剣を構えて神官の方を向き直った。

 アレは不味い。彼女はやる気なのかも知れない。

 そうなればもう、話の余地は無くなるだろう。


 つまりこれ以上はもう本当に、問答の余地はない。


「『くっ』」

「おや」


 俺はパワーだけで強引に起き上がると、バルダメリアさんの左側へと飛ぶ。

 そして彼女の腰を押し込む様に抱え込みながら、右側の壁へと向かって突撃した。


「かはっ!?」


 バルダメリアさんには負担をかけてしまうが、この際それは仕方がない。

 俺はそのまま壁に向けて、全力の蹴りを叩き込んだ。


「『ハァッ!!』」


 ズン、と足が岩の壁にめり込み、壁全体に亀裂が走る。

 だが崩れない。

 それどころか、壁が逆再生でもするかの様に、亀裂が埋まっていくではないか。


「『くそっ!』」


 やはり逃げられない。

 振り向くと、神官の男はそれがわかっていたとでも言う様に、ただ突っ立ってこちらを見ている。

 舐められていると感じるが、それだけの実力差が俺とあの男の間にはあるのだ。


 逃げることすら叶わず、死ぬしかないとでも言うのか。

 だが俺が死ぬとしても、彼女だけはなんとか逃さなければ。


「『はあああああっ!!』」


 とりあえずそのために、俺は欠損した左腕に『力』を集中させて、左腕を再生させる。

 ある程度集中しなければならないが、今なら相手は見ているだけだ。

 その隙を存分に利用させてもらう。


「『はぁ、はぁ……』」

「ゲホッ、デル、ミス……」

「なるほど、いいでしょう。次で最後です」


 神官が告げると、彼と俺たちの間の中空に、ずらりと光の槍が現れる。

 部屋の右の端から左の端まで、下から上まで、びっしりと並び、向こうからこちらへ向けて切先を向けている。

 こちらにはバルダメリアさんがいるにも関わらず、容赦のないやり方だった。


「『何っ!?』」

「いきますよ」


 彼が手を前へ押す様なジェスチャーをすると、槍が急加速を始める。

 俺の右腕にはバルダメリアさんが抱えられており、俺にはあの槍の壁をどうにかする時間がない。

 このままでは2人仲良く串刺しだろう。


 俺は咄嗟にバルダメリアさんを両腕で抱え込む様にして庇い、槍に背を向けて、全身を『力』でできうる限り硬化させた。

 コレでダメなら、もう俺にはどうしようもない。

 だが、これでバルダメリアさんが死ぬようなことがあれば、あの神官は、俺が確実に殺してやる。


 串刺しにされた程度で、俺が死ぬことはないのだから。


「………………?」


 しかし、少しの間待ってみても、一向に背中に衝撃が来ない。

 不思議に思って振り向いてみると、そこには俺に触れるギリギリなところで、槍の壁が停止している光景が目に入ってくる。

 攻撃を止めた? 何故今になって?


 訳が分からないまま神官の青年を見てみれば、彼は俺たちの方に手を向けたまま、爽やかに微笑んでいた。

容赦ない縦横無尽ビーム。

その気になればオールレンジアタックとか出来そう。


ちなみにここは森の中を石で囲んだだけの場所なので、木々はボロンボロンです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘ビジュアルの想像できる良いシーン。 ラストで攻撃が止まったのを「もしかしてお頭が庇って貫かれた?」とヒヤヒヤしました。 [気になる点] 「いけ、フィ〇ファンネル!」(スパロボ風アニメー…
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