049-エンカウントホワイト
「お、見えてきたな」
血抜きの終わったイノシシを俺が背負い、歩いて歩いて小一時間ほど。
遠くの木々の切れ目に、木製の家屋がチラチラと見え出してきた。
あの家屋もやはり、日本家屋風なのだろうか?
「いいか、確認するぞ。あそこへ着いたらアタシが話をつけるから、デルミスは話さなくて良い。もし何かを聞かれても、口下手ってことで誤魔化しとけ」
「ハイ」
「心配すんなよ、アタシが守ってやるから。なぁに、堂々として大人しくしてれば、大体は何とかなるんだ」
バルダメリアさんはそう言いながら、ずんずんと村へ近づいていく。
しかし俺は不安であった。
前の村では初対面で魔物と看破されて殴りかかられたので、今度の村でそうならないと言う保証はないのだ。
まぁあの時はほぼ全裸で、尚且つ1人であったからそう決めつけられたのかもしれないが。
全裸で悪魔みたいな未開文明人……うん、ヤバそう。
「『エネルギーは……結構貯めてあるはず』」
何かあった時のために体内のエネルギーをなんとなく感じてみるが、かなり多いということしか分からない。
盗賊団のアジトを出てから、俺はエネルギーの蓄積を意識して、獲物になりそうな獣やら虫やらを積極的に狩っていた。
その殆どは動かない岩虫であったが、味や量は一切関係なく、15個分以上のエネルギーが蓄積されているように思う。
このくらいあれば、おそらく何があっても対応できるだろう。
「とりあえず誰か見つけて、泊まれそうな場所を聞き出さないとな……ん?」
もう少しで村に到着しようかという時、バルダメリアさんがふと横を向いた。
何に気付いたのかと思えば、そちらの方向にはいつの間にか人が立っているではないか。
村人だろうか?
「あ……?」
バルダメリアさんが疑問の声を上げるのも無理はない。
その人は真っ白な青年(?)であった。
短い白髪で、白い街灯を羽織り、白い服を着て、白い靴を履いている。
また、背は高いが、顔の作りがどことなく女性っぽい。
そんな頭のてっぺんから足のつま先まで真っ白で、尚且つ中性的という特徴的な人物ではあるが、もっと特徴的なのは、彼が目隠しをしていたことだ。
目のところに包帯か何かを何重にも巻いており、とても目が見えているとは思えないのに、彼は明確にこちらを、俺を見ていることが分かる。
そして彼の人物は俺を呼び止めるかのように、ゆるりと片手を前に出した。
「デルミス!!!」
バルダメリアさんの叫ぶ声と、視界に白い円が生まれたのはほぼ同時であった。
彼女が飛びつくように俺を押し倒して、その直後に、先ほどまで俺が立っていたところに白い柱のようなものが通過していった。
何事かと考えて、遅れて状況を理解する。
今俺は、魔法か何かで攻撃されたのだ。
それが証拠に、先ほどの白いものが通過したところにあった木々は、まるでアニメで見たビーム兵器が通過したように削り取られ、チリチリと赤熱していた。
「おや?」
白い人物は不思議そうに首を傾げているが、冗談ではない。
アレはどう見ても、人間相手にそうポンポンと使って良い攻撃ではないだろう。
俺たちはすぐに立ち上がると、俺は拳を構えて対峙し、バルダメリアさんは一歩引き下がった。
「デルミス、逃げるぞ!」
「エ?」
「お待ちなさい。何故あなたは魔物の味方をするのですか?」
バレている、何故!?
血は流していない。やはり何か見分ける方法でもあるのか?
いや、彼は“見て”いるのかどうかさえも不明だ。
何も分からないが、あの人物が恐ろしい攻撃を使うということだけ分かっていればいい。
「デルミス!」
「ハイ!」
そしてバルダメリアさんが逃げるという選択をしたのなら、俺もそれに従おう。
あんな肉体を硬化しても防げるかどうかも分からない攻撃をする相手と、進んで戦う趣味はない。
「お待ちなさいと言っています」
しかし白い人物が手のひらを下に向けると、地面に衝撃が走り、周囲が一瞬にして岩の部屋に囲まれてしまう。
天井まであり、周囲は真っ暗になるが、俺には全て見えている。
だがバルダメリアさんには何も見えなくなっただろう。
「何だ!?」
「ふむ……」
幸いにも、白い人物はすぐに光球を掌の上に出し、周囲を照らしてくれた。
どうやらあの人物は魔法名なしに魔法が使えるらしい。
あれが攻撃の魔法だったら、俺たちはやられていたかも知れない。
「クソォ、神官様がなんで、こんなとこに……!」
悔しそうに、バルダメリアさんが叫んだ。
神官。神に使える人。
この世界の宗教で俺が知っているのは、ドミ村長が言っていた、魔導教会とやらだ。
その信徒は魔法を崇め、魔物に敵対的であるという。
なるほど、それならば確かに、強力な魔法を使うことなど当たり前だろう。
彼らはその魔法を崇め求め、その力で以て魔物という人にとっての脅威を取り除いているのだ。
ドミ村長が警告してくれたのも頷ける。
ディンガード1人を仕留めるのに苦労した俺が、そのような求道者に殴りかかって、果たして勝てるものだろうか。
「そこの魔物のあなた、今喋りましたか?」
「ハ、ハイ」
「そうですか。言葉が通じるのですね」
あの神官は思ったよりも冷静であった。
会話ができるのなら、攻撃をやめてくれるかも知れない。
そんな希望が俺の中で湧き上がってくるが、彼はその手を下ろしてはいない。
「しかし魔物は魔物。死んでいただきましょう」
「待ッテ!」
そして俺の生死の言葉は聞き入れられず、神官の手から先ほどの白光が飛んでくる。
1発、2発、3発と間を開けて撃たれるそれを、俺は思考を加速して回避していく。
速いは速いが、銃弾や雷ほどではない。
それに彼は俺だけをターゲットにしているらしく、バルダメリアさんは狙われていないので、安心して回避に集中できる。
また、回避するついでに背後を確認してみたが、穴の一つも空いていなかったので、なんらかの手段で壁への被害を防いでいるのだろう。
彼は俺を逃すつもりはなさそうだ。
なのでとりあえず、俺は彼に対して説得を試みることにした。
「話シ、聞イて、下サい!」
「ふむ」
しかしあの神官は顎に手を当てて何事かを考え込むような仕草をするものの、もう一方の手で相変わらず魔法を放ってくる。
「神官様! 待って! お願いします、待ってください!!」
話が通じているようで、全く話が通じていないような不安に俺が駆られた時、バルダメリアさんの声が、薄暗い岩壁の中に大きく響いた。
この白い神官様は最初女の子にしようかなと考えていたんですが、なんかそれだとつまらないな、と思ったので男になりました。
中性的な美青年ビィーム!!




